危険屋さん
危険屋さんは大きな紙のロールを担いでいます。危ないよと人に示すための紙です。紙には黄色と黒の縞模様が斜めに描いてあり、裏面はシールのように貼り付けられるようになっています。
危険屋さんは街を歩きます。水色の作業着に黄色のヘルメットをかぶっています。危険屋さんは街で人が「怖いな」と思うようなところを見つけたら、そこで足を止めます。
例えば、車の曲がり角の先にある角ばった柱であったり、ちょっと天井の低いトンネルであったりです。危険屋さんは担いでいる紙を地面に下ろして黄色と黒の紙を引き出します。たいそう大きな紙ですから、ロールの方をころころと転がして必要な分を取り出します。柱には目に留まる高さに紙を貼り付けて、ここに柱があるよと教えます。トンネルには上の方に黄色と黒を配置して、車高制限の表示も取りつけます。
危険屋さんは夜中に活動します。人をあまり怖がらせたくないからです。危険屋さんが危険の紙を貼っているのを人が見かけると、「ああ、ここは危険なのだな」と思うでしょう。危険屋さんは、危険は気付かないままでもいいと思っています。街中にひっそりと貼られている黄色と黒を人が見て、そっとそこから距離をとる。気付かないけれど伝わっている、それだけのことで充分なのです。
危険屋さんは今日もどこかの街にいます。黄色と黒の斜めのしるしが危険屋さんの足跡です。大きな紙を担いで今日もどこかを歩いています。なにも増えたりはしないけれど、ちょっとだけそこは怖くない。危険屋さんはそんな街を作っています。