第120話 ユメカラサメナサーイ
「あん?なんだって?」
訓練中、また郷間から電話がかかってきた。
一体なんだと煩わしく思いながらも電話に出ると――
「いやだから、ちょっとした手違いでだな……衛宮さん達にお前の正体が……まあなんだ……そのあれだ……バレてだな……」
―—我が友からの残念な報告だった。
まったく。
こいつは本当に。
口にチャックでも縫い付けてやろうか?
「いや、もちろんわざとじゃないんだぞ。だからな……」
「ああ、もういいよ。言い訳しなくても、別にそんな怒ってないから。ただちょっと……そう、ちょっとだけ……果てしなく呆れてるだけだ」
我が悪友の世界レベルのやらかし速度に。
「う、すまん」
まあバレてしまった物はしょうがない。
元々、偽装は面倒くさいのを避けるためにしていただけだし。
だから衛宮姉妹にバレたからと言って、特段大きな影響はないのだ。
女だと騙っていたのがバレて恥ずかしくないのか?
まあちょっとはな。
けど、気にするほどの事でもない。
あんなもん、言ってみれば単なるコスプレみたいなもんだし。
「で、用件はそれだけか?なら切るぞ。俺は忙しいんだ」
特に重要な内容でもなし。
衛宮姉妹の事は後回しでいいだろう。
あいつらが、一々俺の正体を吹聴するとも思えんからな。
「え?あ……ち、ちょっと待ってくれ。玲奈さんが――」
「ちょっと!何電話切ろうとしてるのよ!」
スピーカーから玲奈の大声が響く。
どうやら郷間からスマホを分捕った様だ。
内容を把握してるって事は、スピーカー機能オンにして喋ってやがったな。
郷間の奴。
「よう。何か用か?」
「何か用かじゃないわよ!よくも私達の事を騙してくれてたわね!」
「生きてりゃ、秘密の一つ二つは抱え込むもんだろ?全てをオープンにして生きてる人間の方が少ないと思うぞ」
なんでもオープンにするのは、ただのアホの子である。
人は誰しも、自分だけの秘密を抱えて生きる物だ。
そしてそれが人生という物。
うん、我ながら哲学的思考だ。
たぶん。
「屁理屈垂れてんじゃないわよ。電話越しじゃ話にならないから、さっさと事務所に来なさい」
俺の言葉を屁理屈の一言で済ませやがった。
まあ確かに、完全に屁理屈として使った訳だが……引っかからないとか、流石我が修正のライバルだけはあるな。
「事務所で待ってるからね!」
玲奈が言いたい事だけ言って電話を切ってしまう。
無視して訓練を続けてもいいんだが……
「無視したら、絶対後でギャーギャー喚くよな」
果てしなく煩わしそうだ。
これだから3次元の女は駄目なんだよな。
やはり女性は2次元に限る。
「いやまあ、2次元のゲームでも爆弾設置してフォローしないと悪い噂を流すようなのもあるからあれだが」
過度な神聖視は、本質を見失わせる。
ギャルゲーオタクの俺は真摯にギャルゲーに向かい合わなければならないので、酷い部分もちゃんと認めなければならない。
それが出来ない者にオタクを名乗る資格はない。
それなのにアイドルオタクは――
何々ちゃんは恋愛なんてする訳がない、とか。
彼女は純粋無垢だ、とか。
挙句の果てには、排泄物なんてする訳がないとかほざいてやがるからな。
本当に質が低く。
現実を見れない哀れな生き物である。
「仕方ない。休憩にして事務所に行くか」
「ふぉっふぉっふぉ。何事も休憩は必要ですからな。丁度良いではありませんか」
「まあそうだな」
体に不調はないが、だから休憩しなくていいって事にはならない。
異常が出てから休憩したのでは遅く。
そうなると、色々後に尾が引きかねないのだ。
「やったぁ。これでサーヤちゃんと魔法少女ごっこが出来ますぅ」
クレイスは嬉しそうだ。
まあ彼女にも良いリフレッシュになるだろう。
忙しい神木沙也加が付き合ってくれるとは限らんが……
「じゃあダンジョンから出るぞ」
俺はダンジョンから出て、精霊三人を連れてフルコンプリートの事務所へと向かう。
やかましい玲奈と。
中国から押しかけて来た、迷惑な娘々って奴の相手をするために。
あと、郷間にお仕置きするためってのもあるな。
奴のやらかしはもう今更気にする気はないが、だからと言って無罪放免とはいかない。
ちゃんとお仕置きはせんと。
だってやらないと、あいつ絶対調子に乗るし。
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