第12話 記者
Cクラスのダンジョンは、金網で周囲が封鎖されていた。
警備も常駐している。
まあ盗掘屋が入り込まない様にするためだろう。
以前入った二つは警備もへったくれもなかったが、それは郷間の会社がそのための経費を出せなかった為だ。
今回は料金の中に維持費も含まれているそうなので、その辺りはしっかりとしている。
「お、来た来た」
封鎖の出入り口で証明書の確認を受けていると、スーツ姿の二人組が凛音のワゴン車に近づいて来た。
「ダンレポの者です」
ダンレポ。
安直に考えるなら、ダンジョンレポートの略って所かな?
雑誌だとしたら、人気の出なさそうな名前である。
「今日はCクラスダンジョンを攻略されるそうですが、人数やメンバーの名前をお伺いしてもいいでしょうか?」
「ああ、いいですよ。もしよかったら、一緒に中に入りますか?」
「え!?いいんですか?」
「ええ、どうぞ。じゃ、話は中で」
郷間が警備の人間に話を通す。
基本一般人はクリスタルに近づかせない事になっているのだが、所有者の許可を得た記者なら問題ない。
彼らは、封鎖されたクリスタルの場所まで駆け足で付いて来る。
郷間が「俺が呼ぶまで車に乗っててくれ」と言って先に出ていった。
外で記者との話が付いたのか、ノックされたので俺も車から出る。
「おお!この人がですか!?」
「こりゃまた、凄い格好だ。これは絵になりますねぇ」
出ると同時にカメラを向けられ、パシャパシャと無遠慮に写真を撮られてしまう。
まあ、変身してるから別にいいんだけど。
「ええ。我が社の超新星、エギール・レーンです」
「初めまして」
紹介されたので、取り敢えず簡潔に挨拶しておく。
記者とのやり取りは郷間の担当だからな。
「なんでも、女性一人でCランクダンジョンに挑まれるとか。意気込みをお願いします」
エギール・レーンは女性。
そう言う設定だ。
魔法で偽装を施しているので、彼らには俺の身体つきが女のそれに見えている。
勿論声も女性の物だ。
姿を隠し。
性別まで変える。
ここまで偽装すれば、俺の身元がバレる事はそうそうないだろう。
「この程度のダンジョン。2時間もあれば十分です」
「おお、大きく出ますね」
もし記者に聞かれたら2時間って答えとけと郷間に言われたから答えたんだが、どうやら、ビッグマウスな内容だったらしい。
これ、2時間でクリア出来なかったら恥かかないか?
「流石はレベル5の能力者さんだ」
Cランクの適正はレベル3~4らしい。
そこに単独で行くのだからという事で、レベルは5という事にしてある。
まあ俺は能力者じゃないから、実際は0なわけだが。
「出来ればエギールさんの経歴等、詳しい事をお伺いしたいのですが――」
「おっと」
突っ込んだ質問に郷間が割り込む。
ナイスマネージャーとだけ言っておこう。
……いや、言わないけども。
「女性を詮索するのは、野暮ってもんですよ。今日は彼女の実力を見て行ってください」
郷間が芝居じみた言い回しをする。
勿論、全然似合ってはいない。
その証拠に、その様子を見ていた凛音が溜息をついて頭を押さえていた。
後、ダンジョンには入れないから、俺の腕前は見せようがないんだが?
ま、クリアタイムから察するぐらいは出来るだろうが。
「やれやれ、わかりました。じゃあ今日は本当に2時間でクリアできるか、しっかり見届けさせて貰いますよ」
郷間の言葉に記者はあっさり引き下がる。
まあこっちの実力もまだ分かって無い訳だしな。
本当に実力が伴っているのか?
食いつくかどうかは、そこを見定めてからって事だろう。
「入ります」
話も付いた様なので、俺はクリスタルに触れる。
パネルが現れ、そこには俺の名が表示されていた。
エギール・レーンと。
よし、魔法による偽装は完璧だ。
後で書き換える事も出来るが、最初から偽装しておけば、パネルを覗き込まれてバレる心配もない。
此方の方が安心安全である。
俺はパーティーメンバー無しを選び、ダンジョン内へと移動する。
「うへぇ……」
目の前には、灼熱の溶岩で出来た巨大な池があった。
周囲を見渡すと、所々に開いた穴や隙間から炎まで吹き出している。
装備のお陰で熱さは感じないが、こりゃ確かにと、誰も来たがらないはずだと納得してしまう。
「ま、取り敢えず2時間目指して頑張るとするか」