第127話 ノスタルジー
「ふむ……駄目だな」
あの後。
やかましい女性陣——特に玲奈――を適当に流しつつ、ニャンニャンのスキルを習得できる様にし。
実は俺の正体を漏らしたのが輪廻だったと判明したので、郷間をぶっ飛ばし。
え?
もらしたのは郷間じゃなかったのに、なんでそっちを殴ったのか?
あいつが『妹を罰するなら代わりに俺にしろ!』って言ったから。
その言葉通り激しくぶっ飛ばしただけである。
正に望み通りって奴だ。
まあこれが兄として、純粋に妹をお思う行動だけだったなら、俺も殴らなかっただろう。
だが、残念ながら違う。
あいつはついでに格好いい所を見せて、クレイスの気を引く気満々だったからな。
それが俺に見抜かれないとでも思ったのだろうか?
本当にどうしようもない奴である。
で、ニャンニャンのスキル。
【鋼鉄の精神】を習得すべく、それ専用のクリスタルを生み出し精神統一していた訳だが……
習得失敗だ。
「心を落ち着かせるのがこんなに難しいとはな」
スキルの習得は、簡単にできる物もあれば。
物凄く手間のかかる、複雑な条件を満たす物がある。
で、鋼鉄の精神は後者だ。
その条件は、心を無にする事。
ああ、言っとくけど、何も考えず頭を空っぽにするのとはまた違うぞ。
煩悩を捨てる無我の境地……とまではいかないが、無にするには、精神を完全に静止させた、水面に波紋一つない状態にしないとならない。
これが難しいんだ。
特に、今の俺にとっては。
「魔王というプレッシャーを完全に跳ねのけて、というのはまあ簡単ではないでしょうな」
そう、今この世界には魔王がいる。
そして俺は、絶対に奴に勝たなければならない。
その思いは、言ってしまえば焦りだ。
そんな焦りを、俺は心から完全に追い出せずにいた。
だからスキルの習得が上手くいかないのだ。
「気が弱いんだよ。勇者の癖に情けない」
フレイスに辛辣な言葉を投げかけられる。
これに返す言葉はない。
実際、魔王との戦いが心の重荷になってしまってる訳だからな。
気が弱いと言われても仕方ない事だ。
世界の命運を背負って、その上で『負けたら負けたでしょうがない』と笑い飛ばせるような豪気さは俺にはないからな。
いやまあ、そういう性格はそういう性格で、人格面に大きな問題がある気もするからあれだが。
「明鏡止水をは習得できてないのが痛いな」
明鏡止水というのは別にスキルではない。
いついかなる時でも揺らぐ事のない、精神コントロールの極致の状態を指す言葉だ。
師である剣聖グラントはこの境地にまで到達していたけど……弟子だった俺は、そこに至れずじまいなんだよな。
至れなかった理由は二つ。
まず第一に、心がささくれる様な戦い戦いの日々だったってのがある。
異世界じゃ、訓練オア戦いって感じだったからな。
殺伐とした戦い日々の中で、真面に心を鎮める間もなかったってのに、そんな精神状態に至れる訳もない。
で、もう一つが――圧倒的時間不足だ。
師匠が明鏡止水の域に達するのには、20年ほどかかったそうな。
肉体や技術的な成長速度ってのは、才能によって大きく変動する。
だからこそ勇者だった俺は、短い期間で強くなることが出来た。
だが精神はそうじゃない。
資質や才能による明確な差なんて物はなく。
ただただ、ひたすら積み上げていかなければならないのだ。
精神修養ってのは。
まあ何が言いたいのかと言うと、たった5年で至れる訳がねぇだ。
状況も悪いのだから猶更である。
「まあ明鏡止水を短期間で習得するのは、無理がありますからな。しかし、心から不安や焦りを取り除くだけならそれほど難しくはないですぞ」
「なにか案があるのか。フーガ」
「ふぉっふぉっふぉ。要は……人生を楽しめばよいのです」
「人生を楽しむ?」
「本当に楽しい事をしている時、人間は不安や焦りから解放される物。そしてその瞬間を狙って、勇者殿と融合したわしがスキルを捻じ込めばスキルを習得できるはずじゃ」
「なるほど……」
一理ある発言だ。
エンジェルハニーをしている時の俺には、勝手に全クリしやがった魔王への対抗心と怒りこそあった物の――因みにデータは全消去して1からやり直した。魔王の獲得したトロフィー消せなかったが――ゲーム自体は純粋に楽しめたし、そこに焦りや不安はなかった。
そう、やはりギャルゲーこそ最強にして試行。
