Dead or Alive ー排除か、救助かー(前編)
やっぱり、褒められるのって大事だと思います
無意味に褒めろとは言いませんが、それでも褒めることでしか得られないモノはあると思います
夕陽が辺りをサンサンと照らす頃、ユカリとエクレルの2人は買い物を終えて、家路へ向かっていた。
スーパーに面した北通りの道。そこにいる夕陽を受けている2人の龍女は、それぞれ対照的ではありつつも、家に満足げな様子で向かっていた。
エクレルは買ってきた野菜や麺、ジュースやカップ麺などの1週間分の買い物が入っている、買い物袋を振り回しながらご機嫌な様子である。そりゃあもう、小学生の男の子が掃除の時間中に、バケツをぐるぐると回転させるがのごとく。
一方でユカリはと言うと、そうやって買い物袋を振り回すエクレルを見て呆れていた。それでもエクレルの顔はどこか嬉し気だ。
「エクレルちゃん、そんな事してたら買い物袋の中のジュースの炭酸がまずい事になりますよ? 抜けるのと美味しくなくなるという2つの面で」
「知ってるぅ~、でも今のあたしはルンルン気分だから止められないのぉ~!」
だって、と彼女は嬉しそうに前置きしながらそう言う。
「だってぇ! 今日からあたし達の家でスーちゃんと一緒に暮らせるんだよ! これ以上嬉しくない事って、ないじゃないですか!」
「……まぁ、私も、スバルくんと一緒に暮らせることに関しては、嬉しさしかないというのは同意見ですが」
「だよねっ、だよねっ! やっぱりスーちゃんと一緒に、ドラゴンは同じ家で暮らすのが一番! だよね!」
「けれども、買い物袋を振り回すのは止めましょう。エクレルちゃん」
ガシッ、と買い物袋を回し続けているエクレルに対し、ユカリはその袋を手で掴んで回転を止めていた。
「だいじょ~ぶ! だって、炭酸はもう抜いてあるからっ!」
「抜いてるって?! もしかして、私がフレアリオンさん用に買った【ディーディーレモン炭酸ハイパーDX】をですか!? あれは炭酸があるからこそ、美味しいと作られた物を、どうして炭酸を抜いたりだとか……」
「……あれ、買ってたの、ユカちゃんだけだよ? 後、絶対に炭酸抜いたほうが良かったって」
未だに炭酸の品を勝手に抜くという行為に不信感を抱いているユカリだが、エクレルはあれはしておかないといけない品だと、選択に後悔は何1つとしてない。
現に買い物袋に詰める際、店員さんがしていた、あの危険物を取り扱うかのような顔をエクレルは忘れていないからだ。
ユカリは面白そうという理由で買っていたが、少し怪しんでいたエクレルも「必ず飲む30分前には、炭酸を抜いておいてくださいね」なんて言われる代物だとは思ってなかった。
「(ユカちゃんも聞いてたはずなのに、どうして覚えてないかな……)」
こういう所はしっかりと反面教師として学ぼう。
彼のお姉ちゃんとして他の人から学ぶべきところは学び、学んではいけない部分は反面教師としよう。
エクレルは気持ちを新たにして、また一歩、前へと進み始める。
夕陽が辺りを夕焼け色に染め上げる中で、2人の姿を金色に染め上げる。
「さぁ、帰りますよ。エクレルちゃん」
「はぁい、ユカちゃん!」
ルンルン気分で、先に歩いていくエクレル。それを笑いながらも追っていくユカリ。
エクレルはステップを踏みながら、目の前の角を右に曲がって、ユカリもそれに続くように歩いて行って‐‐‐‐
「……あれ? あれれ?」
しかしユカリが曲がったその先で‐‐‐‐先に曲がったはずの、エクレルの姿はなかった。
☆
「なにせ、"悪龍であるドラバニア・ファミリーを裏切るほど"、だからな」
フレアリオン達3人が用意した家の中で、僕はフレアリオンから彼女達の話を聞いていた。
その過程で、フレアリオンから聞かされていたのである。"ユカリは実は悪龍"という事実を。
「えっと、あんたらって……僕の母のマグノリアと同じ、マヌス……とやらのドラゴンなんだと思ってたんだけど……」
「どうしてそう思った? スバル・フォーデン」
「なんでって言われても……」と、僕は考える。
「えっと、確かあんた達はマヌス……というか、黒い龍神が生み出した使徒で。悪龍ってのは白い龍神が生み出した使徒。‐‐‐‐なんだっけ?」
「別に間違っていることはない、良いぞ、スバル・フォーデン。続けろ」
「それで、えっと、黒い龍神の使徒であるマヌスは僕達人間との共存を、で、白い龍神の使徒であるドラバニア・ファミリーは自分達だけの世界を作る……だっけ?」
「あぁ、そうだ。簡単に言えばマヌスは共存を、そしてドラバニア・ファミリーは龍達の世界を作ろうとしている。それが我々と彼らの目的の差、というものだ」
だったら、なおさら余計に意味が分からない。
それでどうして、ユカリが悪龍で、こっちに裏切ったとかになるんだ?
