Dead or Alive ー排除か、救助かー(中編)
「あなたの力でなんとかできる!」
そう言われてやったら、失敗した時の顔って、たまんないですねぇ
ちなみに一般論的にです
「ダメだったな、スバル・フォーデン……」
ユカリまで連れ去られるというあの凄惨な戦いから家へと戻って来るなり、フレアリオンは僕にそう言った。
「まさか、あの毛の龍があそこまで硬いだなんて思いもしなかった。
心配するな。私は燃やすことは出来ても、戦闘能力で言えばお前が一番高い。そのお前が無理ならば、きっと私も‐‐‐‐」
「試してないのに、言わないでくださいよ!」
僕は机を叩いて、彼女に抗議する。
「僕はっ! 僕なりに覚悟を決めて、君達と戦う事を決めたんだっ!
僕だって戦隊ヒーローだとか、特撮だとかも好きで、中学3年生の男として、戦いたいって思ってるっ!」
相手は、街全体を糊で覆って来るとかをしてくる相手だ。他にもしてくるかもしれない。
僕にだって、あんな良く分からない悪龍なんかに地球を好き勝手にされたくないっていうくらいの、正義感はある。
誰だって、よっぽどの事情がなければ、故郷が大事だろう。
僕もそのうちの1人だ。だからこそ地龍として戦う力を訓練して、他のメンバーと協力することも理解した。
「その戦いがこれだっ、あなたに修行をつけてもらった! あなたの指示通りに石の拳を叩きこんだっ!
あんたが、普通に投げた弓矢で、左肩を吹き飛ばしていたっ! それに対して僕が出したのは、僕が出来る、最強の技だった!」
少なくとも、フレアリオンが普通に投げた弓矢と比べても、そん色ないくらい、強い技を放っていた。
「だけれども2人とも救えなかった!」
「だから、安心しろ。スバル・フォーデン。次がある、なにも一度で倒さなくても良いんだ。次の機会、今度はもっと作戦を練って----」
「‐‐‐‐そのあんたが言ったんだろうがっ! "ダメだったな"とっ!」
そう彼女ははっきり、そう口にした。
僕に面と向かって、そうはっきり口にした。
「まるで僕がっ! 失敗した、役に立たなかったみたいじゃないかっ!」
机を先程よりも強く叩いて、僕は彼女にはっきりと分からせる。僕がなにに、苛立っているのかを。
「やっぱり無理なんだよっ! あんたらの組織の目的が、《他の生物との共存》で、僕がその成功例みたいな感じで接して、一緒の家で家族ごっこをしようとしても、それがそもそもの間違いなんだっ!
ドラゴンはドラゴン、人間は人間! その溝は埋まらないし、むしろ広がっていくだけだっ!」
「し、しかし……」
と、僕の怒りを鎮めようと、フレアリオンが提案する。
「それでも悪龍達の暴走は止めなければならない、それは理解して欲しい。あの毛龍も、あの髪の毛1本1本に生物を閉じ込める作用があるとすれば、厄介極まりないだろう。
だから、スバル・フォーデン。私と共に戦お‐‐‐‐」
----パチンっ!
僕は彼女が差し出した手を、思いっきり叩き返した。
「だからっ! 無理だって! なに、その"一緒に戦えば問題解決"みたいな感じの提案は!
僕はあの悪龍を何とかしたいと思ってるよっ! あの毛でそういう感じの事も出来るのかもとかも考えたよっ! でも、"一緒に戦おう"だなんて思ってないっ!」
"敵"の敵は、味方"、ではないのである。
"敵の敵は、やっぱり敵"なのだ。
"悪龍"を何とかしなければならないと思っているのは、"マヌスのドラゴン"も、"僕"もそう。その通り。
けれども、マヌスのドラゴンと僕は同じじゃない。決してもう、交わることはない。
「僕は、もうあんた達とは一緒に戦わない……」
「スバル・フォーデン……」
僕とフレアリオンは、互いに見つめあう。
僕は敵意を、フレアリオンは困惑を、瞳の中に添えて。
「‐‐‐‐あのさ、そういうのはあっちでやってくんないかな?」
そして家の持ち主の、父親は動揺を瞳に入れて。
☆
「なるほどなぁ、うちの息子が上手く出来なかったことに腹を立ててると。なるほどなぁ、うん」
ダットンは、いつものように適当に、僕の気持ちを雑にまとめる。
知らない人にとっては父親なりに心配しているように聞こえるかもしれないけれども、本当は違う。
彼にとっては全ては娯楽であり、なんだかおもしろそうな事が起きそうでワクワクしているだけだ。
その証拠に、ダットンの口元は気持ち悪いくらい、ニヤけている。
「まぁ、簡単なことだな。ゲーム風に言えば、"効果はグンバツだ! ただし防御力が高すぎて0ダメージ!"みたいな奴だろう?
