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人間×ドラゴンのハーフの少年、地球侵略ドラゴン達と戦う-ハーフドラゴンのスバルくんっ!-  作者: アッキ@瓶の蓋。


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The Last Supper-人生最期の豆腐-(前編)

さて、今回は変則的な怪人が登場!

武器は……豆腐?

 夕焼けが眩しい7月13日の、午後5時頃。

 リチャードがやって来て、覚醒ベルトというアイテムで大幅な戦力増加が行われてから、早1か月が経とうとしていた。

 あの覚醒ベルトによって、フレアリオンと合体する事が可能となり、大幅な戦力増加が可能となった。フレアリオン以外との合体はまだ出来ていないが、それでも前よりも楽になったのは事実だろう。

 スバルとフレアリオンの合体によって、それ以降のリュウシント達との戦闘は前よりも戦闘が楽となって、彼らの家は毎日、笑い声が溢れていた。

 


 しかし今、スバル達マヌスが集う家では、いつもとは違う、深刻な空気が漂っていた。

 暖かい声も、楽しそうな声も、何一つない、ただただ深刻(シリアス)な空気。



「どうして……どうしてなんですかっ!」


 バンッ、とユカリは机に手を叩きつける。

 そんな事をしたって何の意味もないのは分かってはいたが、それでも自分の無力さを、そして相手の強さを認めざるを得ない。そんな自分に腹が立って仕方がなかった。


「奴の力が遥かに上だった、そう言い切るしかない。認めたくはない、が」


 フレアリオンは覚醒ベルトを、完全な時に役立たなかったベルトをしっかりと握りしめていた。

 このベルトを使えば、マフデルタの時のようにカグツチと言う合体形態となって、あのリュウシントを倒せたのにだ。


「うぅ……スバルくん……」


 そして、エクレルは、ベッドの中で横たわるスバル・フォーデンを、泣きながら見つめていた。


 スバルは、彼はまだ生きていた。しかし、死にかけであることは事実だった。

 何故、こんな事になったのか。

 ことの始まりは、7月12日。そう、今日の昼間までさかのぼる。



 その日は、とっても暑かった。最高気温が30度越えて、日差しが強い日であった。

 昨日の夜いっぱい降り続けた雨の影響もあっただろうが、3日ぶりに晴れた影響もあっただろうが、すっごく蒸し暑く、レイク・ラックタウンにいる人達も暑さに参っていた。


「あちぃ~、こんな日に懐疑とか、本当に止めて欲しいわ」

「だな、暑すぎて何も考えられねぇ」


 そんな暑さの中、2人のサラリーマンが額から大量の汗をかきつつ、コンクリートの道を歩いていた。

 1人は脂ぎった顔の中年男、もう1人は腰の低そうな若手社員という、とある会社の営業コンビ。

 仕事に向かうためとは言え、暑くて、2人とも既に参ってしまいそうだ。まだ会社に戻ってから沢山仕事があるにも関わらず、である。

 2人の想いからしてみれば、早く会社に着きたいのだが、その前に倒れてしまいそうで、


「‐‐‐‐そんな苦しそうなお二人さんラビ。それでは、美味しい冷ややっこはいかがでしょうか?」


 だからだろうか。こんな真夏な昼間で、バニーガール姿の女の子から差し出された怪しい冷ややっこに、脂ぎった課長がつい手を伸ばしてしまったのは。

 そのバニーガールは持っているお盆に美味しそうな冷ややっこを載せており、その豆腐はとても美味しそうである。匂いだとか、見た目だとか、そういうのではなく、ただただその存在が美味しさを伝えてくる。


 課長が差し出された割り箸を使って冷ややっこを口に含むと、舌の上を豆腐の美味しい味わいが広がっていく。薬味一つないシンプルさながら、だからこそ、冷ややっこそのものの美味しさが伝わってくるようだ。