「マヌスが正義で、ドラバニア・ファミリーは悪なんでしょ? だったら、どうして悪が正義になったりするんだ?」
「……スバル・フォーデンよ、事はそう簡単な話じゃないんだ、人間だってそうだろう? 正義の者もいれば、悪の者もいる。それと同時に正義が悪に、悪が正義になったりもする。つまりは、意識の変化、というものだ」
フレアリオンは右手を僕の前に出すと、その手に大きな炎を生み出す。
炎はゆらゆらと揺れ動いて、そこに陽炎が生み出されていた。生み出された陽炎の中に、画像が見えてくる。
「炎の応用だ、火を自在に動かすことで映像を出すことが出来る」
「それって……他の2人にも出来るの?」
「ふむ、ユカリは脚色がひどく、エクレルは大雑把ではあるが、私と同じことも出来る。
‐‐‐‐なんならば、2人にも後で頼むと良い。スバル・フォーデンの頼みなら、2人も聞いてくれるだろう」
「あー、見てから決めます、よ」
今の口ぶりからするに、どうやら彼女が一番まともみたいだし……いや、本当にそうなのだろうか?
まぁ、1回見てから決めよう……かな?
陽炎は揺れ動き、そこに映像が浮かび上がってくる。
まず映し出されたのは、どこかの戦場の様子。片方は黒く塗りつぶされた団体で、もう片方は白い団体。
見ていると、それぞれの団体から代表者、みたいなのが現れる。
白い団体から出てきた代表者は、黒い団体を指差すと共に、後ろに居た者達が攻め込んでくる。
しかし黒の団体の代表者はと言うと、たった1人でその代表者を一網打尽にしてしまった。具体的には、全員がその場に倒れて、そのまま歪みの中へと消えていった。
「この黒いのから出た代表者って……もしかして、僕の母さんだったりします?」
「あぁ、お前も使っているようだが、地龍であるお前の母、マグノリアの力だ。重力を生み出して、全ての悪龍を全員潰し、卵に戻したんだ。そして、この白の団体の代表が、かつてのユカリだ」
映像はさらに進み、白の団体は全滅し、残ったのは白の代表者のみ。
白の代表者は背中に翼を生やし、そのまま空へと飛んでいく。しかし、すぐさま黒の代表者‐‐‐‐マグノリアの手によって、地面に叩きつけられる。
「この時、ユカリとマグノリアの間になにがあったかを私は詳しくも知らない。
だが、それでもここで、マグノリアが諭した結果、ユカリは悪龍ではなく、我々についた。話はここで終わりだ」
フレアリオンが終了とばかりに、陽炎を、炎を消す。
しかし、僕は全てが納得できたわけではない。だって、なんというか、一番重要な部分がモヤッとしたまま、というか。
「まぁ、ともかく、重要なのはユカリは悪龍だったが今は仲間である、という事だ」
「どうして、それを今、僕に伝えるんですか?」
僕の質問に対して、フレアリオンは
「まぁ、それで動揺を誘う敵も出てくるかも知れないからな」
と答えてくれた。
納得できない部分もあるけど、とりあえず飲み込んでおこう。
「さて、それじゃあ2人が戻るまで、スバル・フォーデン。稽古をつけてやろう」
「稽古……?」
僕が聞くと、「私が一番、付き合いが長いからな」と彼女は答えた。
「これからはスバル・フォーデン、お前にも戦ってもらおう。なにせ、あのマグノリアの息子だ。
同じ力を持っているとすれば、我々の中で一番の戦力はスバル・フォーデンになる」
「僕が……一番?」
「あぁ、そうだ」
彼女は僕の肩にゆっくりと手を置いて、庭を指差す。
「私は火を司る火竜ではあるが、マグノリアの力を一番良く知っているのは付き合いが長い私だ。
力の使い方のコツ、それにマグノリアがどう力を使ったかを教えて見せよう」
「あ、あぁ……頼みます」
