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「私もよく父に言われました。伯爵令嬢ともあろうものが旅芸人の真似事などするな、と。練習を積んで上達していく楽しさを、きっと父も公爵様も知らないのですわ。それに」
ローズは、じ、とレオンの目を見つめる。
「レオン様の音を聴いた時、私も、なんて力強く優しい音なんだろう、と思いました。そして、その吹き手はやはり、音から感じた印象そのもののお方でしたわ」
そう言ったローズに、レオンは眩しそうに目を細める。
「……俺よりもずっと、兄上の方が上手だった」
「トラヴェルソですか?」
「トラヴェルソでもリュートでも……やはり父上も、そんな芸人のようなまねは、といい気はしなかったようだが、兄上は何をやらせても器用にこなしていた。だが」
前を向いたのレオンの目が、どこか懐かしいような色を浮かべる。
「兄上は、すぐに飽きた、と言って二度と楽器を手にしなかった」
「お兄様にも、楽器の楽しさがわからなかったのですね」
「そうではない」
レオンはちらりとローズに目を落とす。
「俺がこっそりとトラヴェルソの練習をしているのを知っていたからだ。子供のころから何かと兄上に比べられていた俺に、兄上も気を遣ったのだろう。時折、難しい曲などは手ほどきしてくれたから、嫌いではなかったと思う」
「優しいお兄様なのですね」
「ああ。兄上は俺の誇りでもある。……お前も、近いうちに会うことになる。いい男だ。きっと、お前も気に入るだろう」
そう言ったレオンの眉が切なげに寄せられるのを、ローズは不思議そうに見上げた。
「レオン様?」
ローズにかけられた声に、レオンは、はにかんだように笑った。
「もし……もし、機会があれば、また、共に音を合わせてくれるか?」
「はい、もちろん。喜んで」
ローズが笑って答えると、レオンも嬉しそうに笑った。けれど、その笑顔に先ほどから一抹の寂しさが含まれることが、ローズは気になっていた。
(どうしたのかしら……?)
「ああ、ちょうど火がつけられたところだ」
人ごみをかき分けて進んでいくと、広場の中央にはたくさんのかかしが集められていた。その端の方にたいまつを近づけると、わらでできたかかしにはあっという間に火がまわっていく。まわりを取り囲んでそれを見ていた人々から歓声があがると同時に、誰からともなく手に手をとって踊り始めた。自然にそれは、一つの大きな輪になっていく。
陽気なアコーディオンやリュートが軽快な音楽を奏で、人々の笑い声が響く。わくわくした気分でそれを見ていたローズも、自然と体が動いてしまった。
「お嬢さん、お手をどうぞ」
すると、踊っていた若い男が一人、ローズの前に手を差し出した。
「私……?」
「そう、君だよ。踊りたいんでしょ。どう? 僕と一緒に……」
「彼女は、私の連れだ」
戸惑うローズの前に、無理やりレオンが入り込んだ。
「なんだ、彼がいたんだ。残念! 二人で祭りを楽しんで!」
声をかけられたローズは、少しだけ昼間の男たちを思い出してひやりとした。けれどあの時のように絡まれたりはせず、どうやら本当に祭りを楽しんでいるだけの青年のようだった。
ほ、としたローズの顔を心配そうにうかがって、レオンが聞いた。
「もう帰るか?」
「いえ、せっかくですもの。私たちも踊ってきましょうよ!」
ローズは、目を丸くしたレオンの手を引いて広場へと踏み出した。




