Welcome to My House. ーようこそ、地球へ!ー(後編)
第3話です、仲間がいっぱい登場します
分かりやすい名前なので、大丈夫だと思いますが、
最悪、フィーリングで大丈夫だと思っております
後ろから現れた3人の女性は、僕の方をじっと見ていた。
赤い髪の、2mはあろうかという長身女性。黄緑色の髪の、さっきの真っ平少女。そして金色の髪の、眼鏡をかけたモデルのような少女。その少女を含めた、3人組の女の人。
「まったく……いきなり逃げてびっくりしたじゃない? 大丈夫、スバルくん?」
まずそう話しかけてきたのは、さっきの女の人。そう、胸がまっ平らで、ぺったんこなあの女の人。
緑色のエメラルドのような瞳が、心配するような慈愛に満ちた瞳でこっちを見ていて、そして慈しむように手を伸ばして来ていた。
それをバシッと、眼鏡をかけたモデルのような少女が手を叩いていた。
「やめてよね、ユカちゃん! スーちゃんが怖がってるじゃない!
ここは皆のお姉ちゃんでもある、この【エクレル】お姉ちゃんに、まっ、かっ、せっ、なっ、さーい!」
ユカリなる、平たい胸の緑髪の少女に対して、自分に任せろとばかりに大きな胸を叩いて、自慢するかのように鼓舞していた。
「黙っててよ、エクレルちゃん! 今、スバルくんに必要なのは、確かな情報。どうして3人の少女が目の前にいるという状況なんて驚くに決まってるでしょ。
彼に必要なのは今、自分になにが起きているのか。それを教えるのが、私の役目! そう、私こと【ユカリ】だけの役目よ!」
「ち・が・うっ! 違うって! あたしっ! あたしなのぉっ! スーちゃんに教えるのはあたしの役目っ!」
「私よ、エクレルちゃん! わっ、たっ、しっ! ユッ、カッ、リッ!」
「ちがうのぉ~! あたしなのぉ~!」
なんか2人して言い合っているみたいなのだが、僕にして見れば早く説明して欲しいんだけれども。
けれども2人して言い合っていて、話が全然進まない。
「2人とも、静かに。わたしがスバル・フォーデンに説明する」
そう言って、片手で2人をそれぞれ持って、2mはあろうかという長身女性が前に出てくる。
長身女性が前に出ると共に、騒いでいた2人がようやく静かになる。どうやらこの長身女性が、この3人組のまとめ役、みたいである。
一番話が通じそうなこのリーダーさんに、僕は話しかける。
「……あなたは?」
「私の名前は【フレアリオン】と言う。お前の母、マグノリアとは故郷で親友だった」
「母さんと?」
「そう、お前の母さんと、だ。ちなみにこの2人も、マグノリアと同郷の友だ」
本当なの、みたいな視線を向けると、2人して首が取れんばかりに頷いている。
そうか、どうやらこの2人も母と知り合いだったのか。
「だけれども、残念ですね。母は出ていきました、うちの無神経な父に愛想尽かしてね。だから母に会いに来たのでしたら、残念ですが他を当たった方が良いと思いますよ? これ、子供ながらの忠告です」
母の知り合いだったら、母が居ない事にショックを受けるかもしれない。
そう思っての、子供ながらの忠告だったのだが、フレアリオンと名乗った長身女性は小さく首を振る。
「いや、我々の目的はあくまでもお前だ‐‐‐‐スバル・フォーデン」
「僕……?」
ぽかんと、呆気に取られた様子でいると、3人組の女性達は固まってなにかこそこそと話し出してしまった。
あぁ、あるよね。複数の女性が集まると、あぁいう風に囲まってなんか話をしてるんだよな。
しかもその話の内容が大抵、その近くにいる人の悪口だったりするから最悪だ。
この状況だと、悪口の内容は多分、僕の事だろう。
「……ねぇ、ダットンったらスバルにちゃんと説明してなかった事?(ひそひそ)」
「……ダーちゃんだよぉ? あのダーちゃんだったら、ダーちゃんなんだよ?(ひそひそ)」
「……えぇ、ダットン・フォーデンなら、ね(ひそひそ)」
失礼、違った。どうやらあの、破天荒な父の事だったみたい。
それだったら納得だ、あの父に迷惑して、僕は街の方まで降りて来たんだから。
「分かった、私から説明しよう。スバル・フォーデン」
「えぇっ⁈ いくらフレアリオンでも、そこは譲れません! ここは冷静沈着な、皆の頭脳である、このユカリがっ!」
「違うよっ、ユカちゃんも、フレーちゃんも間違ってるんだから!
