Secret Ingredient of Chicken Soup -マイヨールの秘密-(中編)
ー前回のあらすじー
過去の世界に来たら、剣士のマフデルタと、スバルの母たるマグノリアを見つける
向き合う、剣士の女性とお姫様のような女性。
どちらも人間にしか見えないが、長く伸びる尻尾や鋭い爪などが、彼女達が人間ではない事を、龍であることを見せていた。
そんな剣士の女性、ドラバニア・ファミリーの幹部であるマフデルタは、20数年後には見せていない剣士スタイルで、刃を振るっていた。
「やっ! はぁぁ!」
刃を振るうと共に、黒い刀身から闇の斬撃となって、通り過ぎるモノ全てを消し滅ぼしつつ、お姫様のような女性へと向かってくる。
「甘くて、予想不足で、ダメね。マフデルタ」
一方でそれを迎え撃つお姫様のような女龍、マグノリアはと言うと、ぽんっと、地面を優しく足で叩いた。
それが合図だったかのように、地面がひょっこりと浮かび上がると、意志を持ってマフデルタが放つ闇の斬撃を自動的に防ぎ、それどころかマフデルタの後ろで剣士ゴーレムとなって、マフデルタに襲い掛かっていた。
「‐‐‐‐くそっ、またですか」
忌々しそうにマフデルタは、自分の背後の剣士ゴーレムを一閃。
「相変わらず、攻守優れた素晴らしい力。我らが同志たる風龍、【狩人龍ユカリ】を仲間に引き入れるだけの事はありますね。
1人だけと知って、チャンスと思いましたが、やはりあなたは、私の最高戦力でお相手しましょう」
「いずれ、また」とマフデルタはそう言って、剣で切り裂いて生み出した闇の穴の中へと消えていった。
「相変わらずなのは、あなたもですよ。マフデルタ。
むしろ、【フレアリオン】などが居ないからこそですが、あなたの消滅斬りは厄介ですからね。警戒していますよ、今でも」
闇の穴の中に消えてしまったマフデルタに対し、そういう評価を下したマグノリアは「さて‐‐‐‐」と、偉い勿体ぶった言い方をする。
「隠れてないで出てきた方が良いわよ、お二人さん?」
と、彼女が先程と同じように地面をこつんと叩くと共に、いつの間にか僕とマイヨールの二人は彼女の目の前に現れていた。
僕達も、そしてマグノリアも動いた感じではなかったはずなのに、いつの間にか移動していた。
こうして僕は、母親と初対面を果たした。
「まずは名前を聞かせてもらえないかしら? 可愛らしい少年と、お嬢さん?」
☆
「なるほど、"未来から来た人間と女の子"と来たか。こりゃあ驚きで、びっくりで、驚愕だね」
マグノリアはカップに入れたコーヒーをずずいっと、すする。
そんな光景を僕とマイヨールは「うわぁ……」と、若干引き気味な様子で見ていた。
「ん……? どうしたんだい、遠慮せずに飲んでよ。そのために二つ、入れたんだから?」
"未来から来た"などという、もし自分だったら素直に受け入れがたいような話をすんなりと受け入れたことに関しては、ありがたい。
こちらは、"僕が彼女の息子である"とか、"これから数十年後に人間と付き合う"とか、"リチャード・ラフバラーと名乗る者とあって行方不明になる"とか、色々と話せていないのに、そう言うのを抜きにして信じてくれて。
こちらに配慮してコーヒーを入れてくれたんだと分かってるから、飲みたいんだが‐‐‐‐
「いやぁ、ユカリからは【マグノリアさんは、台所には近付かないでくださいっ!】、なーんて言われてるけどさ。今はユカリも、フレアリオンも居ないから、仕方ないよね。
それに、コーヒーくらいだったら、私も入れられるって、これでユカリ達も納得してくれるでしょうね」
なんか、やってやった感を出しつつ、マグノリアはそう言うんだけれども‐‐‐‐
「いや、これは……」
「どうなんでしょうね……」
僕達の前に、マグノリアが差し出したコーヒーカップ。そこにはコーヒー……のようなナニカが、波打つくらいに、縁いっぱいに注がれていた。
けれども、カップに入っているのは、コーヒーのような、"ナニカ"である。
僕の知る限り、コーヒーは黒かったり、あるいはミルクとかを入れて、少し茶色っぽかったりするモノだ。
断じて、マグマを思わせる赤い部分や、金や紫なんかは、コーヒーとしては変だと思うんだけれども。
「ぷはぁぁ~! やっぱりコーヒーには、刺激と崩落が一番っ! だよねっ!
ささっ、スバルさんにマイヨールさんも、ずずいっと、遠慮せずに」
飲み物の味を伝える感想として、"刺激"はともかく、"崩落"はないだろう。うん。
そんな事を考えているうちにも、マグノリアの中で話は纏まっていたようである。
「ではっ、あなた達の話は大体、分かったわ。未来から来たのは良いんだけれども、その未来からこの時代に連れてきた敵と逸れてしまい、探しているって事ね。だいたい、分かったわ。
よろしい、今はユカリもフレアリオンも居ないけれども、この最強の龍として名高い私が力を貸しましょう! マヌスとしては、人のお役に立つ事は、積極的にやりたい性分でして!」
「どーんっ、と任せなさい!」と、お姫様ドレスの上からでも分かる大きめの胸を叩き、頼れる女の感じを見せつけるマグノリア。
「とりあえず、その敵を探すのは私に任せなさい! これでも私は、最強の龍なんで!
