第112話 コスプレ
某月某日、都内某所。
コスプレと同人誌。
この二つを楽しめる中規模イベントが開催されていた。
撮影エリアでは、派手な衣装を身に着けた女性コスプレイヤーと、それを取り囲むカメラを持った残念な男達の輪があちこちに出来ていた。
興味のない人間が見れば、きっとその光景は異様に映る事だろう。
特に、輪を形成して写真を狂ったようにとる男連中が。
だが、撮る側も撮られる側も満面の笑顔だ。
そう、彼らは楽しんでいた。
この趣味丸出しのイベントを全力で。
傍から見たら「こいつら薬でもやってんじゃね?」と思われても仕方ない状態であっても。
そんな輪の中でも一際大きな輪の中心には、スレンダーな身体つきにも関わらず胸がバーンしてる、切れ長の瞳をした美女がいた。
長い黒髪をしたその女性は、格闘ゲームに出てきた露出高めキャラクターの格好をしており、周囲を取り囲んだ男達が「あのポーズを、このポーズを」という要望に応え、笑顔でポーズを変化させていく。
「あ、もうこんな時間アル。悪いけど時間だから――」
コスプレ女性が一瞬屈んだかと思うと、彼女は高くジャンプする。
周囲の男達の頭上を悠々と超え、その背後に着地した。
とんでもない跳躍力だ。
「失礼するアルよ」
そして素早く、それでいて優美に歩いてその場を離れて更衣室へと向かう。
どうやら着替える様だ。
まあ露出度の高い恰好で歩き回るのは非常識極まりないので、当たり前と言えば当たり前ではあるが。
◇◆◇
「へーい。おひさー、娘々」
チャイナ服の女性。
先程のコスプレをしていた女性——娘々が柱に寄りかかっていると、茶髪で釣り目の女性が近づきフレンドリーに声をかけた。
「お久しぶりアル。蘭ちゃん」
声をかけたのは台場蘭。
台場剛毅の妹だ。
「相変わらずいい体してるわー。あたしも日本人としては標準異常な自負はあるんだけど、流石に娘々を前にしたらたじたじだね。ほんっと羨ましい。そういや今日は何のコスプレしたの?やっぱあのキャラ?あとで見せてね。あ、そうそう――」
「ストップアルヨ」
「あ、ごめんごめん。あたしって、興奮するとすーぐしゃべり過ぎちゃうんだよねぇ。いやほんと参った参った」
「蘭は相変わらずアルね」
「へへ、って、そういやなんでアルアル言ってるの」
「日本では、中国娘はアルアル言うのが習わしアルヨ」
「いやいや、その認識は古いって。今更その語尾のキャラって、基本ギャグキャラだけだよ」
「あー……そうなんだ。撮影中もアルアル言ってたんだけど、ひょっとして寒かったかな?」
娘々の口調が変わる。
エセ中国語の語尾付きの物から、落ち着いた感じの流暢な日本語へと。
「あはは、それなら大丈夫だよ。可愛いは正義だからね。ちょっとぐらいおかしくても、そういう個性で済んじゃうもんよ」
「そう。まあ別に、有象無象にどう思われようと気にはしないからいいけどね」
「おう、クール。さっすが【鋼の精神】持ちのレベル6プレイヤー」
「別にそんな力なくても、コスプレイヤーはその程度で動揺したりしないわよ」
「まあ確かに。そうでもなきゃ、人前でコスプレなんて出来ないわよね」
「そういう事。まあこんな所で長話するのもあれだし、さっそく回りましょ」
「オーケー。では、出陣とまいりましょうか」
娘々と台場蘭は、並び立って目的の場所へと向かう。
BではじまりLで終わる、乙女の嗜みを買い漁るために。
そう、彼女達は腐っていた。
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