ここはお姉ちゃんの役目なんだからねっ! エクレルお姉ちゃんに、任せなさぁぁい!」
3人があぁだこうだなんて言いながら、言い争っているのだが、僕としては早く説明して欲しいのだが。
そうでないと‐‐‐‐あぁ、もう! 近付いてくるっ!
「じゃあ、僕はこの辺で‐‐‐‐」
「いや、丁度いい。この方が、分かりやすいだろう」
逃げようとした僕の身体を、ガシッと手だけで僕の半分くらいはありそうなフレアリオンなる赤髪女性が掴んでいた。
「(冗談じゃないっ!)」
必死に身体を揺するが、まるでしっかりとボルトで留められた板のようにぴくりとも動かない。
まさしく固定、まさしく"最悪"だ。
「ん~! 居たな、居たぞ、居たんだな! ようやく見つけたぞ、裏切り者共!」
後ろから、僕の良く聞こえる耳なんか関係ないくらいの誰にでも聞こえる大きな声で。
自分に言い聞かせるような豪快な口調と共に、あの爆発を起こした火炎発射男が、僕達の所に現れた。
☆
僕達の所に現れたそいつは、顔が平たく、それでいて真っ赤な、人型の龍の化け物。
両肩に大きな酒の瓶を背負ったそいつは、口から大きな炎を放ちながら、僕達を虚ろな眼で見つめていた。
「ん~! 良い感じだねぇ、実に良い感じ。裏切り者どもよ、喜びたまえ! この【火酒龍セツメズラ】様と戦えるという、喜びを!」
そう言いつつ、首元からぶら下げている金色の紋章を自慢げに見せつけながら、酔っぱらったおっさんのようにふらふらな足取りで、こちらを見つめていた。
「龍……?」
間違いない、コイツが先程の爆発の、火炎の球を放った犯人である。
この距離から聞こえる、目の前にいる人物の心音からして間違いない。コイツはあの時と同じ人物であることは明白である。
しかし、僕が聞こえていたのは、音だけ。
だから、その音を発していた生物が、まさか龍だなんて、思っても見なかった。
「へぇ、コイツが今回の敵、ですか」
「うんっ! お姉ちゃんの力を見せつけるには十分な相手だねっ!」
そうして現れた酔っ払いの龍人間に対して、緑髪のユカリ、そして金髪のエクレルが僕の前に出る。
2人の女性は先程とは違って、明らかに姿が変わっていた。緑髪のユカリの背中からは大きな緑色の翼が、金髪のエクレルの両手は鋭い大きな金色の爪となっていた。
そして2人とも、目の前の龍人間のように、顔つきがドラゴンに似通っていた。
「(この2人も龍、なのか?)」
いきなり顔つきが龍に変わったユカリとエクレルの2人は、そのまま酔っ払い龍人間の方へと向かっていく。
酔っ払い龍人間は両肩の酒瓶から黄金の液体が放たれ、それが龍人間の口から放たれる炎が燃え移って、大きな炎になってユカリとエクレルを襲っていた。
しかし、ユカリとエクレルはそれぞれの龍らしい部分‐‐‐‐ユカリは翼、エクレルは爪で、それぞれ防ぎながら特攻する。
激しい戦闘、目の前で行われている戦い。
そういう激しい音、音、音っ!
ヘッドフォンを通しても聞こえる、激しい音っ!
