Become Wonderful "Ane-"ー素敵な"姉"、アネモイー
風の神話関連、いっぱいありますが、
姉が付く、この神の名を選びました
----作者 談
【【いつか来るだろうこの日のために、考えていましたこの名称!
行きますよ、スバルくん! そして私! 僕/私の新たなる姿! 風と方角を司る、"姉"という素晴らしい単語を持つ、アネモイのデビュー戦です!】】
スバル・フォーデンとユカリが1つとなり、新たな龍が誕生した。
合体して誕生したのは、2mほどの美しい龍の姿である。
フレアリオンと合体して生まれるカグツチと比べると小さめだが、その分、身体がシュッとしてスリムで素早そうな姿。
足はなくなり、代わりに背中に4枚の透き通った半透明の翼をひらひらと動かしている。
頭には長い触覚のようなものが生え、首元にはふわふわといた雲が巻き付いていた。
【【行きますよ、スバルくん! 一緒に敵をやっつけましょう!
あぁ、ともに行こう! ユカリ!】】
アネモイの右手に荒れ狂う風が集まり、風はアネモイの意志を反映するかのように、1本の剣が生まれる。
合体して大きくなったアネモイの身体よりも大きな、大剣の刀身には【姉は無敵!】などという、なんともユカリらしい言葉が刻み込まれていた。
「合体されたのは厄介ですが、フレアリオンとの比べると、攻撃力は高そうに見えない。
その程度ならば、心が読める我にとっては、容易い! 容易い!」
オキクロンはそう言って、アネモイと同じく大剣を生み出す。アネモイとは違い、オキクロンは雷を集めて生み出して剣を生み出していたが。
オキクロンが生み出した大剣は真っすぐに伸びる装飾もない大剣ではあったが、刀鞘を含む刀の装飾具に4匹の龍が象られていた。
「心が読めるから、絶対に当たる攻撃を喰らいなさい! オキクロンの心読斬り!」
オキクロンは的確に、それでもアネモイを逃がさないと言うような様子にて、手にしている大剣を振るう。
しかし、アネモイはその攻撃には当たらず‐‐‐‐それどころか、彼女の身体はオキクロンのいる場所の遥か先。そこで4枚の翼で器用に空を飛んでいた。
「くっ……!」
対してオキクロンの身体には大剣で斬られたような大きな傷がついており、彼が持っていた大剣は真っ二つに割れていた。
オキクロンの額の三つ目は状況を整理するためか盛んに動いており‐‐‐‐そして、大剣で斬られた大きな傷から背中からぐるんっと、回転するプロペラが現れて回っていた。
【【見たか! このアネモイは攻撃力こそカグツチに及ばないが、その敏捷性に関しては随一なり!
心が読めようが、追いつけなければ意味はない! と思っていたが……どうも心が読める訳ではなかったようだな】】
クルクルと、オキクロンの背中から突き出ている4つのプロペラ。
そして額にある三つ目が、周囲の状況を理解しようと、しきりに動いていた。
「ん~? なにか書いてる? あれは、えっと……」
「あぁ、確かにそのようだ。プロペラになにか書いてるな。……どうも、【ドローン】って書かれているみたいだな」
と、自分で操れるモノでオキクロンとの戦闘に巻き込まれないようにしている、フレアリオンとエクレルの2人が、オキクロンのプロペラに文字が書かれているのを見つける。
オキクロンは攻撃を避けるため、加勢よりも逃がさないのを意識してもらったのだが、それが故に彼女達はプロペラに集中できたのである。
プロペラの文字が読まれている事を聞き、オキクロンは顔をにじませる。
先程までの優しさを感じるような顔ではなく、憎しみに満ちた歪みに満ちた顔を見せていた。
「‐‐‐‐アイ・ヘイト・ユー、我はお前らを"憎む"。
"覚"の方は気に入っているんだけれども、我が元となったドローンについては、我は好きになれない。なにせ、ドローンを見た時の母の言葉と言ったら、もうっ!」
どうやら、オキクロンは"覚"と呼ばれる事は良いようだが、"ドローン"と呼ばれることは嫌いらしい。
アネモイの中でスバルがそう思っていると、オキクロンの額の三つ目から金色の光が僕達を覆う。
【【むっ……なにかあったか?】】
「なんか……変な感じ……」
「あぁ、不気味と言うか」
特に違和感はない、けれどもなんとなく嫌な感じがする。
【【まぁ、関係ない! 一気に行く! 奥義で行っちゃうよぉ!】】
アネモイは持っている大剣を強く握りしめる。
握りしめると共に大剣の刀身が光り輝き、光り輝く刀身からは強風がビュービューと吹いていた。
【【完璧なお姉ちゃんであるアネモイちゃんの必殺奥義っ! 《お姉ちゃんの究極突き!】】
アネモイは4枚の翼を小刻みに動かすと、そのまま目にも止まらない速さでオキクロンの周囲を大剣を槍のように前に出して、何度も斬りつける。
目にも止まらぬ速さでオキクロンが気付かないように、大剣を使って何度も何度もオキクロンを斬りつけていく。
攻撃力では劣るカグツチに対抗するため、アネモイは目にも止まらぬ速さで何度も斬りつける。
これがアネモイの、いつかスバルと合体できる時が来たときに使おうと心に決めて考え出した必殺技である。
「‐‐‐‐よっ! ほっ! とりゃああああああ!」
しかし、その全てを三つ目から金色の光を放っているオキクロンは、紙一重で避けていく。
「無駄! 無駄無駄! 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁ!
