第117話 忙しい
「どうした?」
ダンジョン内での訓練中、郷間から電話がかかってきた。
因みに、通常のダンジョンは電波なんかは通じない。
俺特製のダンジョンへのみ通じる特殊な施しを、俺と郷間のスマホに施したからこうして中と外で通話できているのだ。
だから他のスマホからでは繋がらない。
「にゃんにゃん?誰だそりゃ?」
『中国から来たらしいぞ。ほら、この前大使館で蓮人がぶっ飛ばした奴の妹さん』
「大使館?ああ、シェンの妹か」
そういやあのやろう、妹を送るとか言ってたな。
興味ないから送ってくんなってちゃんと伝えたってのに、人の言葉無視しやがって。
『会わせてくれって言ってるぞ。』
「会いたがってる?そんなもん知るか。ほっとけ」
こっちは訓練で糞忙しいってのに、勝手にやって来た中国娘の相手なんてしてられるかっての。
『いやでも滅茶苦茶可愛いぞ。スタイルも抜群だし』
「どうでもいいわ」
どれだけ美人でスタイルが良かろうが、三次元の時点で糞だ。
「二次元のゲームキャラになってから出直して来いつっとけ」
『お前はほんとぶれねーな』
「ギャルゲーオタクなめんな」
これは俺の誇りだ。
決して曲がりえぬ信念と言ってもいい。
『やれやれ、無駄に板挟みになる俺の事も考えて欲しいんだがな』
「何言ってんだ。シェンの件は完全にお前のやらかしだろうに。後始末位お前が自分で対処しろよ」
そもそもシェンと揉めたのは、郷間が馬鹿だっためだ。
クレイスの言う通りにしてれば、あんな事になってなかったはずである。
『痛いとこついてきやがる』
「要件がそれだけなら切るぞ」
返事を待たず電話を切る。
まったく、くだらない事で電話してきやがって。
「じゃあ続きだ」
今現在は組手中だった。
分身を使って肉体を与えたクレイス、フレイス、フーガ達との。
三対一なら、ちょうどいい感じの組手になる。
「かかってこい!」
「はぁーい」
「行きますぞ」
「へっ、ぶっ飛ばしてやる!」
◇◆◇
――フルコンプリート事務所。
「えーっと……蓮人は忙しいらしくて、暫くは無理だそうだ」
蓮人からの言葉を丸々伝えるのは流石に問題があると思ったのか、郷間はニャンニャンに穏便に言葉を伝える。
おバカな男ではあるが、どうやらその程度は判断できる様だ。
「あら、そうなの?いつ頃ぐらいまで待てばいいのかしら?」
「いや、それもちょっと分からないっぽい。あいつ次第なんで」
「ふーん。ひょっとして……私避けられてる?」
「蓮人さんは、そんな女性を避ける様な事はしませんよ」
「そうです。マス……じゃなかった、蓮人さんはいま単純に忙しいだけです」
勇気蓮人が自分を避けてるのではないか?
そう尋ねたニャンニャンにたいして、彼女を事務所まで連れて来た凛音と神木沙也加が否定する。
自分に迫って来る相手なんかを蓮人が面倒くさがるとは思っていても、だからと言って、避ける様な不誠実な真似はしない。
そう思っているからだ。
実際、他人を避ける様な真似はしないだろう。
本当に相手が面倒臭いようならそんなまどろっこしい真似はせず、排除する方向で迷わず動くと思われるので。
もちろん、そこに誠実さなどは微塵も含まれてはいない訳だが。
郷間武は良く許して貰えている?
そこは幼馴染パワーである。
そうでなければ今頃彼は地獄行だった事だろう。
「ふーん、まあ二人がそう言うならそうなんでしょうね」
ニャンニャンと沙也加の間に、初対面時の刺々しさはない。
それどころか、まるで長年の友人関係であるかのように柔らかい雰囲気を醸し出していた。
何故か?
それは分かりあったからだ。
そう、この三人は分かり合い、同志になったのだ。
まあなんの同志かは、この場での言及は避けさせてもらうが。
「あ、誰か来たみたい」
その時、事務所に人がやって来た音が響く。
人が来た事がすぐにわかる様につけられた、自動ドアと連動したインターフォンのような物である。
「はーい」
客室から凛音が来客者の対応に向かうと、そこには――
「お邪魔するわ」
「お久しぶりです」
――衛宮姉妹の姿があった。
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