White Dragon Team ードラバニア・ファミリー。ー(前編)
第4話、とりあえず敵組織を出します!
味方もドラゴンで、敵もドラゴンって、良いよね
あるところに、2匹の龍の神様が居ました。1匹は全身真っ黒な龍神、もう1匹は全身真っ白な龍神。
2匹は互いに互いの事が大好きで、いつもお互いに相手の尻尾をくわえて輪になって暮らしていました。
この2匹の龍神が互いに互いをくわえて出来ている輪の事を、始まりも終わりも存在しない究極の存在‐‐‐‐【完全なる輪】などと言われておりました。
2匹はウロボロスとして、何事もなく、ただただ平和に暮らしていました。
数百年、数千年……いや、数億年もただ2匹で穏やかに暮らしていました。
しかし、どんなものにも始まりと終わりがあるように、始まりも終わりもない象徴であるウロボロスにも、終わりが訪れました。
完全という存在であるウロボロスの2匹には、世界に滅亡と言う名の危機が迫っていることが分かったのです。
そして、その危機は、なにもせずにいれば自分達にも及ぶという事を。
数億年ぶりに互いの尾から口を放した2匹の龍神は、互いの意見を述べました。
黒の龍神は、事態の解決を望みました。可能ならば他の者とも手を取り合い、一緒になってこの世界の危機というものに立ち向かうべきである、と。
白の龍神は、事態の静観を望みました。下手に刺激して滅びが襲ってこないとも限らず、それならば自分達だけ危険が及ばない場所まで逃げるべきである、と。
互いに互いの主張の良い所が分かりましたが、それ以上に相手の主張がどれだけ理不尽なことか。
数億年もの間、一緒になっていた2匹ですが、ここに来て初めて相手が別の考えを持つ、別の存在であることを理解しました。
黒の龍神は世界の危機に対処するために、他の種族との協力を仰ぎました。
白の龍神は自らの身を護るために、同じ種族の皆と連携する道を選びました。
結果、黒の龍神の功績によって、世界滅亡の危機は回避されましたが、同時に多くの龍が命を落としました。
その頃には2匹の龍神の溝は限りなく大きくなっていました。
黒の龍神は"他種族と協力すれば困難な事も乗り越えられる"というこの経験により、他の種族との共存こそ正しい道であると考えました。
黒の龍神は自ら、そして自分の考えに賛同する龍達と共に、他種族との共存共栄するのを目的とした【マヌス】なる組織を作り上げました。
白の龍神は"他種族と協力すると自分達の側に大きな被害が及ぶ"というこの経験により、同種族との連携強化こそ正しい道であると考えました。
白の龍神は自ら、そして自分の考えに賛同する龍達と共に、自分達だけが生き残る事を目的とした【ドラバニア・ファミリー】鳴る組織を作り上げました。
マヌスと、ドラバニア・ファミリー。
黒の龍神と、白の龍神。
2匹の龍の神が生み出したこの軋轢は、未だなお、当事者である者達に大きな影響を残していました。
☆
「‐‐‐‐‐と言う訳で、スバル君は狙われているという事。どう、分かった?」
「全然、分かんない」
あの後、僕が気絶している間にセツなんとかが倒された後の事。
目が覚めると、僕達は大人しく家へと帰っていた。
正確にはフレアリオンに運ばれる形で、荷物のように家に持ち運ばれただけなんだけど。
だって、歩けないだろう?! 無理じゃない?!
いきなり気を失って、目が覚めたらコンプレックスの耳がさらに細長くなって、おまけに足はビックフットも真っ青な大足になっているんだ。
こんなのは、明らかに困惑すべき案件だ。
だからって、なんで僕の家まで運ばれるのかは全く分からないし。
その上で、父も3人の女に対してなにも反応しないのはちょっぴり反応しないし。
それはまぁあの父が女好きだと考えればそれでも不思議ではないのだけれども、それは別に……まぁ、あんな父だから良いんだけれども、実の息子が耳と足が怪物になってるんだぞ?
少しは動揺ってものを、持つのが親、ってものだろうが。
「それなのにっ! いきなり、父さんはあんたら3人を置いて、家の奥に行くしっ!
あんたらはあんたらで、意味の分からないドラゴンの話をするしっ! 僕の耳と足はこんなだしっ!?
いきなり、色々と起こりすぎだろっ?! まったく?!」
あんな大きな足で地団太を踏む訳にはいかないので、ぱんぱんっ、と両手で叩いて怒りを表す。
それに対して3匹のドラゴン女は家に入るなり、意味が分からない話ばかりするし、俺が戸惑うのも不思議じゃないだろう?!