まぁ、見つかったとして、戦う術があるの? あなたは?」
「どうなの?」と、マグノリアは僕の顔を見て、そう聞いてくる。
マイヨールは「私は……?」と聞いているが、
「あなたは、マイヨールさんの方は大丈夫。多分だけど、光エネルギーを使うタイプの能力があるんじゃない?」
と、マイヨールが光のヨーヨーで戦えることをあっさりと見破りつつ、僕に対しては「大丈夫? 戦えるの?」と聞く当たり、ちゃんと見極めているようだ。
「(だてに、最強の龍と名乗っているわけではないみたいだ)」
「で、どうなの? 彼女と元の世界に戻るんだったら、一緒にいてくれないと困るし、そして戦えないとちょっぴり対処が変わってくるし、変化するし、変貌するんだけど」
マグノリアの言葉に、僕は自身が戦えない事を伝える。
一応、戦いの経験はあるとは伝えておいたのだけれども。
「なるほどねぇ、それだったらこれが良いかなぁ?」
ぽんっと、足で地面を叩くと、彼女の足元から銃が現れる。
金ぴかで装飾が美しい銃には、狐が模様として刻み込まれていた。
「じゃじゃーん! これは知り合いの龍に頼んで作ってもらった、名付けてキツネノ・モヨウジュウ!」
「狐の模様、銃……」
「そのまんま、ですね」
マイヨールの指摘通り、そのまんまのネーミングセンスに、ちょっぴり引いていた。
ちなみに、名付けたのはマグノリアらしい。
「これはね、引き金を引くと、相手に合わせて形や特性を変える、すっごい銃なんだよ!」
「めちゃくちゃ、凄い銃じゃないですか」
引き金を引くだけで、銃の方が勝手に相手に合わせてくれるだなんて、オーバーテクノロジー以外の何物でもないだろう。
護身用程度、と彼女は言うが、絶対にそのレベルではない事は確かである。
「まっ、お二人さんにはこの地龍にして最強の龍たる、マグノリアが付いてるし。
あのマフデルタに気を付けて、さっさとあなた達を元の世界に戻して‐‐‐‐」
「‐‐‐‐と、その前に」。マグノリアはそれだけ言うと、ガシッとマイヨールの手を取る。
「えっ? あ、あの、なんで私の手を?」
「だってスバルさんには戦える武器を渡したけど、あなたには武器とは別に問題があるじゃない」
「問題……?」
そうなのかな、とマイヨールの方を見ると、彼女は冷や汗を流しながら、マグノリアの方を見ていた。
あまりの汗に、手がつるっと滑りそうになる中、マグノリアは彼女を持ったまま、"浮く"と、
「じゃっ! ここからは女同士、裸の付き合いをしてくるわね!」
そう言って、家の奥へと行ってしまう。
「なんだったんだろう、いったい……」
マイヨールは確かにこの世界に飛ばされてから変であるとは感じているが、それがなにかとはズバッと言いきれなかった。
マグノリアは感じ取ったみたいで、ここは母に任せようと思いつつ、
「しっかし、これはどうなってるんだろう」
と、"宙に浮かぶ我が家"で僕はあっけに取られていたのであった。
☆
その頃、抜刀龍マフデルタは、滝のそばの洞窟の中で困ったことになっていた。
「‐‐‐‐はい、勿の論で、あなた様のお力になるべく、この【改変龍トロイメライ】めは馳せ参じたわけです! はいっ! 全てはマフデルタ様のために!」
いきなり隠れ家を見つけ出して押しかけて来た龍は、自らをドラバニア・ファミリーの一員と名乗り、自分と共にマグノリアを倒すのに、協力するという。
「(しかし、この龍……いや、彼女の言葉を語るならばリュウシントなる者は、奇妙な格好をしている)」
押しかけたリュウシントの恰好を一言で言い表すとしたら、仮面を付けた鏡女。
女性らしい丸みを帯びたフォルムは、鏡張りになっており、鏡の中では時計がカチコチと動いている。
顔の半分を隠す骨の仮面の奥で、キラキラと瞳を輝かせながら、彼女はマフデルタに忠誠を誓っているようであった。
「(恰好も変だが、それ以上にこの、彼女の階級はなんだ?)」
マフデルタは、トロイメライの首にかけてあるメダル‐‐‐‐ドラバニア・ファミリーの一員である証であると同時に、強さの指標を示すもの‐‐‐‐を見て、さらに違和感を覚える。
マフデルタの階級は王を除けば一番高い、金色の一等級。
もっとも、金とは言えども、自分の上には金色のメダル2つ持ち、超一等級の龍であるオキクロンがいるのだが。
そして銀、銅と続いており、これによって侵略した地域での、その後の対応が変わってくる。
しかし、トロイメライの首からかけられているのは、"金"と"銅"の2枚。
色が違うメダルを複数持つなんてのは、マフデルタが知る限り、聞いたことがない。
「……本当に、あなたは何者ですか? えっと、確か名前は‐‐‐‐」