要するに、マイサン。お前のレベルが足りなかっただけだ。今からでもメタスラ狩ってレベル上げしとけよ」
本当に、父にとってはただのゲームみたいである。
こういう所、なんだ。僕が父に治して欲しい、苦手な部分とは。
いっつも、茶化して、その場しのぎする、陽気な道化を演じる部分。
「しかし、ダットン・フォーデン」
と、今まで黙っていたフレアリオンが、父に言い返そうと咳払いしてから睨みつける。
「スバル・フォーデンは良くやってくれている。私は心から、あの石の拳の破壊力は知っている」
「おいおい、母親と比べてるんじゃないかい?」
父がにやけながら言うと、フレアリオンはムッとした顔をして、懐から真っ二つに割れた石を取り出していた。
「‐‐‐‐これは昨日、石の拳を纏ったスバル・フォーデンが真っ二つに破壊した石だ。私にもここまで見事に真っ二つに壊せない石を、スバル・フォーデンはあっという間に破壊した。
この破壊力ならば毛を司る、さほど防御力がないモジャモジャな毛龍ならば、倒せると思っていた。私も、普通に弓矢で、吹っ飛ばしていたし。
‐‐‐‐だから私も、驚いているのだ」
フレアリオンは心底、今でも信じていないという思いを込めて、そう言っていた。
僕は彼女の言葉から、彼女が本当に僕に期待していたことが伝わってきて、
「‐‐‐‐さっきは怒ってごめん、それとありがとう。期待してくれて。僕、実は家族からだと初めてで」
だから、素直に感謝の言葉を口にした。
ちなみに父だと、このような期待なんかしてくれたことはない。本当に、だ。
「当たり前だろう、それが家族なんだから」
「僕にとっては、初めてなんだ」
「そうか、だが他の2人もきっと同じ気持ちだ」
フレアリオンが握手を求めて手を差し伸べて、僕もまたそれに応じる。
良い雰囲気だ、そう。実に良い雰囲気である。
「ふむ、だとすれば‐‐‐‐何故、効かなかったのかを考えるべきだな」
まぁ、父がいなければ、だけれども。
「フレアリオンの話が本当だと、マイサンの攻撃力に間違いはない。その前に、弓矢で吹っ飛ばせたんだろう?
だとしたら、毛龍と呼ばれるモノは、マイサンの攻撃の前後で、防御力が異常に上がった」
「ふむぅ……」と考えて分かるはずもないのに、父はなにかを考える感じのフリをして、一言。
「‐‐‐‐そう考えれば、可能性は1つ、だな」
☆
とある海近くの洞窟、そこにマフデルタとツカマルジョ‐‐‐‐悪龍であるドラバニア・ファミリーの面々が、盛大に乾杯していた。
乾杯の内容は、『マヌスの邪魔者を2人捕らえた』という事について。
「いやぁ~、しっかし"毛女郎"のツカマルジョ。あなたの能力は凄まじいですね。えーっと、実力半端ねー的な?」
「いえいえ、あちきは自らの役割を果たしただけ、それだけであリンス。凄いのは毛を操る能力持ちであるあちきを、髪の毛に当たったモノを捕らえる能力を持つ、このように"生まれ変わらせてくれた"あなた様でリンス」
ぺっこりと頭を下げると共に、ツカマルジョの長すぎる髪が地面に垂れて、べっとりとついていく。
「‐‐‐‐これなら、あなたの昇格も間違いない、ですね?」
マフデルタは、ツカマルジョの顔全体を覆いかぶせている長い前髪に手を伸ばし、その中からツカマルジョの銅の紋様のメダルを手にしていた。
銅色のメダルには星が1つ書かれていて、メダルに描かれているその星をマフデルタはゆっくりとなぞっていた。
「最下級は銅、そして銀色。その後は金へ、そして皇帝しか許さないダイヤモンドへ。
そうやって階級を上げていくことで、その後の待遇がどれだけなるかが変わっていきます。あなたはまだ生まれたばかりですので、最下級の銅ではありますが、いずれはあなたも私と同じ、金色になれるでしょう。えーっと、階級昇格的な?」
「えぇ、あちきもそうなりたいであリンス。ふふっ、早く銀になれるほどの活躍を上げたい、であリンス」
「イッェ~イ! と言う訳で、乾杯ですね!」
マフデルタとツカマルジョは、用意していたジュースで乾杯しようとするのだが、
「出せぇ~! 早くここから出せぇ~!」
「そうです、ここから早く出しなさい!」
それはツカマルジョの髪に収監されている2人、エクレルとユカリの2人が大きな声で、2人の乾杯模様にバケツで水をかけるかのごとく、騒ぎ立てる。
話に水をぶっかけられて、マフデルタとツカマルジョの2人がしーんっ、と静かになった。
「……ツカマルジョ、2人の声が邪魔です。シャットダウン出来ないんですか?」
「マフデルタ様、あちきは檻であリンス。捕らえれば能力すら使えなくする、無敵の檻であリンス!
