表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/118

第35話 聖剣

フルコンプリートがレンタルしている体育館

その床に、息も絶え絶えの郷間兄妹が転がっている。


「……うぅ……きついぃ……」


「……はぁ……はぁ……死ぬ」


今日は特に楽しくもない、郷間達の訓練の日だ。


「いや、全然それぐらいじゃ死なんよ」


『義妹を育てろ!エンジェルハニー♡完全版』を、俺はまだプレイしていない。

其方に移るには、まず先に据え置き版を終わらせなければならないからだ。

途中で放り出して、同系統とは言え別の物に移るなどゲーマーの名折れだからな。


はやる気持ちを押さえつつも、ピリンとの楽しい日々を堪能。

もう残すは彼女とのメガハッピートゥルーエンドのみ。

正にリーチ状態。


早くピリンとの素敵なエンディングが見たい。

そして早く発売前のゲームがしたい。


そんな思いからか、無駄に時間の取られる今日の訓練には少し恨み……じゃなく、熱が入ってしまっていた。


……ま、しょうがないよね。


「蓮人……30分休憩を……」


「安心しろ。今回復してやるからな」


「……っえ?」


以前までなら休憩を挟んでやっていたが、今回からは違う。

何せ水の精霊の力があるからな。

俺は素早く魔法を唱え、アクアスを呼び出す。


「お呼びでしょうか、マイロード」


「ああ、郷間の奴を回復してやってくれ」


彼女には他人の体力を回復する力がある。

便利な能力だ。


「お任せください」


アクアスが郷間に手を翳すと、彼女の手から優しい青い光が注がれ、奴の消耗を急速に癒していく。


「すげぇな。おい」


「元気になったな。じゃ、特訓再開だ」


「え!?」


下らん特訓にいつまでも付き合うつもりはないからな。

郷間にはチョッパやで強くなって貰う。

そのための回復だ。


「アクアス。凛音の方も回復してやってくれ。とは言え、凛音の方は10分休憩だ」


凛音はいつも通りで行く。

そもそも彼女には、攻撃用の能力があるからな。

郷間の様に急造する必要は無いのだ。


「わ、私もやります」


回復した凛音が起き上って来る。


「体力は回復しても、連続は精神的に辛いぞ」


体力は回復しても、疲弊した精神はそんな急に回復する物ではない。

当然心は疲弊したままである。


「大丈夫です!私も強くなりたいから!」


大した根性だ。


「やれやれ。俺も兄として、妹にゃ負けるわけにはいかないからな」


頑張ろうとする妹を見て、郷間の奴も奮起する。

いい傾向だ。

同じ様に訓練しても、やる気の有無でその成果は大きく変わって来るからな。


「いいぞ!その根性だ!やる気だけが限界を超える糧となる!」


これは俺の剣の師匠であった、剣聖グラントの言葉だ。

まあ受け売りって奴だな。


師匠には本当に色んな事を教わった。


戦う者の心構え。

剣の扱い。

戦場での戦い方。


緊急時に食べられる物の見分け方――は、あんまり役に立ってないか。

そこはかなり大雑把だったからな。

口に入れて舌が痺れたり溶けたりしたらそれは毒だとか、そんなもん習わなくても分るっての。


――そんな師匠の最後は、魔王を倒すための聖剣に命を吹き込む事だった。


神代の時代に世界を救ったとされる、伝説の聖剣。

その名すら失われた剣は、長き時間の流れの中で力を失いさび付いていた。


その聖剣を蘇らせるため、師はライバルであった剣帝カリバルと聖剣の復活の義――決闘を行っている。

2人の凄まじい戦いが錆び付いた聖剣に命を吹き込み、そして……剣聖と剣帝、二人の達人が命を捧げる事で剣は力を取り戻した。


――世界を救うための希望の聖剣。


それを俺に託し、二人は息絶える。

だがその剣も、今や魔剣と化していた。


――俺の怒りと憎しみによって。


師匠達が命を賭けて再生させた剣を穢してしまった事を、申し訳なく思わなくもない。

だが、恐らく聖剣のままだったなら、俺は魔王に勝ててはいなかったはず。

だから二人もその事を怒ったりはしないだろう。


寧ろ師匠なら、今の俺の自堕落した姿の方に怒り狂う気がする。


そんな事を考え、俺は苦笑いした。

そしてエギールレーンから渡された指輪を見る。


その中に収められている魔剣――喰らう物(グルメ)に、師匠達の魂など籠ってはいない。

剣はどこまで行っても剣でしかないのだ。

だが俺は指輪からそれを取り出し、かつての師に挨拶するかの様に握りしめた。


「お、おい……まさか訓練にその剣を使うつもりじゃないだろうな?」


それを見て、郷間が焦った様に顔を引きつらせた。

勿論訓練でこんな物を使う気はない。


だが俺はニヤリと笑って――


「ここからが本当の特訓(じごく)だ」


郷間を意地悪く脅してやった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自作宣伝
異世界転生帰りの勇者、自分がいじめられていた事を思い出す~何で次から次へとこんなにトラブルが起こるんだ?取り敢えず二度と手出ししてこない様に制圧していくけども~
異世界から帰って来た主人公が、ふざけた奴らを力で無双制圧して行く話になります
素行不良で僻地に追いやられた第4王子、自分が転生者だった事を思い出す~神様から貰ったランクアップで楽々領地経営~
王家から追放された無能な第4王子が転生者である事を思い出し、神様から貰ったランクアップのチートで自領を発展させつつ面白おかしく生きていくお話
最強執事の恩返し~転生先の異世界で魔王を倒し。さらに魔界で大魔王を倒して100年ぶりに異世界に戻ってきたら世話になっていた侯爵家が没落していました。お世話になった家なので復興させたいと思います~
魔界で大魔王を倒して戻って来た勇者は、かつて転生者だった自分を育ててくれた侯爵家が没落した事を知る。これは最強男勇者が執事となって、恩返しとして侯爵家の復興に尽力する物語
― 新着の感想 ―
聖剣に魂を込める、か ラングリッサーを思い出すな
[一言] 異世界の思い出がトラウマしかない件w
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