I can Fly! ー私にしか出来ない事ー(前編)
今回もご覧くださり、ありがとうございます
今回は敵であるドラバニア・ファミリーの幹部、マフデルタちゃんが登場しちゃいます
レイク・ラックタウン‐‐‐‐先日、街を糊だらけにする怪物が暴れたこの地にて、1人の女性が現れた。
文字通り、虚空から一瞬で現れたのである。
「やはりここが重要な地点みたいですね。えーっと、最終防衛ラインみたいな?」
彼女は笑いながら、そう答える。
宇宙を思わせるほど黒い服に、星々のように眩い黄金で大蛇が描かれている格好をした、変わった格好の彼女は、頭に8匹の蛇が巻き付いた変わった魔女帽子を深々と被りつつ、眼下に広がるどこにでもあるような港町を笑いながら見ていた。
「レイク・ラックタウン、辺境の星である地球の全体像からして見ればどこにでもあるような港町。しかしここは、マヌスの中でも重要な役割を持ったドラゴン‐‐‐‐マグノリアが過ごした地。そして彼女の忘れ形見も存在する。えーっと、息子みたいな?」
魔女帽を被った彼女‐‐‐‐【銃弾龍マフデルタ】は、なにもないはずの空中に手を伸ばす。
そして、いきなり手が虚空に消えたかと思えば、次の瞬間には、虚空から1枚の書類を手に掴んでいた。
マフデルタはその書類を、気密性高しという印鑑が押された個人情報たっぷりの成績表を、ゆっくりと読み進めていく。
「"スバル・フォーデン、歳は15歳。中学での成績はCのマイナス、なお理系科目においてはC判定。成績態度に問題はなし、ただし交友関係に難あり。協調性の欠如が伺える"か。
宇宙への進出に、未だにあんな原始的な乗り物で挑もうとする星です。このような紙切れ1枚で、生物の評価を下すとは、そしてそれがこうも簡単に他人の手に渡るとは。なんともおぞましい」
パチン、と彼女が指を鳴らすと、今まであったはずの成績表が急に消え失せる。
「やはり、この星は我々が侵略し、開拓せねばならない。
そう、白き龍の信徒たる、我らがドラバニア・ファミリーの手によって」
マフデルタは、信徒である証‐‐‐‐首から下げている金色の紋様に、敬愛のキスを済ませると、そのまま虚空へと消えていった。
☆
「るんる、る~ん♪」
レイク・ラックタウンの山の中腹あたりにある、ダットンの家。その山の入り口付近に、新しく二階建ての高級住宅が建てられていた。それも今時珍しい、一括払いで。
おしゃれで開放的なアイランドキッチン。全面が床暖房つきで、その上でデザイン性重視の家具が数多く並ぶ中、1人の女性がキッチンで料理を鼻歌交じりで作っていた。
彼女の名は、ユカリ。風を操る風龍にして、空を自由自在に舞う飛竜。
そして、この家を購入した3人のうちの1人、である。
「ご機嫌だな、ユカリ」
鼻歌交じりで料理する彼女にそう声をかけたのは、フレアリオン。
この家を購入した3人のうちの1人で、火を操る火龍でもある彼女は、仲間の機嫌が過去最高に良い事に気付いていた。
「当たり前ですよ、フレアリオンさん! なにせ、こうして私達の地球での巣、マヌス達のための巣がようやく完成したんですから! 嬉しいったら、ないに決まってるじゃないですか!」
「張り切りすぎだ、ユカリ。そんな事ではスバル・フォーデンの歓迎料理が焦げてしまうぞ」
「ご心配なく、フレアリオンさん。私は、こういう料理はあなた達3人の中で、一番得意なんです。
なにせ、マヌスの目的は、"人と共に生きる"。それならば、家庭を囲む料理は得意でないと」
るんる~ん、と上機嫌な様子で、ユカリは料理を進めていく。
もう少しすれば、エクレルがあのダットンの家から、マヌスにとっての一番重要人物である彼が、スバル・フォーデンくんがやって来る。
そう考えるほどに、ユカリの心は嬉しくて溜まらなかった。
----ピンポーン!