‐‐‐‐我の真価、超一等級オミクロン系幹部、災害特異点のオキクロンの秘技! その名も《世界記録》!」
‐‐‐‐偶然もなく、運命すらなく、ただ必然である。
----全ての事象を、物体を、原子を、瞬時に解析できるために、次に何が起こるかを、未来を知りうることが出来る。
フランスの数学者が、そんな事が出来るのならば未来すら、その悪魔が決定しているのではないかとされた《ラプラスの悪魔》。
ただいま、オキクロンは限定的にではあるが、それと似たような事を行っているのである。
「どんなに速かろうと! 縦横無尽だろうと! 目に見えなくても!
読める! 詠める! 次に、何をするかが、お前の心が我には読める! だからこそ、お前らは我には勝てない! 災害は、ただ受けるしかないんだ!」
避け続けながらも、不気味に笑うオキクロン。
【【避けられてる! だが、負けない!】】
アネモイはめげずに、オキクロンに攻撃し続ける。
さらに速さを増し、オキクロンに休むすきを与えない。
「‐‐‐‐無駄だと言うのに! ならば、そろそろ反撃開始と行きましょうかねぇ」
オキクロンは避けつつ、雷で双剣を作って対抗しようとして‐‐‐‐思いっきり吹き飛ばされる。
「ばっ、馬鹿な……全部の事象を知りうるこの力で負けるはず……っ~!」
そんな時、オキクロンの身体が痛む。
‐‐‐‐先ほど、アネモイに一番最初に斬られた際の傷である。
その傷の影響によって、アネモイは上手く身体を動かせず、攻撃が当たってしまったのである。
「ちっ……! アイ・ヘイト・ミー、我はお前らに油断していた自分自身を恨む。
ここは一旦、退却すべきだな。キヌゴーシュも離反したうえ、これ以上の戦闘は無意味だ」
オキクロンは背中の、ドローンのプロペラを回して空を舞う。
アネモイが翼で追おうとするも、途端にベルトが赤く点滅しだす。良くある光の巨人のカラータイマーのように。
風は生み出せるが、翼は段々と力を失っていく……いや、元の2人に戻る準備をしている。
「追おうとしても無駄だ、さっきの《世界記録》の際にベルトの電力を減らしておいたからね。
普段はあまり用いない、雷龍としての我の力だ」
「逃がすかっ……!」
「雷だったら負けないよ!」
【【風から、無敵お姉ちゃんの風から逃れられると思うなっ!】】
3人はそれぞれ、逃げようとするオキクロンに火、雷、そして風を放つ。
しかし、《世界記録》によって相手の行動を完全に把握しているオキクロンに、避けられないというほどではなかった。
「スバル・フォーデン、か。思ったよりもハーフドラゴンの力は厄介極まりないみたいですね。
でも、この地球を手に入れるのは我らドラバニア・ファミリー。それを忘れず、いつか我らに組することを考えておいてくださいな」
‐‐‐‐アイ・ラブ・ユー、憎い相手でもそれなら我も愛してやる。
そう言い残し、オキクロンは空の彼方へと消えたのであった。
☆
「スバルくん! スバルくん! あぁ、スバルくんですっ!」
「スーちゃん! 元気になって良かったよぉ~!」
あれから……2日が過ぎた。
暦は7月16日となり、既に夏本番。
そんな中、スバルは‐‐‐‐こうしてユカリとエクレルの2人に抱き着かれている。
あの事件が終わったのにもかかわらず、心配でこうして抱き着いて、安心しようとしているのである。
「(暑いっ! すっごく、暑苦しい!)」
抱き着かれていることでユカリの寂しげな骨の感触も、エクレルのたゆんと豊かな乳の感触も。
2つが重なり合ったり、合わなかったりして、スバルに抱き着いてきているのだ。
正直、これだけ抱き着かれると冬だろうと、暑苦しくて熱中症で倒れるくらいの勢いで。
スバルとしては嬉し恥ずかし、という感じだろうか。いや、嬉し恥ずか"死"かもしれないが。
「2人とも、そろそろ離れるべきだろう」
と、1人だけ冷静にしているフレアリオンが、そう切り出す。
彼女の手には、今回の騒動の顛末をまとめた書類が握られている。
「すでにスバル・フォーデンは無事に、ダットン・フォーデンの豆腐料理のおかげで治った。スバル・フォーデンだけではなく他の者もけろっとした様子でな。
その事態を起こしたリュウシント、兎女龍キヌゴーシュはと言うと、ドラバニア・ファミリーを完全に離反し、今では‐‐‐‐ダットン・フォーデンの所で看板娘として働いている」