 課長は夢中で食べ進めていく。食べても、食べても、バニーガールが新しい豆腐をまるでわんこそばのように追加していくので、どんどんどんどん、食べていく。


「へぇ、食が細い課長がそんなにむしゃむしゃ食べるなんて珍しいですね。これは俺もその豆腐を一口、貰えますか?」

「はい、どうぞラビ。わたくしがいっぱい、用意しているので遠慮せずに食べて欲しいラビよ」


 そう言って、若手社員の方にもバニーガールが冷ややっこを差し出されて、その豆腐を一口、口に入れようとして、


「うっ……!」


 目の前で課長がうめき声をあげて、倒れたのを見て、慌てて口に含むのを止める。


「どっ、どうしたんですか?! 課長?!」

「うっ、うまうまうまうまうまうま……」

「かっ、課長?!」


 狂ったかのように「うまうま」と、その単語だけを口にしている課長を見て、若手社員は驚いて箸を落としてしまう。

 それを、地面に落ちきる前に取るバニーガール。


「ダメじゃないですか、お客様。さぁ、あなた様もレッツ、豆腐ライフでございますラビっ!」


 課長の様子を見て食べようとしない若手社員を見かねて、バニーガールは自分の手で箸を使って口へと豆腐を運んでいき----


「"風の刃"!」


 ぴゅーっ、といきなり吹いてきた風によって、豆腐があらぬ所に吹き飛ばされる。

 そして豆腐が吹き飛ばされたバニーガールは、何故かブリッジのような格好で困惑しており、むっくりと起き上がる。


「わたくしの、とっ、豆腐が?! 何者ラビ?」


 きょろきょろと辺りを伺うバニーガール。その問いに答えるかのように、「私ですっ!」と1人の女性が名乗りを上げる。


 黄緑色の髪の、スッとしたスリムな女性。

 女優かと思わんばかりの綺麗な顔のその女性は、背中から緑色の翼を生やすという非日常的な姿をしていた。


「風龍のユカリ、ラビか。同じ龍じゃから、すぐに分かったラビ」

「そう言うあなたは……兎? けれども龍? いえ、確かにこの雰囲気は……」


 と、翼を生やしたユカリは怪訝な顔をしていたが、バニーガールは懐からいくつもの手裏剣を取り出した。

 ----いや、手裏剣の形をした厚揚げ、である。


「龍、って言ってるラビ! わたくしは、偉大なるオキクロン様の部下である、兎女龍キヌゴーシュであるラビ!

 わたくしの崇高なる作戦を邪魔するなラビ、悪龍にして裏切り者のユカリめ!」


 キヌゴーシュと名乗ったバニーガール姿の龍は、そのままユカリに向かって手にしている手裏剣型の厚揚げを投げる。

 ユカリは掌の上に小柄の竜巻を作り出すと、厚揚げ手裏剣に向かってぶつけるように放つ。


 手裏剣は竜巻によって巻き上げられて、あらぬ方向へと飛んでいく。

 そのうちの1つが、若手社員の足元に、"思いっきり"突き刺さる。触ってみると確かにぷよぷよと美味しそうな厚揚げなのにも関わらず、まるで金属のように地面に突き刺さっている。


「(……?! なっ、なにがどうなってんだ! ヤバいだろ!

 いきなり黄緑色の女の人とバニーガールが変な戦いを始めて……訳が……分からない……)」


 あまりの状況に、若手社員は考えがまとまらず……そのまま、オーバーヒートして、気を失ってしまう。

 気を失う直前、若手社員の目に中年課長が映し出されていた。


 気を失う前に見る最後がこれとは、と若手社員は心の中でそう思っていたが、その際に気のせいかレベルだったが、


「(あれ……? 課長、なんだか肌が艶々になったような……?)」



「(こいつ、面倒ですね!)」


 ユカリは言葉にこそ出さなかったが、今相手にしているバニーガール姿のリュウシント、キヌゴーシュに苦戦をしていた。

 強いとか、そういう次元ではない。


 ‐‐‐‐ただ、すっげぇぇぇぇぇ避けるのだ。


「麻婆豆腐光線! 続いて、肉豆腐ウエーブ!」


 ユカリの攻撃に対しては、相手はいきなりその場で止まったり、あるいはブリッジをしたり、それから飛び上がったりと、予想できないやり方で攻撃を完璧に回避している。

 予測とか、予想とか、そういう次元の話ではなく、まるで攻撃が来る場所が分かっているかのようである。ユカリが使う攻撃は無味無臭の風、見るとかの次元ではないと思うのだが。


「(あるいは、もしかして……)」


 一方でキヌゴーシュの攻撃は……はっきり言って、ただの色物攻撃だった。

 "麻婆豆腐光線"と言って隠れてない目から麻婆豆腐の光線を出して来たり、"肉豆腐ウエーブ"なる頭の髪……失礼、髪替わりな頭の羽根を波のように、何故か肉豆腐と共に飛ばしてくる。

 食べ物のの無駄使いとか、そういう事を思い浮かべてしまうくらい、豆腐をイメージするような攻撃だった。

 攻撃を受けるどころか、受けても大して攻撃になってない。


 ‐‐‐‐どんな攻撃でも絶対に避けるキヌゴーシュに、攻撃を受けても大してダメージになってないユカリ。

 2人の龍の戦いは、長引くことは確かであった。


「(まったく……スバルくんのために美味しい料理を作りたかったのに!