新居に鳴り響くチャイムの音に心を奪われたユカリは、コンロを止めるとそのまま玄関の方まで飛んでいく。文字通り、背中に翼を生やして、だ。
玄関を物凄い勢いで開けて、目の前の人物に抱き着いていた。
「はぁい、スバルくん! ようこそ、我らがマヌスの家へっ……へっ?」
「えっと、えへへ……」
扉を開けてユカリの目に入って来たのは、微妙そうな顔をしているエクレルの姿。その後ろに、目当てであるスバルの姿はなかった。
嬉しそうに笑みを浮かべていたユカリの顔が、一瞬にして絶望に満ちたような表情に変わっていた。
「……なんで、エクレルさんだけなんですか? スバルくんは、どこにいるんですか?」
「えっと、ですね……。そのぉ、ダーちゃんの家に行ったのは良いんですけど、既に学校に行ってて……だから、ね。ごめんなさい、ユカちゃん……」
エクレルの謝罪の言葉に対して、ユカリは冷たい視線のままで、外へ視線を向けていた。
「‐‐‐‐すぐさま、探します。私達の、マヌスの希望の星であるスバルくんを」
☆
学校へ登校する道すがら、僕は地面の岩を操作していた。
海の潮風がどことなく気持ち悪さを伝えつつも、僕の意識は道路を転がる石の方に向いていた。
僕が動かそうと意識を向けると、地面の岩はゆっくりと転がったり、上へ飛んだりと地球の物理法則ではあり得ない方向で動いてきた。
「なるほどね。これが地龍としての力、という事なのか」
今のところ、出来るのはこの石や岩を操る力。そして、あの戦いの中で出来た"歪み"を、"重力"を操る力……この2つくらい、だろうか?
石や岩を操るのは簡単なんだけど、重力に関してはさっぱりだ。ただ、出来ないというよりかは、単純にその力が溜まってない、と言うべきだろうか?
ゲーム風に例えれば、「〇〇を発動した、だが魔力が足りない」というような?
「(岩や石を扱うのに、今のところ問題はない。残るは重力操作、ってところ?)」
出来る事が増えると、同時にどこまで出来るかを知りたくなる。
出来たことが出来ないと、どうして出来ないかを知りたくなる。
僕が今気になっているのは、そういうところである。
あの時、出来た歪み、"重力"という力は非常に強力な武器。これからもあのような敵と戦う以上は、使えるようになっておいた方が良い。
どうもあの3人のドラゴン女と関わらなくても、敵さんは僕を狙って来る。
‐‐‐‐そういう話、みたいだし。
「さて、もう1回っ! 今度はこう、歪むのイメージで‐‐‐‐」
僕は空に、青く広がる空へと意識を向ける。
そして、空に、いやあの雲の辺りに、重力の歪みを生み出すイメージを、僕は心の中に確かなイメージを思い浮かべる。
「‐‐‐‐"重力操作"! "曲がれ"っ!」
そして、どうやら今度は上手くいったみたいである。
僕の目の前の空に、黒い靄のような歪みが生まれていた。その歪みの場所にある雲は、ゆらゆらと炎のように揺れ動いていた。
「やった、上手く行ったっ!」
拳を強く握りしめて、ガッツポーズ。
これで1つ、上手くいって‐‐‐‐
「痛っ!」
‐‐‐‐と、思ったら、目の前の歪みから女が現れた。
「(なんだ、この女?! どうして、あの重力の歪みの中から現れた?)」
とにかく、変な格好の女である。
頭に8匹の蛇がぐるぐると巻いた、まるで魔女が被るかのような円錐の帽子を頭に被って、派手な煌びやかな装飾の服を着た、ちょっと変わった女。
「(とにかく、警戒はすべきだ。だって、こいつ‐‐‐‐)」
そう、警戒すべきだ。
なにせ、この女は‐‐‐‐お尻から黒くて、太い龍の尻尾が出ているのだから。
「いったぁ~! 急に空間に乱れが出るだなんて、これだから辺境の惑星は嫌になります。えーっと、"田舎だと電波は繋がりにくくて勘弁!"的な?」
ひりひりと、痛むのだろうかお尻の辺りを数回撫でた魔女帽のドラゴン女は、その後、こちらをしっかりと見つめていた。
「‐‐‐‐で、君は何者なのかな? 女の尻を、卑しく見つめる変態野郎」
☆
「へっ、変態?! 誰が変態だ!?」
いきなり僕の事を変態だなんて言う魔女帽のドラゴン女にそう言い返すと、「人の尻にあんな熱視線を向けててそれはねぇ~」とそういう風に言い返されてしまう。
「1つ、知っておいた方が良い事を教えてあげよう。女ってのは、視線に非常に敏感なんだ。
案外、気付いていないと思っているのかもしれないが、私のこの胸に向ける熱視線も、ビンビンに感じていたよ?」
魔女帽ドラゴン女はそう言ってまるで僕にされたかのように、手を腰から上へ、ねっとりとした動きで嘗め回すかのように手を動かしていた。
ぶっちゃけ、エロい。多分、エクレルと同じくらいはありそうだし、若干そっちの方に視線が向いたのも事実である。けど、それよりも‐‐‐‐
「言いがかりは止めてくれ。僕が気になったのは、その魔女のような恰好の事だ!」
「魔女?! 魔女と言うのは、あの西洋の、胡散臭すぎる西洋の馬鹿女の事を言っているのですか?!」
魔女帽のドラゴン女は、先程までのような妙なインテリぶった口調はどこにやら。
ただただ、怒り心頭のまま、僕の胸倉を掴んでいた。
「私の、このイカすデザインの帽子を見て分からないの?! この、ぐるぐると帽子に巻き付いている8つの頭を持つ蛇が見えない?!