「ならもう一度エンジェルハニーを……いやでも、この前完全攻略したばっかりだし……」
俺は、一度完全クリアしたギャルゲーは二度としない。
等という事はないのだが、再度プレイするなら、出来れば間を開けたいタイプだ。
連続してやってしまうと、どうしても作業感が出て仕舞うから。
だから、大事な思い出を引き出すような、そんなノスタルジックな感覚を感じられるだけの間が欲しかった。
数十年とは言わないが、せめて数年は。
なので正直、今もう一度プレイしても、心から楽しめる自信がない。
それはギャルゲーへの冒涜になるし、そんなプレイじゃ、決して心を鎮める事は出来ない筈だ。
「ふむ……何か別のゲームでも探すかな」
とはいえ、めぼしいゲームは帰還してから殆どやりつくしてるからなぁ。
かと言って、つまらなさそうなのや、評価の低いゲームをして楽しめつかと言われると……
「はいはいはい!名案がありまぁす!」
悩んでいると、クレイスが嬉しそうに手を上げる。
「どんな案なんだ?」
あんまりオツムの良い奴ではないので、ちょっと期待はできないが一応聞いてみるが――
「私と、サーヤと蓮人様でぇ……魔法少女3人組ごっこをしましょう!」
―—時間の無駄だった。
「却下」
「えぇー」
そもそもとして、魔法少女は習得していても俺は変身できない。
あの能力、魔法少女への強い愛がないと使えないとかいう、欠陥ポンコツ仕様のスキルだからな。
まあ仮に使えたとしても、クレイス達とごっこ遊びに興じるつもりは更々ないが。
「まあ魔法少女ごっこは兎も角として、友人と楽しく過ごすというのは悪くないでしょう」
「友人と楽しく過ごすねぇ」
ぱっと思い浮かぶのは郷間だ。
が、全く思い浮かばない。
アイツと楽しく過ごしている、自分の姿が。
学生時代は純粋にばかやり合って楽しくはあったんだが、お互い結構な時間を別々の環境で過ごして来たからなぁ。
もうだいぶ感覚が狂っちまってる。
特に大きいのが、あいつはもうゲームをほとんどやっていない点だ。
ゲームを捨てた郷間に、人としての価値などもはやない。
正に落伍者。
そんな奴と、一体何をして遊ぶと言うのか?
まあというのは冗談だが。
遊べば、それなりに楽しく過ごせるとは思う。
思うが、不安を払拭できるほど熱中して楽しめるかというと、な。
という訳で却下だ。
「魔法少女ごっこ、楽しいですよぉ」
「却下だ」
諦めの悪い奴である。
「どうしたもんかねぇ。郷間と遊ぶのも、新しいゲームを探すのも、どっちも微妙なんだよなぁ」
「ふぉっふぉっふぉ。でしたら、あの衛宮という姉妹とではどうですかな」
「玲奈達?」
「幼馴染で趣味も近い相手なら、デートの相手にもってこいでしょう」
「デートぉ?」
俺はフーガの言葉に顔を歪める。
姉の玲奈と趣味が近いのは認めよう。
そして幼馴染も、まあ百歩譲ってそうだとする。
しかし。
しかし、だ。
大きく分別するとロリババアに属するであろう、あの生意気な玲奈とデートなど、一体何が楽しいと言うのか?
取りあえず、今の俺と玲奈が並んで歩く姿を思い浮かべてみた。
浮かぶのは子供二人で歩き……最終的には、意見が分かれて取っ組み合いの喧嘩をし出す姿だ。
うん、絶対成立しねぇ。
そもそも、俺は3次元には興味がない。
そして玲奈も間違いなく、デートなどオーケーはしないだろう。
「それも却下だ」
「そうですか」
「あれも嫌。これも嫌とか子供かよ」
「子供ですが何か?」
中身は兎も角、見た目は子供だ。
なので、フレイスの苦情に乗っかる形で軽く流しておいた。
フレイスが俺に辛辣なのは、どうやら何か事情があるらしい。
けど、クレイスやフーガに聞いても、内容は教えてくれないんだよな。
一体どんな事情があるのやら。
ま、実害がないから別に放っておくけどさ。
「けどまあ……玲奈に連絡を取るのは悪くないかもな」
ああ、言っとくけど、デートに誘う訳じゃないぞ。
あいつなら、俺の知らない隠れた名作ギャルゲーを知っている可能性があるからだ。
なにせ俺のいなかった空白の5年間も、休むことなくギャルゲー道を邁進し続けた女だからな。
きっとあいつなら、俺のまだ見ぬ素敵ギャルゲーを知っているに違いない。
そう判断した俺は、ダンジョンから出て、衛宮玲奈へと電話するのだった。
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