 こんな避け避け女なんか、早く倒して!)」




 そう思って、さらに激しく、さらに素早く、風の刃を放つも、キヌゴーシュは完璧に避けている。

 物理法則や戦況判断などの要素をすべて無視し、避けやすいという体勢を無視して、キヌゴーシュの身体はどんな攻撃であろうとも完璧に、完全に避けている。

 今のユカリが放った攻撃を、キヌゴーシュはなぜか土下座という意味不明の行動で避けたのを見て、ユカリは考えていた事が事実であると確信した。


「やっぱり、あのキヌゴーシュ……」


 ----だとすると、とても厄介だ。

 ユカリがそう思っていると、


【【待たせたな、ユカリ!】】


 後ろから、頼りになる声が聞こえてくる。


「カグツチさん!」


 そう、2つの頭を持つ3mの高身長な女性‐‐‐‐スバルとフレアリオンの合体系、カグツチ。

 今の、地球にいるマヌスの最高火力である。


「(私達の最高戦力なら、このような豆腐バニーガールなんて一撃でっ!)」


 ユカリはガッツポーズをしており、カグツチと一緒に来たエクレルも「いっけぇ~! カグツチっち!」と、負けることなど信じてないようである。

 カグツチは、火山をモチーフにしたバズーカ砲を構え、引き金を引く。


 引き金を引くと共に、カグツチのバズーカ砲から大量のマグマが、直線状の光線となって放たれる。

 マフデルタの最強技すら防ぎ、今まで出てきたリュウシントを一撃で倒したその光線を、


 キヌゴーシュはペラペラと飛んで避け、ノーダメージだった。


「えっ!? カグツチっちの攻撃が、なんで一瞬で?!

【【もしや……こいつ、羽龍か? 厄介な、羽龍なら相手にし辛い】】


 カグツチの身体の中にいるフレアリオンは、"厄介"だと感じていた。なにせ、あのキヌゴーシュが羽龍だとしたら、厄介極まりない。



 マヌスとドラバニア・ファミリー、いわゆるドラゴン達は、基本的には1つ、属性を司っている。

 火龍だったら火を操り、糸龍なら糸を操り、霧龍なら霧を操り、毒龍なら毒を操る。

 そんな中、操る物質に影響を受けすぎてしまうモノもいる。

 元が風船なのにも関わらず、硬い体を持っていたドルラドルラも岩龍として、岩の硬さが出ていたから、かなり堅かったのだ。

 

