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規格外のストラテジー~異世界帰りの勇者、知り合いにばれてダンジョン攻略に駆り出される~  作者: まんじ(榊与一)


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第119話 全部郷間が悪い

今日は休日だったのだが、寝耳に水の報告を受け、私は慌てて事務所へと向かう。


「ご無沙汰しております、娘々様」


私は使える主の妹。

シェン・ニャンニャン様に恭しく頭を下げた。


正直、その特殊な性癖から私は彼女が苦手なのだが……


だからと言って、無礼を働く話にもいかないからな。

ちゃんと礼節正しい態度で接する必要がある。


「元気にしてた?」


「はい。おかげさまで。ところで……予定より、ずいぶんお越しになられた様ですが?」


彼女が日本に来る事は決まっていた事だ。

エギール・レーン。

すなわち、勇気蓮人との間に子を作るために。


だが、こちらに知らされていた予定はまだ先の事。

なぜ彼女はこんなにも早く来日したのか?

その事を私は尋ねた。


日本での護衛責任者は、間違いなく私が担当する事になる。

なので、事情は知っておく必要があるのだ。

情報なしで行動すると、イレギュラーの元になりかねないからな。


まあ娘々様なら、下手な護衛など必要はないのだろうが……


彼女はシェン様ほどではないとはいえ、その強さは私などより上だ。

能力は攻撃的な物ではないが、レベル7相当と考えていい。


因みに、事務所に娘々様が来た事を私に知らせたのは郷間武だ。

関係筋からの物では無い。


「うーん、なんて言えばいいかしら。面倒な事はさっさと済ませてしまおうと思って。で、日本に来たついでに住ませてしまおうと思ったのよ」


「ついで……ですか?」


軽い思考だ。

偉大なシェン様と同じ血を引いているとは思えないほどに。


とは言え、彼女も能力とは別に換骨奪胎という超常の力を扱えるので、間違いなく同じ血筋である事は疑いようがない事だが。


「日本に来た用事をお伺いしても宜しいですか?」


「趣味よ」


「なるほど、趣味ですか」


趣味の一言で、私は全てを把握する。

日本には、中国では絶対に不可能な、彼女の趣味を満たす大きな催し物があると聞く。

きっとそれ目当てだろう。


「ところで……なぜ姫宮グループのお二人が、この事務所に?」


趣味の話が始まっても叶わないので、私はさっと話題を変えた。

まあ気になっていた事でもあるので。

何故かこの場に居る衛宮姉妹は。


「ああいや、彼女達はなんつーか……」


郷間武の歯切れは悪い。

あと、その妹の輪廻も困った様な表情をしている。

何かあったのだろうか?


「見た所、余り御機嫌は宜しくない様ですが」


二人、特に姉の衛宮玲奈があからさまにブスッとした様子で椅子に座っている。

なので和やかな雰囲気でない事だけは断言できた。


「ちょっと意見の相違で揉めちゃってね」


どうやら、娘々様と一悶着あった様だ。

趣味の勧誘でもしたのだろうか?

だとしたらまあ、納得ではある。


「趣味の伝導は程々にお願いします」


「まさか。初対面の相手にそんなぶしつけな真似、流石に私でもしないわ」


「違うのですか?でしたら一体何を揉められたんです?」


「勇気蓮人さんの事よ。どうやら彼女達……私が彼との間に子供を作る事、反対みたいなのよね」


「当たり前でしょ。好きでもない相手と、結婚すらせずに子供を作るんなんて……」


「中国ではどうか知りませんけど、日本ではそういうのはちょっと……」


どうやら倫理観の違いによる摩擦の様だ。

まあもちろん中国でも、未婚の母なんて物はイメージが良くない。


ただそれは、一般人同士の話である。

表向き重婚は禁止されているだけで、尊き身分の方が妾を持つ事など珍しくもなんともない。

なのでそういった方が相手なら、未婚であっても、決して恥ずかしい事ではないのだ。


結城蓮人はシェン様が自らの主と認めたほどの相手。

まさに貴人。

ならば、その妹であるニャンニャン様が妾として子を産むのは、いたって自然な事である。


「貴方方の意見は、まあ尤もではあります。ですが……これはニャンニャン様と、結城蓮人との間の個人的な問題。部外者が口出しする事ではありませんよ」


「はぁ!?部外者ですって!?」


私の言葉に、衛宮玲奈が椅子から立ち上がった。

そして鋭い目つきで私を睨みつけてくる。


ふむ……部外者という言葉に激しく反応したようだが、結城蓮人と衛宮姉妹との間には何の関係もなかったはず。

少なくとも私の知る限りは。

何か此方の情報網では、掴み切れていない情報でもあるのだろうか?