「改変龍トロイメライ! あの最強龍マグノリアを倒すために、共に戦の闘をしに来た、あなた様に作られたリュウシントです!」
「……トロイメライ、ね」
まぁ、彼女が危険でないことは、マフデルタは感じていた。
実際、闇のワープゲートを用いて、彼女を背後から斬りかかろうとするも、彼女は危機感を感じつつも、ずっと自分の方を見ていたからである。
逆に言えばあのまま斬られて死んでも、それでもずっと見ているような、恐ろしい愛情を感じた。
「‐‐‐‐あなたが嘘でなく、味方ならば、これも皇帝の導きとして受け入れましょう。
龍の卵に物体を融合させるのは、今のところは私しかしていないはずで、そんな私が知らないのは気にはなりますが、あなたの言う通り、"過去へと遡る程度の能力"があるのならば、可能でしょうし」
「でっ、では! このリュウシントたる我が身を、使っていただけるのですね! マフデルタ様!」
「えぇ、勿論」
正直、マフデルタは援軍が来てくれたこと自体は、嬉しかった。
あの最強の、マグノリアと戦うのに各侵略惑星で生み出した同志も招集したが、全員もれなくやられており、マフデルタも倒されずにはいられるものの、勝つ光景がまったく見出せなかったからだ。
「(今まで勝てなかった相手に対し、今までになかった要素を加える。
龍の仲間‐‐‐‐彼女風に言えば、リュウシントを加えるという点で、賭けてみましょう)」
マフデルタはそう思い、「ところで‐‐‐‐‐」と未だにうれし涙を流す彼女に問いかける。
「どうやってあのマグノリアに勝つ? 彼女の能力は‐‐‐‐」
☆
「‐‐‐‐そう! それこそが、この私、マグノリアの能力!
《この惑星にかかる、全ての力を操る程度の能力》にかかれば、あなたの組織との連絡も簡単よ!」
お風呂でシャワーを浴びつつ、鼻歌交じりでそんな事を語るマグノリア。
「まっ、対処できるのにもちょびっとばかり限度はあるけどね。重力とか、斥力とか、そういう力の向きとかを変えたり、分散したりできる程度で、無敵ではないしね。
それでも、まっ、大抵は対処できるから、私に任せなさいっ!」
シャンプーで目が見えないながらも、マグノリアは自分の力をそう語っていたが、その力の事を同じ風呂で聞いていたマイヨールは
「(いや、普通に反則じゃないですか)」
という、感想を持っていた。
「(この女の龍、確かスバルさんの母親で、地龍----地に関する属性を操る龍、なんですよね?
それがなんで、重力や斥力とかの向きや力、ベクトルを操作するだなんて能力になるんですか! まったく!)」
ベクトル操作などという、まさしくチート級の能力を持っているマグノリアに対して、マイヨールは強い劣等感を抱いていた。
自分の力がヨーヨーに纏わせる光の力、というベクトル操作に比べると弱いというのもあるが、それよりも----
「‐‐‐‐あなた、なにか隠してるでしょ?」
‐‐‐‐先程、スバルに対して詰め寄ったのと同じ勢いで、マグノリアはマイヨールに詰め寄る。
綺麗な肌と大きな胸、服を着てないからこそ分かるマグノリアと言う地龍の美しさに、ごくりと喉を鳴らしていた。
「隠しているって、なにを……?」
「言ったでしょ? 私のは、《この惑星にかかる、全ての力を操る程度の能力》って?
例え未来の出来事とは言っても、私はこの星の上に乗って、地面に力を加えている人間の事も、副作用としてだいたい把握できています。プライベートな事は分からずとも、感情的な事は」
「把握できてるって……しかも、副作用」
ベクトル操作というのも凄いが、人間の感情も理解できるというのも凄いだろう。
副作用程度で、まとめて良い事ではないだろう。
「スバルさんが戦闘行為の話題が出るたびに負の感情を出していたから、戦闘出来ないのかな、戦うことが嫌いなのかな、平和主義者なのかなって思ってたんだけど、戦える手段がないから不安だったんだよね。
で、その問題は解決したから良いんだけれども、あなたの問題があるの」
「(ただのカマかけ、じゃなかったんですね)」
スバルに対して心配していたのは、産んではないが母親の勘、そう言う"なにか"かと思っていたんだけれども、それ以上に厄介な能力の一つだったみたい。
下手に言い訳しても追及されて、これは隠し通せないと思ったマイヨールは、素直に----自分の想いを吐き出していた。
「私は、リーダーの器じゃないんですよ……だって、"偽物"だから」
【Tips】
〇マグノリア
…マヌスの一員として、地球を守っていた地龍。マヌスの役目として、助けられるときには助けようとしている
地龍としての力は、ベクトル操作。自分がいる惑星で起きた力を操作して、向きの操作と強制使用を行う。多くのエネルギーを用いるが、その分、強力