いきなり見ず知らずの3人の女と息子を残して、リビングに残して書斎にこもるだなんて、正気の沙汰とは思えんだろう。
「スバルくん、私達の話をちゃんと聞いて、ね? 今、結構、大事な話をしてるから、ね?」
「そうだよ、スーちゃん! ユカちゃんの話は重要だよ? 例え、本人は胸ぺったんでお姉さんっぽくなくてもね!」
「エクレルちゃんは、私に喧嘩を売ってるの? ねぇ、絶対にそうだよね? そうに決まってるよね?」
胸ぺったんなユカリが背中から大きな翼を出して大きく羽ばたかせて、部屋の中の家具とかがふんわりと浮かび上がる。
そんな彼女に対して胸がかなり大きめなエクレルは両手を大きな爪にしながら、じゃりんじゃりんと鳴らしていて、時折なんだけどリビングの壁とかに傷ついてるんだけど。
「スバル・フォーデン、喚くのはたやすいだろうがその前に話を聞いて欲しい」
「…………。」
一応、この3人の中で一番冷静なのは、このフレアリオンなる女。
まぁ、胸にドラゴンの顔をつけている時点で、他の2人と同じで普通じゃないのは変わりはしないが。
「順序だてて話そう。まず、お前の足は私が鐘で強制覚醒したせいで、今は元に戻らないだけで寝て起きたら治る。それ以降は自分の意思で自由自在に出せるようになる」
「そ、そうなの? じゃ、じゃあ、耳は?!」
「耳は……前と同じに戻るだけだ。人間の耳にはならない」
「……。だったら、意味ないよ……」
前と同じ日々が続くだけ、いや足も気を抜くとこの大足になることを考えるとさらに悪化していると言えるか。
「次に、私達3人はスバル・フォーデン、お前の味方だ」
「そうだよ、スバルくん! 今日から一緒に暮らすんだよ?」
「やっぱり……」
なんとなく、そんな感じはした。
あの父さんの対応からして、父さんは母さんがドラゴンであることを隠してたに違いない。
だからこういう状況になることを、面白がりながら黙ってたんだに違いない。
きっとそうだ、それがあの父らしい。
「スーちゃん、お金に関しては心配しないで! 私達、人間のお金に関してはいーっぱい持ってるから!」
「どうやって稼いだんですか、その腕とか翼で。強盗とか?」
「スバルくんっ! ひどいっ! お姉ちゃんは、そんな事を言われて悲しいよ……しくしく……」
「安心しろ、スバル・フォーデン。ちょっとインサイダーしたら、天文学的とやらのお金を手にいれただけだ」
なにそれ、自慢ですか?
人間じゃなかったら、稼ぐのも楽、とかいう事ですか?
後、その泣き真似はちっとも同情を誘えない。それを分かってるんだろうか?
隣でエクレルが「どのゲーム欲しい? それともお菓子とか?」などと言いつつ、甘やかそうとカタログを見せるが、徹底的に無視する。
「で、最後にだが、私達の目的について。我々はドラバニア・ファミリーを追っている、そしてお前を守るために来た」
「それが一番分からない、そのなんとかファミリーはなんで僕なんかを狙ってる? 僕はあんたらから見れば、ドラゴンと人間の間に出来ただけ。ハーフドラゴンとか、そういう所だろう?」
「そのハーフドラゴン、というのが問題なんだ」
「見ろ」と、フレアリオンは赤い卵を取り出す。
僕の半分くらいはありそうなくらいに大きい、なにかの生物の卵。
白い肌に出ている赤い模様を良く見ると、どことなく炎……っぽい感じの模様に見える。
「これはお前が倒した……あの火酒龍の卵だ」
「卵?! えっ、どうして卵? なに、いきなり出産とかするの、あんたらドラゴンは」
「違う、出産ではない。これは文字通り、あの火酒龍とやら本人だ」
‐‐‐‐??????
まったく、意味が分からないんだが。
「ねぇ、フレアリオンさん? ここは私から説明して良い?」
「あっ、ずるいよ、ユカちゃん! あたし! あたしがしたいっ!」
「……ユカリ、頼む」
フレアリオンがそう言うと、ユカリは嬉しそうにガッツポーズ。一方でエクレルは拗ねたように床を蹴っていた。
「良い、スバルくん? 私達はマヌス‐‐‐‐つまりは黒の龍神様から生まれたドラゴンなんだけど、どこが変じゃない?」
「どこか、って……」
「例えば、私達がドラゴンっぽい部分とか!」
……そう言えば、なんか全員、ドラゴンというよりかは、ドラゴンっぽい部分があるというのが正しいのかも知れない。
フレアリオンは胸に顔、ユカリは背中に翼、エクレルは両手が大きな爪、そして僕が大きな足と耳。
ドラゴンって言えば、なんというか、こう‐‐‐‐翼の生えたトカゲのでっかい版というイメージなんだけど、これじゃあまるで人間にドラゴンの部分を無理やりくっつけたようなそういう感じがする。
「私達はね、スバルくん。ドラゴンなんだけど、実際にはドラゴンじゃないの。正確には、黒い龍神が生み出した使徒、って感じなの」
「使徒……?」
「そう、使徒。つまりは……まぁ、良いわ。私達は龍神様から龍としての生命と、そして龍神様と同じ部分を貰ってるの。けれども私達は、生物じゃない。使徒というもの」
言っている意味が、分からないんだけど……。
「つまりは、どう言う、事?」
「結論から言えば、私達に親は居ないの。私達はフレアリオンさんが持っているような卵のような形で、生み出されたものという事。
そして私達は生き物ではないから、死もない。年も取らない。代わりに、大きな傷を負ったりして身体が維持できなくなると、元の卵に戻ってしまう。私達はそういう風に生み出されたの」
「つまり、不老不死だけど、大きな傷を負えば、卵に戻っちゃうって事?」
良く分からないながらも、疑問符を浮かべながらそう答えると、ユカリは嬉しそうに満面の笑みで大きく手を叩いて、祝福してくれた。
「そうっ! 私達はドラバニア・ファミリーの悪龍を、そういう風に倒して、卵にしているの!