 それとは逆に、物質に影響されてしまって、龍として弱くなってしまった、代表的な3種類の龍がいる。


 毛と同じだけの細さと脆さを持ってしまった、毛龍。

 錫と同じだけの柔らかさと熱伝導性になってしまった、錫龍。

 そして----羽と同じだけの軽さを手に入れた、羽龍。


 この3匹はマヌスの中でも有名。

 だからこそ、海水を吸収するアフロディーノ。それに檻のようにして捕まえてくるツカマルジョなどと相対する時に、弱いと思っていたのだ。

 もっとも、ツカマルジョの方はと言うと、煙を石に変えて防御力アップするドルラドルラの援護で、防御力を底上げしていたのだが。


「(キヌゴーシュは避けているんじゃない、ただ軽すぎて、攻撃の衝撃波で"吹っ飛んでいるんだ")」


 火も、風も、攻撃が当たる前に相手の近くに、キヌゴーシュは余波を喰らっていた。

 ダメージになる前の、地震で言うと余震の部分を。

 そうして攻撃が伝わる余波、ただの風圧なんかで、キヌゴーシュは吹っ飛んでいた。


 避ける以前に、ただ風を受けて飛ぶ羽のように、飛んでいただけだったのだ。


【【じゃあ、避けられないように重力の力で! ダメだ、スバル。重力で捕らえる前に逃げられてしまう】】


 敵として、最も倒しづらいとされる羽龍。

 だが、攻撃が強いなどと言うこともないはずなので、ユカリは慎重にやれば勝てる、と思っていたのだが----


「----えいっ」


 と、いつの間にか懐に潜り込んでいたキヌゴーシュが、カグツチの口に"豆腐"を入れた。



 カグツチが豆腐を口にした途端、ベルトを外していないにも関わらず、2人の身体が分裂する。


「なっ、なにが起こったというのだ? そうだ、スバルは?」


 いきなり別れてしまったフレアリオンが辺りを見渡すと、近くで倒れたスバルの姿があった。


「スバルくん! スバルくん! 起きてください!」

「スーちゃん! 起きてぇ、寝るには早いよぉー!」


 倒れたスバルを心配して、ユカリとエクレルの2人が駆け寄っている。

 2人が見ているから無事だろうと、フレアリオンはそう思い、キヌゴーシュを見ていた。


「……キヌゴーシュ、と言ったか。私達に、何を食わした?」

「簡単な事ラビ。ただの、美味しすぎる豆腐ですラビ」


 あっさりと、キヌゴーシュはフレアリオンの問いに答える。


「厳選、選別、そして抽出。何度も何度も繰り返して選び抜かれた最高の方法と素材で作り上げた、キヌゴーシュ様特製の、超逸材の豆腐でございますラビ」

「……それで、どうしてスバルが倒れる?」


 そう、ただ美味しすぎるだけならば、人が倒れるはずもない。

 それにフレアリオンがここに来るまでに見た、穏やかな顔をして倒れたままの人を見ると、恐らくあの豆腐は----


「……まぁ、あまりに美味しすぎる豆腐ラビから、わたくしの豆腐を食べた人は、倒れますラビ。

 美味しすぎるあまり、大抵、未練がなくなって死ぬラビがね」



「‐‐‐‐"生物はなんで生きるのか"、わたくしは生きがいを持っているからこそ生きていると思っているラビ」


 と、倒れているスバルを介抱しているマヌスの3人に対して、兎女龍キヌゴーシュはそう答えていた。


「"好きなアニメの最終回を見たいから"という理由で、死んでもおかしくない怪我でも行き返った者。

 "愛する人に会いたいから"という理由で、事故にあったのに何事もなかったかのように歩いた者。

 "パーティーに参加したいから"という理由で、常人以上の力を発揮する者。

 ‐‐‐‐要するに、生きがいってのは生物を、理屈や理論などに縛られていない埒外を引き出すモノなのラビ」


 「だからこそ、生きがいがなくなった生物は弱いラビ」と、キヌゴーシュは続ける。


「わたくしの豆腐はとても美味しい! パーフェクト! ビューティフル! エクセレント! それこそが、わたくしの最高級にして超絶なる豆腐なのラビ!

 そして、この豆腐を食べたものは、あまりの美味しさ故に、生きがいを----この世に残りたいという未練を消し去ってしまうラビ! それこそ、わたくしの【豆腐による安楽極楽浄土】大作戦ラビよ!」

「要するに、豆腐が食べると、皆、倒れてしまうって事……だな。スバル・フォーデンのように」


 フレアリオンが短く、そう纏め上げ、キヌゴーシュは説明はもう十分だと言わんばかりに、豆腐を片手に別の場所に行こうとする。

 同じように、自分が作り上げた超最高級の豆腐を人々に振舞って、人間達を緩やかに安楽死させるという事を。


「待ちなさい! あなたを倒して、スバルくんを元に戻しなさいっ!」


 ユカリは必死な形相にて、どこか別の場所に豆腐を振舞おうとするキヌゴーシュを止めようと、翼を出して、彼女の後を追う。

 特撮番組にて良くある、事件を起こしている怪人を倒して元通りという事を目指して。


「‐‐‐‐とまぁ、そういう風に、うちの部下を倒させるわけにはいかないんですよね。

 アイ・ラブ・ユー、愛している君達の行動を妨げたくはなかったんだけど」


 しかし、追おうとするユカリを、いきなり現れたオキクロンが止めていた。

【Tips】

〇キヌゴーシュの豆腐

…多くの人間は「何故、生きるのか」と言われて、すぐには答えられない。けれども生きなければならないと、無意識のうちに信じている

 キヌゴーシュの豆腐はその気持ちを揺さぶり、美味しすぎるモノを食べさせて、未練を失わせて、死へとゆっくり誘う

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アルファポリスでも、連載中です cont_access.php?citi_cont_id=836368854&s
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