第118話 あれ?何かやらかしちゃいました?
「あ、いらっしゃいませ。衛宮さん達は、今日はどういったご用件で?」
来客者は、姫宮グループに所属する能力者の衛宮さん達だった。
ちょっとびっくり。
「今日は勇気蓮人さんに会いに来たんです」
妹の聖奈さんが、蓮人さんに会いに来たと言う。
私はその言葉に首を捻る。
「あいつ、いくら連絡しても電話が繋がらないのよね。だから、職場の方に直にこさせて貰ったわ」
「あ、そ、そうなんですか……」
電話が繋がらないのは、今はダンジョンで訓練しているそうだってお兄からは聞いている。
それにしても……凄くしたしそう。
電話が繋がらないって事は、電話番号を知ってるって事だし……
そもそも蓮人さんと衛宮さん達って、どこで知り合って……あ、そうか!
きっと蓮人さん、エギール・レーンが自分だって事を二人に話したんだ。
レベル7の人達には、魔王の事を話してるって言ってたし。
本格的に協力するには正体を隠したままだと不都合だから、きっと自分の正体を明かしたんだ。
シェンって人や鉄針さんにもばれてるし、もう無理に隠し続ける意味もないもんね。
ピースがかちりと嵌る感覚に、私は心の中で手を打つ。
「蓮人さんなら、今は対魔王用に訓練してますよ。自分で作ったダンジョンでやってるらしくて、兄のスマートホンでしか連絡出来ないんですよ」
「え?対魔王用の特訓?蓮人が?」
「えーっと、それって……例のエギール・レーンさんが言ってたやつ……でしょうか?」
「はい。その魔王です」
二人は蓮人さんが特訓してるのを知らない様だ。
まあ蓮人さんは、そういうホウレンソウをちゃんとしそうにない人だもんね。
しょうがない人である。
「えーっと……蓮人さんが、その……魔王と戦うって事ですか?」
「当たり前じゃないですか。だって蓮人さんは勇者なんですから」
「勇者?勇者って、エギール・レーンみたいな?」
「ん?何ってるんですか?蓮人さんがエギール・レーンさ…………えー、あー」
蓮人さんがエギール・レーンさんと同一人物。
そう言い切ろうとして、私はふと気づく。
あれ?
ひょっとしてこの二人、蓮人さんの正体に気づいていないのではないか、と。
だってなんか反応が妙なんだもの。
でもじゃあ、なんで蓮人さんと二人が連絡を取り合う仲なのかって、疑問になるのよね。
「蓮人がエギール・レーン?」
「えーっと、それはどういう事でしょうか?」
二人が訝し気な表情で聞いて来る。
ああ、やっぱり知らなかったみたい。
どうしよう。
最後までは言い切らなかったけど、もうこの流れだと言ったも同然だよね?
……が、頑張ったら誤魔化せるかな?
「いえあの……冗談です!そう!冗談なんです!今の全て!」
咄嗟に上手い言い訳が出てこない。
なのでなので、ここは力押しで行く事にする。
冗談の一点張りで。
「ぷぷ……冗談よ、冗談」
「へ?」
「蓮人がエギール・レーンなの、もちろん知ってるわよ。さっきのは演技よ。演技。これでも一応アイドルだからね。ドラマとかにいつでも出られるよう、演技の練習してるから」
「ああ、そうだったんですね」
なーんだ、冗談だったのか。
びっくりしちゃった。
でも流石芸能人。
戸惑ってる感じの演技、スッゴク上手かったもん。
「あたしてっきり、間違ってバラしちゃったのかと思っちゃって……あー、やらかししちゃったぁって思っちゃいましたよ。まあでもそうですよね。そうじゃなきゃ、蓮人さんと個人的に連絡なんてとったりする訳ないですもんね」
「先に謝っとくわ。ごめんなさい」
「ごめんなさい、凛音さん」
「何をです?」
玲奈さんと聖奈さんが、なぜか謝ってきた。
なぜ謝ってきたのか皆目見当がつかず、私は首を捻る。
「さっきのはカマかけだったのよ」
「へ?」
「私達と蓮人は……まあ子供の頃の知り合いだったから連絡を取り合ってるだけで、エギールの正体が彼だったのは全く知らなかったの」
「…………えーっと、それも冗談ですよね?」
「これは事実よ。だから……情報を抜き取る様な真似をしてごめんなさい」
衛宮さん達が頭を下げた。
二度も嘘で謝ったりしないだろうから……つまりこれって……私がひっかかって完璧に口を割っちゃったって事よね?