どうやらキヌゴーシュはあの味に、ダットンが皆を治すために《キヌゴーシュが作った豆腐よりも美味しいもの》‐‐‐‐ブリートに感動し、そして食材を掛け合わせる料理に心打たれた。
どうも彼女は今まで最高級の豆腐という食材を生み出せばそれが最上級だと思っていたらしく、それを掛け合わせることでさらに美味しくなる可能性があるという料理に心酔し、今ではダットンを師として崇め、拝み、崇拝している。
ダットンはダットンで「息子はいなくなったが、代わりにバニーが入ったぜ! ひゃっほぉ!」と言っていたが。
「そしてオキクロンの行方は分からず、かと言ってベルトを直した以上、深追いも禁物。
幸いなことにユカリとの融合形態、アネモイならば退けられて‐‐‐‐」
「はい、スバルくん! お姉ちゃんが作った料理で、さらに元気になろうね!」
「スーちゃん! 電気マッサージって知ってる? あたし、最近そーいうのを覚えてね!」
報告を無視している2人、そして困惑するスバルを見て、フレアリオンは嘆息。
「心配だというのは分かるが、少しは話を聞いてほしいものだ」
フレアリオンは書類を置いて、スバル達3人の方に向かっていく。
そしてひょいっ、とユカリとエクレルの首根っこを掴み、どけると、スバルにむぎゅーっと抱き着いた。
「忘れたのか、2人とも?
‐‐‐‐私も、スバル・フォーデンの事が、大好きな1人であることを」
第3の勢力の出現に、ユカリとエクレルはさっきまでの自分達の行動を棚に上げて、ずるいっと、詰め寄った。
しばらく、この3人に対するスバルへの過剰な接触は止まることはなさそうだ。
☆
そんな嬉しいような、恥ずかしいような、なにやら楽しそうな雰囲気が漂うレイク・ラックタウン。
それとは対照的に、超能力者マイヨール・ロスチャイルドなどが守るナイトレス・ハーバーシティでは、異常事態が起きていた。
常に最速を自称する黄色い稲妻やら、他人を蹴落としてでも最速を目指す別次元のスピードスター。
さらには超絶的に頭が良い機械仕掛けの迷惑男や、不幸のどん底に落とす時間の檻からの脱走者など、様々な悪党によって襲撃されているのだが、今回はそのどれとも違っていた。
地面は裂け、ビルは傾き、マグマは噴き出す。
地獄絵図のような光景なのにもかかわらず、整備されて人間が暮らしやすくなっているという矛盾。
街を歩く人々に歓声は聞こえず、ただ静かに暮らすだけ。
それはまるで、緩やかな滅びを待っているかのようだった。
「~~~~っ!」
そんな状況であろうと、マイヨールは諦めていなかった。
ヨーヨーの糸は千切れ、ヨーヨーという力の集まる場所をなくしてしまった影響で無理やり光の力を使おうとした腕が真っ黒に焦げて、折れ曲がろうが。
彼女の指揮していたメンバー、それに他の仲間達も倒れていようが。
この街を守るために結成された集団は、マイヨールは、その敵にまだ抗おうとしていた。
「意味な不明ですね、本当に」
と、そんなマイヨール達の姿を、この街をこんな有様に変えた者は異常だと評価していた。
こんな有様にして、その上でマイヨールを異常だと評したのは、顔に骨の仮面をつけた少女であった。
穴の開いた黒い鎧を身に纏い、右半分を骨の仮面で隠している。
モデルのような出るところが出ている身体つきをしている、ちょっぴりぽっちゃりめな彼女は、首から金色のメダルを下げていた。
そんな彼女の右手には龍の骨で出来た杖を手にしており、着ている黒い鎧には【全生/全帰】と書かれていた。
「そんな事をしたとして、この私に勝てると思うのですか? これだけ、力な量を見せつけたのに?
----無駄ですよ、超能な力者の皆さん。既にこの街は、我々ドラバニア・ファミリー、ひいては母のモノです」
骨仮面の彼女、ドラバニア・ファミリーの一等級幹部である【主役龍シグマズルカ】はそう言う。
「既に、この街は私の、星な龍の力によって、私のモノになったのですから」
そう驕るシグマズルカの左手には、スバルが持っているモノと同じ、真ん中に龍の紋章が刻み込まれたベルトを手にしていた。
【Tips】
〇風龍アネモイ
…スバル・フォーデンが覚醒して、ユカリと混ざることで生まれる姿
素早さが高まり、武器である風神剣による斬撃は鋭い突風を思わせる




