第100話 餌付け
10歳の時。
私達の両親は事故で他界してしまう。
そして近しい親戚のいなかった私は、妹の聖奈と一緒に施設に入る事になった。
「嫌よ!聖奈と離れ離れになりたくなんてない!」
私達には、直ぐに里親が見つかる。
自分で言うのもなんだが、私達は美少女だったから。
見た目が良いってのは、なんにでも有利に働くものである。
けど、その引き取りには大きな問題があった。
私と聖奈の引き取り先が、別々だったのだ。
両親を失い。
もう私には妹の聖奈しかいなかった。
それなのに、離れ離れになるなんて考えられない。
だから私は施設から逃げ出す。
妹の聖奈を連れて。
今振り返ると、別に逃げ出さなくても、最後まで嫌だって意思を貫き通せば養子縁組はきっと流れていたはず。
でも、子供だった私達にはそれが分からなかったのよね。
「ほら、これも食べなさい」
施設から逃げ出した私達は、人に見つからない様な場所に隠れた。
昼間動きまわれば直ぐに捕まってしまうのは目に見えていたから、そこから出るのは夜中だけだ。
夜になったら私は落ちてる小銭があった日には自販機で食べ物を買い。
なければゴミを漁って、食べられそうな物を手に入れて飢えをしのいでいた。
言うまでもない事だけど、そんな事で子供二人が十分に食べられるだけの食料は確保できる訳もない。
飲み水は、公園の蛇口からペットボトルに入れればいいだけだけだから何とかなったけど。
だから私達は常に飢えていた。
「でもおねぇちゃん……」
自分の分を半分減らし、妹に渡す。
何故なら、私が姉だから。
それに、施設から逃げ出す事を決めたのは私だから。
だから私が我慢すべきなのだ。
「私は大丈夫だから、あんたはしっかり食べなさい」
結論から言うと、全然大丈夫ではなかったんだけどね。
その時の栄養失調が元で、私の体は成長が止まってしまった訳だし。
お陰で二十歳を超えてるってのに、キモいアイドルオタからは、玲奈たん呼ばわりされる始末。
まあそんな事はどうでもいいわね。
その状態がどれぐらい続いたのかは、もうよく覚えてはいない。
たぶん二、三か月くらいだったんじゃないかしら。
栄養が足りなくて、起き上がるのも面倒なぐらい体が弱ってきちゃって。
ああ、このまま私、死ぬのかな……
なんて思ってた時に、あいつが現れた。
「あれ?先客がいるのかよ」
同い年ぐらいの、生意気な顔をしたガキンチョ。
「消えなさい……ここは私達の……」
「おいお前大丈夫か?」
「大きなお世話よ。早くどっか行って……」
「まあいいけどさ……」
「ちょっと……誰かにここの事をいったら……あんたを呪い殺すから……」
あの時の私には、全部が敵に見えていた。
そのせいか、かなり強く当たっちゃってたのよね。
で、あいつ帰ったと思ったら、10分ぐらいで戻ってきたのよ。
両手に大きなビニール袋を持って。
「あんた……なんで……」
「いや、腹の音めっちゃ聞こえてたぞ。腹減ってるんだろ?ほらよ」
袋の中には、お弁当や菓子パン。
それに飲み物がいっぱい入っていた。
むかつく奴ではあったけど、そういう所は妙に鋭かったのよねぇ……
「ほら、食べろよ」
「わぁ!やったね、おねぇちゃん!」
「あ、ありがとう」
見知らぬ少年の施しなんて受けたくなかったけど、あたしも限界だったからそれは有難く受け取らせてもらったわ。
私は聖奈の命の恩人って言葉を否定したけど、もしあの時あいつが現れて食事を持って来てくれてなかったら、冗談抜きで私は死んでた可能性があった。
だから、実際にはまあ、命の恩人であるとも言えなくもない。
それからそいつは、毎日やって来ては私達に食べ物を届けてくれた。
誰かに告げ口する事もなく。
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