捕らえた者を逃がさないようにすることが得意であリンスが、声などは檻では防げないであリンスよ……」
すーっと、ツカマルジョが髪を操作して目の前に持って行くと、髪は檻の形となって収監されている2人‐‐‐‐エクレルとユカリの姿が現れる。
髪の毛の檻に収監されている2人に対して、マフデルタが優しく話しかける。
「風龍ユカリ、それと雷龍エクレル。あなた達は我々ドラバニア・ファミリーを敵視しているようですが、我々の崇高な目的を聞けば、我々のよき理解者となるはずです。かつて地龍マグノリアが、悪龍であるユカリを仲間に引き入れた時のように」
ユカリとエクレルが、話をし始めるマフデルタを睨みつけているが、マフデルタはそれを無視して話し続けていく。
「我々、ドラバニア・ファミリーの目的は、自分達が住みやすい環境を整える事。そう、自分達と言うのはドラゴンにとってです、ドラゴンにとって住みやすい環境とはあなた達にとってもそうなのです。
我々はこの星を、この地球を、49番目の避暑地にする計画を立てています」
マフデルタはまるでセールスマンのように、ユカリとエクレルの2人に、地球避暑地計画について淡々と話していく。
「まず、この星は陸地と海のバランスが非常に悪いので、海を全部回収。その後、陸地の形と大きさを指導者の階級ごとに分類して、危険生物、および美意識の低い生物は全部排除。
安全、安心、快適に! 我らドラゴンにとって理想の地を、この辺境の星に作り出しましょう!」
「素晴らしいであリンスよ、マフデルタ様! このような辺境に、そのような地を作り上げるだなんて、素晴らしいことであリンス! 我らがドラゴンにとっての理想の地、マフデルタ様ならばきっと作れるであリンス」
マフデルタは褒められて照れているが、ユカリとエクレルの2人は納得できてなかった。
要するに、ドラバニア・ファミリーの2人は、この地球を自分達が住みやすい地域に作り替えようとしているのである。それも地球を丸ごと作り替える規模で。
海を消して作り替え、大陸の形も変える。生物も多様性ではなくて美しさを重点において、だ。
そこに地球としての、あるべき形はない。
ただただ、遠くの地方にある場所を、模したモノを作るだけ。
「素晴らしい地域は、いくつあっても良い。近くにあるのも、遠くにあるのも、それは素晴らしい事でしょう?
……さぁ、それでは、聞きましょう。お二人さん」
マフデルタは右手を重力の空間の歪みに入れて、その中から真っ黒の単発式の銃を取り出していた。
単発式の銃を2人に突きつけながら、もう片方の手を差し出していた。
「"排除・か・救助か"‐‐‐‐我々に逆らって死ぬか、それとも我々の仲間になるか。
‐‐‐‐さぁ、あなた方の返答はいかに?」
それに対して、2人は‐‐‐‐
「「‐‐‐‐断るっ!」」
‐‐‐‐人間との共存を願う、マヌスの2人は断っていた。
その言葉を聞いて、マフデルタは唇を噛みしめるように‐‐‐‐
「……そうですか、残念ですね」
マフデルタは銃の引き金に、手をかけていた。
【Tips】
〇妖怪/毛女郎
…女というのは嫉妬などの執着心や他人を蹴落とす自己愛など、得てして怖く描かれるが、毛女郎という妖怪は長い髪を振り乱しながら現れる、和製版のサ〇コといっても過言でない
毛捕龍ツカマルジョの、毛の中に生物を捕える能力は、強すぎる女の執着心が形となった物と言える




