第17話 王
「魔王め!ピリンから汚い手を離せ!」
魂の咆哮。
愛する者を守る為、俺は立ち上がる。
そう!
俺は全てを投げ打ち義妹を救う!
「正気か?」
「ぬ……」
気づいたら郷間が勝手に部屋に入って来ていた。
俺とした事が、ゲームに興奮するあまり奴の接近に気づけなかったぜ。
「なんか用か?仕事の話なら……帰れ!俺は今超絶忙しい」
「そうぽんぽんダンジョン攻略なんてやらねーよ」
3連続でやらせておいてよく言うぜ。
「違うのか?じゃあ一体何の用だ?」
「今日は報酬の話だよ」
「報酬?」
「ああ、振り込むから口座教えろ」
どうやらちゃんと給料を支払う意思はある様だ。
こいつの事だから、てっきり全部ボランティアって言うのかと思ってたぜ。
「んなもん手渡しでいいぞ」
口座登録とか面倒くさいだけだ。
どうせ大した額ではないのだから、手渡しが手っ取り早くていい。
「……お前馬鹿だろ?億単位の金なんか手渡せるわけねーだろうが」
「はぁ?億ぅ?」
何言ってんだこいつ?
八百屋とかでよく使われるネタのあれか?
「お釣り何億円ね」的な。
「はぁ……前回のあのダンジョン、Bつっただろうが」
終わってから聞いた話だが、アレはBクラスダンジョンだったらしい。
かなり楽勝だったので、この様子ならたぶん、Aクラスでも余裕だと思う。
ま、別に行きたい訳じゃないが。
「購入額は破格だったけど、クリスタルとかの販売額は通常だったからな。レアドロップもあったし、経費込みで今回は8億も利益がでてんだよ」
「え?冗談だよな?」
「金の話じゃ嘘はつかねーよ」
「……マジで!?」
嘘みたいな金額に思わず声を荒げてしまう。
ダンジョンクリアに1時間程度しかかかっていないので、時給8億だ。
滅茶苦茶にも程がある。
「で、だ。うちは基本会社と攻略者とで半々。つまり、今回の蓮人への報酬は4億って事になる。手渡しできると思うか?」
「そりゃ……無理だな。つか、5割もくれるのか?」
中卒とは言え、会社が利益の大半を持っていく事ぐらい俺だって知っている事だ。
それが半々とか、扱いとしては破格に思える。
「能力ありきの仕事だからな。サラリーマンとは訳が違うのさ」
そう爽やかに言い切った郷間が、少し格好よく見えるから困る。
生意気な。
しかし4億か……
「それだけあるなら、もう一生働かなくてもいいな」
俺はニヤリと笑う。
一般的サラリーマンの生涯年収が3億ちょいとらしいので、これで心置きなく生涯ニート街道を驀進できるという物。
「おいおい。お前の能力ならその何倍――いや、何十倍も稼げるぞ。その程度で満足するなよ」
「俺はお前みたいな守銭奴とは違うんでな、ささやかな幸せで十分だ」
ゲームと毎日がホリディ。
それ以上を望むべくもない。
ビバニート!
「まったく……いくら金があっても、ずっと家でゴロゴロしてたらおばさんに絶対どやされるぞ?」
「ふ、そんな物。札束で頬を軽く叩いてやればイチコロよ」
「お前は自分の母親を何だと思ってるんだ?」
「冗談だよ」
確かにいくら金があっても、母は五月蠅そうだ。
人の入れた金でブランド品を買うような人物だが、あれで案外真面目だからな。
年がら年中ごろごろしてたら、働けダメ人間とけつを蹴っ飛ばされるのは目に見えていた。
「やれやれ。金があってもだらだらできないとか、世の中儘ならないもんだ」
親の意思をガン無視できる程、俺も親不孝者じゃない。
どうやら、生涯労働に勤しむ必要がある様だ。
そう考えると溜息しか出ない。
「そんなもんだ。でもまあ、金があればソシャゲとかにつぎ込めると思えば少しは頑張れるんじゃないか?そのゲームだって、課金要素あるんだろ? 」
「ぬ……」
画面内では現在の妹――ピンク髪のピリンが変な魔王に襲われている状態だった。
彼女はフリフリの可愛らしいドレスを身に着けているが、それはプレーンな物で、課金すれば色や格好を好みの物に変更する事が出来る。
これまでは高くてピンポイントでしか手が出せなかったが、確かに金さえあれば……
「まあそうだな……」
可愛い妹達のカスタマイズ。
そしてソシャゲでガチャが引き放題。
何と魅力的な事か。
「とりあえず、暫くは頑張るか」
まあどっちにしろ、郷間の会社が軌道に乗るまでは手伝うつもりだったしな。
本格的に働くかはこの際置いておいて、暫くはがっつり稼がせて貰って損はないだろう。
豊かなゲームライフの為にも金はあればあるほどいい。
ん……待てよ。
その時、ふと気づく。
がっつり稼げるのなら、それを元手にゲーム会社を立ち上げられるのではないかと。
最高のギャルゲーを自分の手で……
そんな妄想が頭の中を駆け巡る。
いい!
凄く良いぞ!
我ながら名案だ!
「郷間!ゲーム会社作るのって、いくらぐらい金が要るんだ?」
「さあ?まあでも何億かあればできるんじゃないか?つか、まさかお前……」
「おう!俺はギャルゲーの王になる!!」
ゲーム会社を設立して、最高のギャルゲーを世に生み出す。
その時、俺はギャルゲーの王となるのだ。
「お大事に」
郷間が、凄く残念な生き物を見る様な目を向けて来る。
どうやら奴には、俺の偉大な野望が理解できない様だ。
かつてのゲーム仲間の凋落した姿に一抹の寂しさを覚えつつも、俺は自分がこの世に生まれてきた意味を噛み締める。
そう、俺はもう一度宣言する。
拳を突き上げ。
魂の慟哭を全力で。
「俺はギャルゲーの王になる!!」
「ちょっと蓮人!さっきから何奇声出してんの!ご近所迷惑でしょうが!!」
母に怒鳴られた。
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