「遠慮するな、これから私達はスバル・フォーデン、貴様と家族になるんだから」
"家族になる"、その言葉がなんともむずがゆくて、照れてしまう。
今まで、そんな優しい言葉なんてかけられたことなんてなかったから。
フレアリオンによる修行は、およそ2時間程度。夕陽が完全に見えなくなるまで続いた。
そして歓迎会は、中止になった。
夜になって、「エクレルちゃんが、連れていかれましたっ!」というユカリの言葉によって。
☆
「ここですっ、ここでエクレルちゃんが消えたんですっ!」
次の日の朝、僕とフレアリオンはユカリに連れられて、件の場所----エクレルの消えた場所にやって来た。
夜からの捜索を危険と判断したフレアリオンの判断だった。
ユカリは必死に道の角を指差すが、1日経ってしまってるからか、見つからないからなのかは分からないけれども、そこにエクレルの姿はなく、落ちた買い物袋ただドロッとした赤黒い血のようなモノがこべりつくようにして落ちていた。
「これは……血、か? ユカリ?」
「赤黒いし、どう見ても血なんじゃ……」
僕とフレアリオンの視線に対して、ユカリは「それは血ではありません」と答える。
「それは恐らくですけど、私が買った【ディーディーレモン炭酸ハイパーDX】だと思いますです。確か、店員さんの説明だと、そういう色の炭酸レモンと聞いていましたし」
「普通の炭酸レモンって、こんな赤黒い色ではないような気もするけど……」
と言うか、それって確か、店長が上層部の無理やりのオーダーで仕入れたんだけれども、誰も買ってくれないって泣いていたやつじゃなかったっけ……?
僕がなんでそんな事情を知っているかと言えば、その店長があの父の友人だからだ。あの父の友人とは思えぬほど、押しに弱そうな人だったな、うん。
「‐‐‐むっ、これは」
と、状況を確認していたフレアリオンの、胸辺りにあるドラゴンの顔の目の色が金色に光り輝く。
「どうしましたか、フレアリオンさん? 金色って事は、もしかして‐‐‐‐」
「あぁ、そのまさか、のようだな」
金色の瞳がどうかしたのかと思っていると、僕達の目の前に黒い渦‐‐‐‐重力の歪みが生まれる。
その中から1人の女が現れる。
「よし、見事にマヌスをおびき出せたようですね。流石は、リュウシントである"毛女郎"のツカマルジョですね」
黒い渦の中から現れたのは、頭に8匹の蛇が巻き付いた変わった魔女帽子を深々と被った龍の女である。
「初めまして、私はドラバニア・ファミリーが幹部の1人----マフデルタ。
そしてあなた達の相手は私ではありません」
マフデルタがその後ろから、見慣れない別の女が現れる。……いや、こいつは女なのか?
マフデルタの後ろにいるのは、蛇のようなクネクネとした下半身を持つ女。
女らしいメリハリのついた身体つきで、遊女のような華やかな着物を着た上半身で、手は龍を思わせる爬虫類っぽい模様の手で‐‐‐‐
顔は完全に、サ〇コだった。
あの黒髪で、こっちに向かって迫ってくる、あのサ〇コそのものである。
顔全体、というか胸の下辺りまで伸びた黒髪のせいで全体よりもそちらに目が行ってしまう。
背中の方にも髪が伸びていて、腕も髪が纏わりついていた。
「お前がスバル・フォーデンの言っていた、銃弾龍マフデルタか。そしてその後ろにいるのは……ホラー映画でお馴染みの、サ〇コか?」
フレアリオンが悪気もなく疑問を口にすると、言われた当人であるツカマルジョなる龍女の長い髪が段々と逆立っていく。
「だっ、れっ、がっ、あんな気味が悪いだけの女であリンスか! あちきは毛を司る毛龍、【毛捕龍ツカマルジョ】であリンスよ!