私は"魔女"なんかじゃない! あの、日本神話にも描かれている"ヤマタノオロチ"! 自身が住まう国の偉大なる伝承すら知らないだなんて、あなたはそれでもこの土地に住まう者か!」
何故かは分からないが、ひどく怒ったような様子で僕の胸倉を掴んだまま、魔女帽のドラゴン女は怒っていた。
「あなた達、この星の人間はそうだ! 自身の住まう地にある伝承を軽んじる! 歴史を、文化を、そこに生きて居た人々の息吹を、軽んじすぎている!
"朱の盆"のセツメズラもっ! "蟹坊主"のグルキャンサーもっ! あなた達は、そういう事情すら分かろうともしない! だからっ、あなたのような者は滅びるべきなんです!
自身の故郷すら大事に出来ない人間共は、我々にその故郷を明け渡すべきなんだっ!」
「くっ、苦しっ……いっ……」
息が出来ずに苦しがって、僕の意思に反応して近くの地面の石が、宙に浮かんで魔女帽のドラゴン女へと襲い掛かる。
「‐‐‐‐邪魔っ!」
しかし彼女は石なんかに見向きもせずに、空間に大きな真っ黒い穴を作り出すと、それを石の方に移動させる。
石は真っ黒い穴の中に吸い込まれ、そのまま出なくなった。
「なん……だ……その……穴は……」
「本当にっ! この星の人間は、無知で、無価値で、無秩序で、無作法で、困るっ!
だからこそ、この星は、我々のような地を大事にするドラバニア・ファミリーが支配すべきなんだっ!」
ばんっ、と地面に投げつけられる僕。
そして魔女帽のドラゴン女は、石を消し去った穴に右手を突っ込む。穴から右手を引き抜くと、その手には赤い風船と、メカメカしい銃が握りしめられていた。
「無知なあなたに教えてあげましょうっ! 私は日本古来に伝わる伝説の龍の後継、"ヤマタノオロチ"のマフデルタ!
そして、これから見せるのがっ!」
彼女が手を放すと共に、赤い風船がふんわりと上へ、そしてメカメカしい銃はすとんっと下へと向かっていく。
その際、その銃から、発音の良い外国人の音声で、英単語が読み上げられる。
【Rock! Harder Than Anything, Stronger Than Anything!】
「‐‐‐‐新たな同胞の誕生のっ!」
その落ちていく銃を、別の穴から出した左手で掴んで、引き金を引く。
銃から放たれたのは、銃弾ではなく、卵だった。茶色い卵は、黒いオーラを纏ったまま、風船にぶつかって、白い煙が爆発と同時に生まれる。
「‐‐‐‐瞬間であるっ!」
白い煙の中から、ふわふわと、1匹の龍が現れる。
そいつは、風船で出来た、おもちゃのようなドラゴンだった。
おとぼけた顔に、背中にはボロボロの傘。手には変な形の銃を持って、大きな口を間抜けそうに開けている。
「こいつこそ、我らドラバニア・ファミリーの新たなる同胞! "煙羅煙羅"の龍!」
「ちがうよぉ~。"円"じゃなくてぇ、"ドル"だよぉ~」
ぶ~ぶ~、とその風船みたいな龍は、大きく口を膨らませて、同時に身体を膨らませながらそう答える。
「おいどん、【隕石龍ドルラドルラ】ぁ~。そんな、なまえじゃないでごわすよぉ~」
ぽよんぽよんっ、と軽やかに地面から浮かびつつ、新たなドラゴンは僕の前に現れた。
しかも、ドラゴンを作れる女も一緒に、だ。
「(マジかよ……テレビ番組的には、怪人を作れる怪人って、基本的には幹部クラスだろうが?! なんだよ、なんで僕はそんな魔女帽ドラゴンに会ってしまうんだよ!
会わないように、会っても無事なようにトレーニングしてたのに?!)」
僕がゆっくりとあとず去る様子を見て、マフデルタと名乗った幹部女が深呼吸した後、話しかける。
「‐‐‐‐そう言えば、聞いてなかったね。マグノリアの息子。
君はなんで、1人でトレーニングをしている?」
「えっ……」
「君には、3人のドラゴンが勧誘に行ったことは知っている。なのになんで、1人でこっそりと、まるで逃げるかのようにしてトレーニングをしている?
トレーニングの効率を求めるならば、協力するだろう。彼女達がうざいのなら、力の訓練なんかしないだろう」
----だから、何故?
「何故、君は、強さを求める? マグノリアの息子、スバル・フォーデン?」
【Tips】
〇ドラバニア・ファミリーの階級制度
…軍隊などにおいて、統率を示すためにマークなどで身分を明確にする方法は多くとられる
ドラバニア・ファミリーではメダルの色によって、その人物がどれだけ偉いかを表す。また惑星侵略後に特権階級として扱われる際の基準にもなる




