第34話 レベリング道場
姫宮の扱う剣は6種類。
炎属性・氷属性・風属性・土属性の4属性の宿った剣に、属性無しの破壊力重視の物。
それとダンジョンで使っていた、探索能力を持った剣を合わせて6種だ。
それを彼女は2刀流のスタイルで巧みに扱う。
通常、剣を2本同時に扱う2刀流で戦う者は少ない。
と言うか殆どいない。
その最大の理由として上げられるのが、パワーやスピードに難が出るという点だ。
両手で振るのと片手で振るのでは、どちらが上かなど考えるまでもないだろう。
利き手でない方は、それが特に顕著になる。
ハッキリ言って、手数が増えても一撃当たりの速度が落ちてしまっては意味がない。
威力が落ちれば攻撃を簡単にいなされ、場合によっては敵にダメージ無視のカウンターのチャンスを与える事にもなる。
そう考えると、俺なら絶対2刀流は選択しない。
そして剣を扱う者ならば、大半の者が同じ考えに至るはず。
だから2刀流は、その使い手が殆どいないのだ。
――もっとも、それは通常の剣を使った場合の話ではあるが。
姫宮の剣には身体能力を強化する効果があった。
そのため、2刀を手にする事によるパワーや速度の低下は、2本目の剣の効果でかなり相殺されている――完全ではないが。
更にその動き――
通常の剣技と2刀流では、動きが全く違って来る。
別物と言っていい。
にも拘らず、姫宮の動きは全くスキのない完璧な達人級の動きだった。
その見惚れるばかりの流れる様な戦い振りは、流石天才としか言いようがない。
とは言え――
「ぐっ!」
俺は手にした水の剣で、姫宮を弾き飛ばした。
これはアクアスの能力で産み出した武器だ。
以前は剣なんて出せなかったが、パワーが上がった事で出来る事が増えていた。
「まだ……」
姫宮はもうボロボロだ。
彼女の動きは素晴らしかったが、それでもやはり俺の敵ではない。
世には柔よく剛を制すなんて言葉がある。
だがあれは、柔側に最低限の力がある事が大前提だ。
本当に非力なら、残念ながら何もできないのが現実である。
そして姫宮には、俺を倒すだけの最低限のパワーは備わっていなかった。
アクアスを憑依させた事でパワーアップしている今、それは顕著だ。
多分今の俺は、異世界にいた時と遜色のない力――1年間だらけてたせいで、かなりパワーダウンしてた――を発揮できている筈。
ぶっちゃけ、姫宮程度では真面な戦いにもならない。
……まあ彼女の目的はレベルアップだから、別に俺に勝つ必要は無いが。
「はっ!」
「ふん!」
俺は突っ込んで来た姫宮の連撃を、手にした水の剣で受け止め弾く。
彼女の両手から離れた剣が、空中で霧散して消える。
「諦めるか?」
「まだ……私は……私は強くなる!!」
寡黙な姫宮が、珍しく裂ぱくの気合を吐き出した。
その瞬間、彼女の両手が輝き――
「新しい力か……」
その両手に、光る一振りの長刀が生み出される。
先程まではなかった剣種だ。
新しく生み出された刀――つまりそれは姫宮のレベルアップを意味していた。
「……上がった。新しい刀を……試させて」
「ああ、いいぞ」
新しい力が手に入ったら、試したくなるのが人情というもの。
それぐらい付き合ってやるさ。
「……いく!閃光刃!」
姫宮の手にした剣が強い光を放つ。
彼女はそのまま剣を力強く大上段に振り上げ、俺に向かって鋭く振り下ろした。
「ふっ!」
その一撃を、俺はアクアスの剣で正面から受け止める。
相当なパワーだ。
衝撃が全身を駆け抜け、俺の足元――地面が弾け飛んだ。
「台場以上のパワーだな」
今の一撃で、俺の足元から広がる様にクレーターが出来上がる。
かなり頑丈な材質だそうだが、姫宮のパワーには耐えられなかった様だ。
「……ん?」
姫宮の手から刀が消え、彼女はそのまま此方へと倒れ込んで来た。
俺はそれを慌てて受け止める。
どうやら、相当消費する大技だった様だ。
≪意識を失っているだけです。命に別状はないかと≫
アクアスが姫宮の状態を報告してくれる。
≪周囲には分からない様、体力を回復させる事も出来ますが。いかがいたしましょう?≫
元々の水の精霊の能力は、俺の自然回復力をほんの僅かに上げる程度の力だった。
どうやらパワーアップした今は、他人の体力の回復なども出来る様だ。
≪ああ、頼む≫
≪了解しました。マイロード≫
俺の両手が微かに光る。
そこから姫宮の体にエネルギーが染み込んで行く。
「姫!」
「姫宮さん!」
「ん……」
衛宮姉妹が血相を変えて駆けつけて来る。
その大声で、姫宮は目を覚ます。
回復は結構高速だな。
これなら、郷間への週一の特訓も捗りそうだ。
「少し……力を使い過ぎた……」
「もう、びっくりさせないでよね!」
「平気そうで良かったです」
やり取りを見ていると、3人の仲の良さが良く分かる。
果たして俺が倒れたら、悪友である郷間はこんなに血相を変えて駆け付けてくれるだろうか?
まあ俺が倒れる様な状況であいつが側にいたら、絶対先に死んでるから、考えるだけ無駄な気もするが。
「さて、次はお前らだな。二人同時で構わないぞ」
2人はコンビプレイが売りだ。
バラバラに相手するのも面倒くさいので、同時に相手する事にする。
「ふん、余裕じゃない。吠え面かかせてあげるわ」
「よろしくお願いします」
衛宮姉妹との勝負は、まあぶつかり稽古の様なもんだ。
空を飛んで突っ込んで来る二人を、こっちは体当たりで弾き飛ばすという極極シンプルな戦いである。
半キャラずらし?
そんな物は不要だ。
数十回ぐらい弾き飛ばした所で二人のレベルが7に上がり、ミッションは終了する。
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