「‐‐‐‐っ! うるさっ!」
「やはり耳が良いのだな、スバル・フォーデン」
そっと、ヘッドフォン越しで耳をそっと押さえる2m近い赤髪の長身女性、フレアリオン。
彼女の胸部には大きなドラゴンの顔が出ており、2人と同じく顔つきもドラゴンのようになっていた。
「これって、なに?! なんなの、あんた達⁈」
「ふむ……"なにか"と言われて簡単に説明するとしたら、ドラゴン同士で敵対している、という所か。ちなみに言えば、あの酔っ払いが敵で、私達3人が仲間、という事。そして君の母も。
----そして、君にも受け継がれてる」
彼女が手を叩くと共に、虚空から赤い鐘を取り出していた。
「この鐘は、龍の力に目覚めていない者の力を強制的に目覚めさせる【ブーリの鐘】。
これを使えば、君も我々、【マヌス】の一員だ」
「マヌス……?」
「世界を救う集団、そしてあのドラゴンたちから世界を守る者達だ。
どうだ、スバル・フォーデン? 我々と共に、君の母と同じように、世界を救わないか?」
急にそんな事を言われても、僕はどう答える事も出来ない。
むしろいきなりそんな事を言われて、すぐさま頷けられる人間なんて居ないだろう。
「ん~! うざいな、うざいぞ、うざいんだな! 喰らいやがれ、火酒の球!」
そんな事を決めかねていると、2人が戦っていた酔っ払い龍人間の両肩の大きな酒瓶から大量の酒を球状に生み出し、それに口から出した炎で引火。
生まれ出でし炎の球を、こちらに向かって‐‐‐‐てか、近い! ちか、ちかっと近いっ! ヤバいよ、軽い自動車並みだよ!?
「たっ、たすけちゅてぇぇぇぇ!」
ガシッと、フレアリオンに縋りつく。
いや、だってこの状況だったら彼女にしか‐‐‐‐ってか、迫ってくる! 音が、音が迫ってくる!
燃える、燃える音が、こちらに追って来るっぅ!?
「でえふぃどぇふどぇ! きうぇおこわこうぇ! たっ、助けてぇ!」
「‐‐‐‐しょうがない。選択は後で、だな」
フレアリオンはそう言いつつ、手に持っているブーリの鐘を一振り。
‐‐‐‐チリィン、鐘から幻惑のような透き通る音が鳴り響く。
☆
燃え広がり、大きく立ち上る火柱。
その火柱の中から、フレアリオンが無傷で現れる。
当然だ、このような些細な火なんかでフレアリオンが、火を司る龍であるフレアリオンがやられるはずがない。
火柱の中から現れるフレアリオンの姿を見て、ユカリとエクレルの2人がセツメズラを放って走ってきた。
「ちょっとっ、フレーちゃん! スーちゃんをどうしたのっ?! スーちゃんは無事なの⁈」
「そうですよ、エクレルちゃんのいう通り! あなたが守っていたはずですよ、フレアリオンさん! スバルくんはどうしたんですか?!」
スバルを心配するあまり、フレアリオンに食ってかかるユカリとエクレル。
いつもだったらリーダー格であるフレアリオンに対して2人は絶対にやらないのだが、2人の反応も仕方ないだろう。
特にこの2人にとって、スバル・フォーデンは"特別"だから。
しかし、それに対してフレアリオンは2人に、あの手に持っていた赤い鐘を見せる。
鐘を、ブーリの鐘を見てユカリが目を見開いていた。
「フレアリオンさんっ?! まさか、スバルくんにブーリの鐘を作った?! あの鐘は龍の力を呼び覚ますけど、その代わりに暴走するのに!? スバルくんが暴走してこの星を滅ぼしたら、どうするの!?」
「その時はその時、だ。しかし、恐らくはそうならない……」
「根拠?! あの鐘で暴走すると、大変になるっていつも言っているのは、フレアリオンさんじゃないですか!?」
そうやって自分を放って言い争う人物を、セツメズラは面白くなさそうな顔で笑っていた。
自分を無視して勝手に話し込んでいるのだ、面白くないだろう。
「えぇい、無視するならばこうだ!」
セツメズラはそう言って、お腹に手を伸ばす。
その龍のお腹はでっぷりと大きく膨らんでおり、見事にビールっ腹となっているセツメズラのお腹の真ん中には大きなコルクが取り付けられていた。そのコルクを自分自身で引き抜くと、出来た穴から何とも言えない黄色いガスが放たれる。
そのガスは風に乗り、フレアリオン達3人に向かって流れていく。
流れたガスを吸った3人はセツメズラと同じように、虚ろな瞳になっていた。そしてあっちへふらふら~、こっちへふらふら~と、足取りがかなり覚束ない。千鳥足である。
いや、3人ともちゃんと意識ははっきりと、セツメズラの方を向いているのだ。
だけれども身体が言う事を聞かない、自分の意識とは別の方向に動いてしまう。
「ん~! これぞ、俺の秘技『ノミカイ・アルハラー』の威力! お前らがどんな能力を持とうと、平衡感覚を狂わせれば俺の勝利!
