表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
身代わり令嬢に終わらない口づけを  作者: 和泉 利依
第五章 たった一度の口づけ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/50

- 8 -

「俺は……」

「みんなもあんなに楽しそうじゃないですか。一緒に踊りましょう」

 戸惑っていたレオンだが、ふいに肩の力を抜いて、ふ、と笑った。

「どうせ、お前と共にいられる最後の夜だしな」


「レオン様、何か言いましたか? 周りがうるさくて声が……」

「いや、なんでもない」

 レオンは、引かれていたローズの手を持ち直すと、上品に腰を曲げてローズに向かって貴族の礼をとる。


「踊っていただけますか? お嬢様」

 まるで宮廷のホールにいるように、レオンは気取って言った。虚をつかれたローズだが、まけじとスカートの裾を片手で引いて優雅に腰をおとす。

「許します」

「恐悦至極」

 そのやりとりを面白がって見ていた人々が、二人が手をとると大きな歓声をあげた。祭りは最高潮に達しようとしていた。そうして二人は、何曲も何曲も、夜が更けるまで踊り続けた。


  ☆


 踊りつかれたローズは、木にもたれて一休みすることにした。

「もういいのか?」

 隣で同じように木にもたれたレオンが言った。


「ちょっと休憩です。あの火は朝まで続くのですか?」

「俺も最後までいたことはないが、明け方まで踊る者もいるそうだ」

「綺麗ですね」

 ちらちらと舞い上がる炎の柱は今だ高く、その周りで踊る人々を黒い影に変えている。幻想的なその風景を、ローズはぼんやりと見つめていた。


「……方、が……」

 小さい声が聞きとれずに、ローズは問いかけるような視線をレオンに向ける。けだるげに木に背を預けたレオンが、微かに笑みを浮かべてローズを見下ろしていた。その姿に、ローズは小さく息を飲む。

(レオン様って、こんなに色っぽい方だっけ……)

「……と、言ったんだ」

「あの、聞こえません。もう一度……」

「お前の方が綺麗だ、と言ったんだ」

「え……」

 とっさに何も言い返すことができずに、ローズは固まった。そんなローズを見下ろすレオンの目が、何かを決意するようにきつくなる。


「やっぱり、嫌だ……」

 絞り出すような声で言われたその言葉の意味をローズが問う前に、ふいにレオンがローズを引き寄せて強く抱きしめた。

「!」

「お前を、誰にも渡したくない。たとえ……兄上でも」

 ローズの細い体を、レオンの硬い腕が包みこむ。合わせた胸に早い鼓動を感じて、ローズの体が一気に熱くなった。


「あ、あの……!!」

 抗うこともできずに硬直するローズからゆっくり体を離すと、近い距離でレオンは彼女の揺れる瞳を見つめた。

「この先何があっても、俺を選んでくれるか?」

「……どういうことですか?」

 混乱したままローズは聞き返す。


 今のレオンは、恐れを感じるほどにひたむきな顔をしていた。だからとても大事なことを言っていることはわかるのだが、ローズには話の意味がつかめない。

「家も、すべてもなくすことになっても、俺はお前を離したくない。だから、頼む。お前も……俺だけを、選んでくれ」

 ただ、切羽詰まったようなレオンの言葉に、ローズの心が不安でかき乱される。


「レオン様、一体、何を言って……」

 そのローズの頬に、レオンは、そ、と片手を添えて仰向かせる。大きな手の熱は、ローズを宥めるように暖かく力強い。そのまま、覆いかぶさるようにレオンの顔が近づいてくる。

(レオン様……)

 レオンの吐息がローズの唇にかかって、ローズのまぶたが落ちかけた。


「ベアトリス……俺は、お前を……」


 囁かれた名前に、ローズは、雷に打たれたような衝撃をうけた。


(そうだ! 私は、今はお嬢様の……)


「っごめんなさい!」


 触れるほどに近づいたレオンの身体を、思い切りローズは突き飛ばした。驚いたような……傷ついたような顔のレオンをその場に残し、ローズはその場から逃げ出した。


  ☆


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=9269224&siz
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