「や……やらかした!?」
私は頭を抱えて叫ぶ。
やらかしちゃったよ!
完全に!
ああ、どうしよう。
蓮人さん絶対怒るよね。
『あれ、私なんかやらかしちゃいました?』
って感じで、冗談ぽくとぼけたら蓮人さん見逃してくれないかなぁ……
駄目だよねぇ……
ああ、やらかしちゃったぁ……
◇◆◇
話の食い違いから、最初郷間凛音が何を言おうとしてるのかよく分からなかった。
けど、勇気蓮人とエギール・レーンが同一人物である事を、彼女は話している様だった。
正直、信じ難い話だ。
だってエギールは女で、蓮人は男だ。
性別が違う。
仮面をかぶっているからって、そんな話に「へぇ、そうなんだ」とはならない。
何かの冗談で流しておしまいである。
けど――
「いえあの……冗談です!そう!冗談なんです!今の全て!」
――その慌てふためきようから、冗談でなかったのだと私は確信する。
だから、私は片手をあげるハンドサインを妹の聖奈に出し――これをした時は私に全て任せなさいの合図――カマをかけた。
まあほぼ確信してはいたんだけど、念押しって奴ね。
もし事実なら、絶対知っておかなきゃならない事だったから。
「あたしてっきり、間違ってバラしちゃったのかと思っちゃって……あー、やらかししちゃったぁって思っちゃいましたよ。まあでもそうですよね。そうじゃなきゃ、蓮人さんと個人的に連絡なんてとったりする訳ないですもんね」
彼女はあっさり引っかかった。
引っかけといてなんだけど、こうもあっさり引っかかるのは流石に純粋過ぎるわ。
この子将来本気でやらかさないか心配になって来る。
「先に謝っとくわ。ごめんなさい」
「ごめんなさい、凛音さん」
なんか罪悪感もあるので、とりあえず先に謝っておいた。
「さっきのはカマかけだったのよ」
「へ?」
「私達と蓮人は……まあ子供の頃の知り合いだったから連絡を取り合ってるだけで、エギールの正体が彼だったのは全く知らなかったの」
「…………えーっと、それも冗談ですよね?」
「これは事実よ。だから……情報を抜き取る様な真似をしてごめんなさい」
そしてカマをかけて情報を引き出した事を白状する。
そこを話しておかないと、蓮人と彼女のやり取りが変な感じになっちゃうだろうし。
「や……やらかした!?」
すると彼女は両手で頭を押さえ、もう、なんというか、面白い感じの表情で叫び声を上げる。
相当ショックだったようだ。
「ああ、どうしよう……蓮人さんに雷を落とされちゃう……」
「大丈夫よ。騙したのはこっちなんだし、あいつも怒ったりわしないわよ」
「そうですよ。そもそも蓮人さんは優しいんですから。凛音さんに怒ったりしませんよ」
そう言って彼女を落ち着かせようとしたら――
「え?」
――何言ってるんだこいつらって顔で、私達を見て来る。
「えーっと……蓮人さんは女性がどうとか、たぶんそういうのは気にしない人でして……特に優しくしてくれたりは期待できないと言うか……」
郷間凛音は本気の表情だ。
嘘ではなさそう。
ったく、あいつ周りからいったいどういう評価されてるのよ。
女性に優しく出来ないとか、どうやら会わなかった10年で、そうとうねじ曲がってしまったみたいね。
こうなったら、あたしが蓮人の性根を叩き治してやるしかないわ。
拙作をお読みいただきありがとうございます。
『面白い。悪くない』と思われましたら、是非ともブックマークと評価の方をよろしくお願いします。
評価は少し下にスクロールした先にある星マークからになります。