彼らの目的は自分達に住みやすい環境を作る侵略行為、それを止めるのが私達マヌスの役割ってこと!」
「……オーケー、なんとなく、なんとなくだけどそこまでは理解できた。じゃあ、なんでそれが、僕を狙う事に繋がるの?」
僕がそう言うと、ユカリが「それはねぇ……」と確信を告げるような口調で、タメを作ってたんだけど、
「それはねっ! エクレルお姉ちゃんが教えてあげよう、スーちゃん!」
いきなり、エクレルが割り込んできた。
ユカリが抗議しようとするも、エクレルは強引に僕に話を告げていく。
「スーちゃんはね、黒い龍神の使徒であるマグノリア様から生まれたっ! でも、私達使徒は本来、子供を産まない。"そういう風に出来ていない"。
けれども、スーちゃんは生まれてきた、ドラゴンの血と人間の血を合わせてっ!」
「だから、ドラバニア・ファミリーの連中は狙ってるんだよっ!」と大きな声で言う。
「"他の種族との共存こそ正しい道"と信じている、あたし達マヌスの教えの体現者!
それがハーフドラゴンである君、スバル・フォーデンなんだからねっ!」
☆
その夜、僕はなかなか寝付けなかった。
いつもだったらベッドに入ると、すぐに寝られるのに。
ゲームをして興奮して寝られない?
‐‐‐‐いや、違う。
パソコンのしすぎで目が起きてしまって眠れない?
‐‐‐‐それも、違う。
女体で興奮して眠れない?
‐‐‐‐絶対、違うっ!
僕が眠れない原因、それは分かっていた。
「ハーフドラゴンだから、狙われてるか……」
僕はエクレルの言った言葉が、ずっと頭から離れなかった。
彼女達の話によれば、僕を狙うのは地球侵略した際に、たまたま僕の事を知ったから、らしいのだが、それでも彼女達と敵対しているというドラバニア・ファミリーなる連中はこれからは僕の事も積極的に狙って来るらしい。
冗談じゃない、誰がそんな風に頼んだんだ。まったく。
「母さん……なんで、僕を生んだんだよ」
顔も見た事もない母、あんな父と結婚した母、そしてドラゴンである母。
彼女が普通の人間だったら、僕は今日こんな目に遭わずにすんだんだ。
今までだって、この変な耳だってなかったに違いない。
あんなドラゴン女3人が、家にやってくる事だって……。
「どうしろってんだよ、僕はただの中学3年生で、ヒーローなんかじゃないんだぞ」
来年には高校受験も控えている、それなのになんで地球侵略する組織なんかに命を狙われなければならない。
ふざけるんじゃないっ! 僕はごく普通になりたいだけなのに。
「あぁ、ダメだ。ダメだ。これ以上考えたって、無駄な物は無駄なんだ。さっさと寝よう」
僕はそう思って、目を閉じる。
【タスケテ!】
なにか声が聞こえる。
【タスケテ! ワタシハ ソンナコトシタクナイ!】
女の声、いや少女の声?
……ダメだ、幻聴だ。大人しく寝よう。
【大人しくした方が身のため、ですよ】
今度はさっきとは違う……女の声。
けれども闇の底から手招きしている死神のような、恐ろしい声である。
【イヤ! ヤメテ!】
【無理ですよ、あなたに選択の余地なんてないです。そう、えーっと、選択権はく奪みたいな?】
すごく古典的な、ドラマの展開である。
……いや、テレビの音にしては様子が違うような。
……! ダメだ、ダメだ!
寝る事に集中、集中だ。
【さぁ、あなたも我々の仲間となるのです! 偉大なるドラバニア・ファミリーの一員に!】
ドラバニア・ファミリー?!
まさか、この会話って……あいつらが言っていた組織のヤツの会話?
けど、なんで僕の耳にそんな声が聞こえてくるんだ。
「~~~~! あぁ、もう! 知らないっ!」
僕は無視して、枕を耳に押し付けて、無理やり眠りにつく。
悪い夢なら、とっとと消えろと願いつつ。
【Tips】
〇ドラゴンの生態
…宇宙のどこかにいる黒と白の龍神が生み出す卵には、龍の遺伝子情報が入っており、龍として生まれると生涯、その姿は変わらない
死ぬと卵に戻り、それまでの事は全て忘れてしまう