ん~! さて、後は止めだなぁ!」
両肩の瓶から酒を放出し、炎を点けて、大きな火炎の球を作り出す。
その火炎の球は赤色から徐々に青へと変わっていく。
「ん~! 俺のこの火の球は、先程の火炎の球の10倍の温度だぜぇ! お前ら反逆者の龍を、このセツメズラ様の名に置いて処刑してやろうっ!」
青い色の火球を作り出し、自信満々な様子のセツメズラ。
あの熱量は龍であろうと、たとえ火龍であっても、小さな怪我程度では済まない。
もしかすると、という可能性もあるにはある。それに絶望すべきなのだろう。
しかし、3人の中でフレアリオンだけは違っていた。だって、既に分かっていたから。
それを知らないセツメズラは青い火球を放つ‐‐‐‐
----前に、大量の岩石が降り注いでいた。
「ん~?! 岩石⁈ なんでいきなり、岩が降り注いでくるんだ?! ん~、っと分からんぞ?」
変な顔をするセツメズラ。そんな彼の方に、どすんっ、どすんっと大きな足音が聞こえてくる。
「ん~? 誰だ、誰だな、誰なんだ? この足音はいったい、なんなんだ?」
くるり、と足音がする方向に顔を向けるセツメズラ。
そこには先程の、あの少年、スバル・フォーデンの姿があった。しかし、先程とは多少姿が変化していたが。
顔からは正気の欠片も感じられず、その瞳は無を映し出していた。
耳はヘッドフォンで覆いつくせないくらい長い黄色の、ドラゴンの耳に。
足は鎧を纏った大きな足へ。
そして、背中には金色に光り輝く竜玉が綺麗に輝いていた。
実に美しい、私達と同じ、ドラゴンとしての姿に覚醒した姿である。
「グワォォッォォオォォン!」
正気を失っているスバルは、大きな足で地面を蹴って、セツメズラまで一気に攻め入る。
そしてその大きな足で、一撃。
「ん~~~~!? いや、まだ死ぬわけには! こんな出オチ感で死ぬわけには!」
「‐‐‐‐【岩壁】」
しかし、セツメズラの願いは空しく、正気を失ったスバルは言葉を紡ぐ。
呟きに反応して、彼の左足に地面の砂や石などが纏わって、大きなトゲ付きの足になる。
その振りぬかれた足は、セツメズラの身体を貫いていた。
白い煙と共にセツメズラが消えて、赤い卵が地面に落ちると同時に、スバルはそのまま倒れて動かなくなった。
こうして1匹のドラゴンが新たに世界に誕生した。
その名はスバル・フォーデン。世界を救う、新たなドラゴンの誕生である。
ただしその事を彼が知るのは、この数時間後のお話だ。
【Tips】
〇妖怪/朱の盆
…いきなり驚かされるというのは誰しもが驚くことではあるが、この妖怪はその大きな赤い顔で驚かせるという妖怪である
一方で、火酒龍セツメズラの赤い顔は、ただ酔っぱらっているだけである




