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「またあなたの入れ知恵ですか?」
「私はただ、一般的な女性とのお付き合いの仕方を教えて差し上げただけです。食事に贈り物……きっとこのあとはダンスを申し込まれますよ? 教えられて型通りの事しかできないのは、レオン様にとって女性の心をつかもうとするのが初めての体験だからです。スマートでないのは、どうかお目こぼしを」
ローズは剣呑な目でエリックを睨むが、彼は気にした様子もなく微笑む。
「どうです、楽しまれましたか?」
「肩がこったわ」
「とてもよい感想です」
ローズはため息をついた。
「自分の主人をからかって何が楽しいのですか」
「とんでもない。ご覧の通り、レオン様は呆れるほどに真面目で実直です。けれど、誰よりも繊細で優しい。それも理解せずにあの方を傷つけるものは、誰であろうと私が許しません。私は、あの方がいつまでもありのままの自分でいられることを望んでいるだけです」
ローズより背の高いエリックは、笑んだ顔のままローズを見つめるがその目は笑っていない。
ローズは、この執事に試されたのだと感じた。
「別に、レオン様をいじめたわけではありません。わたくしにも譲れないものがあるだけです。レオン様と共に幸せになりたいというのは、心からの本音ですわ。わたくしは、レオン様の妻として合格ですか?」
「さあ? それはレオン様が決めることです」
(嘘ばっかり)
もしこの執事の及第点に届かなければ、きっとなにかどうかの理由をつけて追い出されることだろう。
ローズとしてはそれでもかまわないが、それではベアトリスを始め伯爵家に傷がつく。
また一つため息をつくと、ローズは言った。
「まだここに来て日の浅いわたくしの言うことではないでしょうが……レオン様が真面目で実直な方だということはなんとなくわかります。そんな彼にはきっと、あなたのような執事が必要なのでしょうね」
その言葉にエリックは片方の眉をあげたが、何も言わずに頭を下げて後ろに下がった。飲み物のグラスを二つ手にしたレオンが戻ってきたからだ。その一つを、ローズに渡す。
「ありがとうございます」
「あー……」
言いにくそうにレオンが続けた。
「なんでも、これは女性に人気のある飲み物らしいが……苦手なら別のものを用意させよう」
渡されたグラスの中では、透明な液体の中に気泡があがっている。一口飲むと、甘くて爽やかな花の香りがした。
どうやらこれもエリックの差し金らしいが、レオンがそれを気にし始めていることにローズは驚いた。
(今言ったばかりなのに、怒りもせずに私の話を受け入れてくれるのね)
「いえ、とてもおいしいです」
「そうか」
心底、ほ、とした様子を見て、ローズはおかしくなる。
(不器用なだけで、ちゃんとこっちの話を聞いて、私を見てくれる。いい人だわ)
ちらり、とレオンは音楽を奏でている楽師を見て、何かを考えているようだった。
(あの執事の言ったように、ダンスに誘うつもりなのかしら)
見ていると、眉間にしわを寄せて考えこんでいたレオンは、今度は空を見上げてから、ためらいがちにローズに言った。
「少しワインに酔ったようだ。庭の散策につきあってくれないか?」