「私達、蓮人さんの幼馴染なんです」


衛宮聖奈がそう私に告げる。


なるほど、子供の頃の繋がりか……


他所の国で古い情報まで網羅するのは難しい

なら、機関が情報が掬えなったのも頷ける。


いやしかしただの幼馴染にいしては、衛宮玲奈の反応は強すぎる気がするな。

まさか恋仲?

となると、隠れて付き合っていたという事になるが……彼女はアイドルなので、十分あり得るか。


いやだが私の見る限り、結城蓮人はゲーム一筋で女性にあまり気のない男だ。

隠れて誰かと付き合うタイプには思えないのだが……


ふむ、まあ、考えても仕方ないな。

ここは直接訪ねてみるとしよう。


「幼馴染ですか……ひょっとして、衛宮玲奈さんは彼と恋仲なのですか?」


「ちちち……違うわよ!だれがあんなキモオタクと!」


激しい反応。

どうやら…………恋仲という訳ではない様だ。

まあ隠れて逢瀬を重ねていても、最近の情報を機関が見落とす訳もないから当たり前か。


「まあなんにせよ、此方ものっぴきならない事情があるんですよ。恋仲でないのなら、ご配慮をお願いしますよ」


勇気蓮人は、この縁談にあまり乗り気ではない。

その上幼馴染にまで反対されては、娘々様の目的達成が困難になってしまう。

できれば、穏便に話を済ませたい所だ。


「そういう訳にはいきません」


「駄目よ」


だが、姉妹二人にきっぱりそう言い切られてしまう。


「そうですか。困りましたね」


「ホント、困った話だわ」


首を竦めると、それを真似して娘々様が変な顔をして首を竦める。

シェン様と違い、相変わらず軽い方だ。

まあどんな状況だろうとメンタルを一切左右されないのは、彼女の強みではあるが。


「ふむ、ところで……蓮人さんには連絡を入れたのか?」


本人のいないところで話をしても埒が明かない。

そう思い、郷間に確認する。

彼と連絡手段を持つのは彼だけだ。


「いやー、まあ何と言うか……こう、連絡し辛いと言うか」


郷間は歯切れが悪い。

どうも連絡を渋ってる感じだ。

その様子から、私はピンとくる。


ああ、こいつ――


「何かやらかしたのか?」


「ぐっ……いやまあ、俺がって訳じゃないんだが……」


「私がやらかしました」


郷間輪廻が、俯きながら手を上げる。

てっきり兄の方のやらかしだとばかり思っていたのだが、妹の方も同じ属性だった訳か。

血は争えんとはこの事だな。


「だーいじょうぶよ。あいつは女の子相手に怒ったりしないから」


「そうですよ。ちゃんと分かってくれますって」


衛宮姉妹が郷間輪廻に慰めの声をかける。


どうやら、勇気蓮人は比較的女性に甘い様だ。

なら、娘々様が付け入る隙は大いにあるという物。

これは喜ばしい情報である。


「そうだといいんですけど……流石に、正体をばらしたのは簡単に許して貰えない気が……」


正体をばらしたのか。

それは流石に雷を落とされそうだな。

彼はかなり入念に正体を隠している様だったし。


ばらした相手は……ま、それは考えるまでもないか。

間違いなく衛宮姉妹だろう。

事情を知っている様だしな。


「確かに、隠した身分を明かされるのは気分が良くはないだろうな。郷間……」


「なんだ?」


「お前がばらした事ににしてやれ。そうすれば全て解決だ」


ぐだぐだと連絡が先延ばしにされるのも面倒だ。

なのでここは郷間が全て悪いという事にして、さっさと連絡させるとしよう。


「いや何が解決!?俺が蓮人に殺されちまうわ!?」


やれやれ、大げさな奴だ。

もしそれで殺される程度の間柄なら、私に捕まった時に見捨てられているはずだ。

結城蓮人に。


「兄として妹を守ってやれ。男を見せろ」


「お前他人事だと思って……あいつ、友達でも結構容赦ないんだぞ」


信賞必罰。

一軒薄情の様に思えても、公私に流されずきちんと罰を下せるのは素晴らしい事である。


「いえあの、私がちゃんと謝りますから。自分の仕出かした事ですし」


「大丈夫よ。蓮人にはあたしがびしっと言ってあげるから」


「私も一緒に謝りますから」


この後、グダグダなやり取りが少々続いたが……

最後は全部郷間武が悪いという事で話が纏まり、結城蓮人へ連絡を入れる事となる。



拙作をお読みいただきありがとうございます。


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