えぇい、うるさいであリンス! 化粧が落ちてしまったで、あリンス!」
ツカマルジョは言った通り、胸元から化粧道具を出して、ぱんぱんっと、肌におしろいを塗りたくる。
「そうか、とりあえずお前を倒せば、2人は解放されるわけだ」
フレアリオンはそう言い、炎の弓矢を生み出すと、それをツカマルジョめがけて放つ。
投げたとは思えんばかりの勢いで放たれた弓矢は、ツカマルジョの左肩を吹き飛ばしていた。
「ちょっ……! このア知己の身体に傷を作るだなんて、最悪であリンス! 香水をかけなければ……!」
彼女はそう言って吹き飛ばされた左肩を、無駄に伸びる髪で作り出すと、胸元から香水を出して、それを自分に向かって何度も振りかける。
彼女の身体から甘ったるい匂いが、辺りに広がってくる。
「マフデルタちゃん、エクレルちゃんをどこにやったの?!」
「誰がちゃんですか、私は"ヤマタノオロチ"のマフデルタ! そして……あなた方のお探しの人物は、ここですよ? ‐‐‐‐ねっ、ツカマルジョ?」
ツカマルジョはと言うと、後ろの方まで伸びている髪の一部が動き、それがツカマルジョの前で檻の形となる。檻と言うか、虫かごのような形だろうか?
そして、髪でできた虫かごの中で、エクレルが必死に叫んでいる。
「みんな、スーちゃん! ごめん、捕まっちゃった!」
エクレルは、ツカマルジョの髪の檻の中でこっちに向かって、助けてと叫んでいる。
「……! 毛の中に捕まってるの?」
「エクレルちゃん!」
「エクレル、今から助ける。大丈夫だ、問題はない」
僕が龍の足、ユカリが龍の翼、そしてフレアリオンが龍の顔を出して、戦闘態勢に入る。
一方で、敵の態度は余裕そのものである。
「ふふっ、それは無理と言う奴ですよ。この《マヌスを全員捕まえるぞ》作戦の力を見るが良い! ツカマルジョ!」
「委細承知、であリンス!」
‐‐‐‐次の瞬間、ユカリの姿が消えていた。
「ユカリさん?! いきなり、どこに!」
「スバル・フォーデン、上だっ!」
と、フレアリオンは胸の龍の顔を上に向けると、龍の顔の口が大きく開いて、大量の火炎が辺りを覆う。それと共に、1本、また1本と焼けこげた髪の毛が落ちてきた。
「スバル・フォーデン、気を付けろ。相手は見えないくらい細くした髪を、触れさせることで捕まえる能力の持ち主だ」
「あぁ、その通りみたいですね……」
ふとツカマルジョの方を見ると、エクレルが入っている髪の檻の横に、今度はまた別の髪で出来た檻の中にユカリが叫びながら入っていた。
「ははっ! ネタがバレてしまったようですね、"毛女郎"のツカマルジョ」
「あぁ、そしてこれで終わりだ。毛捕龍ツカマルジョ!」
フレアリオンは先程と同じだけの火力を、ツカマルジョめがけて放つ。
放たれた炎は髪で防ごうとしたツカマルジョの身体ごと燃やしていく。
「熱っちいであリンス! 燃えるような恋以上に熱いであリンス!」
「今だ、スバル・フォーデン! お前に教えた、あの石の拳を叩きこめっ!
毛を司る毛龍ならば、身体の硬さはそれほど高くないっ! 先程の弓矢と同じく、すぐに吹っ飛ぶ!」
フレアリオンの言葉に、僕は行動で返す。
自分の拳に石を纏わりつかせて、そのまま彼女の上半身に向かって拳を振りぬく。
修行して得た、フレアリオンが知る、今の僕が出来る最強の技。
----ゴンっ!
しかし、その身体はまるで大岩を殴っているかのように硬かった。
「~~~っ!」
僕が纏っていた石の拳の方が、逆に壊れてしまったくらいだ。
なんだこいつ、毛の龍ってこんなに硬いの? それとも龍自体が硬いの?
「‐‐‐‐ツカマルジョ、一時撤退を進言します。えっと、戦略的撤退的な?
左肩も直さないと、なりませんしね」
「い、たたた…委細承知であリンス……。まぁ、また1人捕まえたので、良しとするであリンスよ」
このまま次の行動が来るのかと待ち構えていたのだが、意外にもあっさりと2人は黒い渦の中に消えていった。
2人を追い返す事には成功した、だけれども2人も敵に捕らわれてしまった。
【Tips】
〇龍としての性質
…それぞれの龍は"火"龍なら"火"、"雷"龍なら"雷"といった風に、自分が司る属性を1つ持っている。それに応じたものをある程度、操ることが出来る
また一部の龍は操るモノに、身体の性質が現れている。岩龍のドルラドルラの身体が岩のように身体が硬く、毛龍のツカマルジョの身体が毛のように柔らかいなど




