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身代わり令嬢に終わらない口づけを  作者: 和泉 利依
第二章 あふれかえるお菓子とお花

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(またあの執事の入れ知恵かしら。それとも、ご自分でお考えになったのかしら)

 ローズは、どちらかといえば前者のような気がした。ローズの見る限り、レオンは、あまり装飾の事に関しては興味がないように見えたからだ。


 そうは思うが、暗い庭一面に小さな明かりがゆらゆらと灯る光景は、ひどく幻想的で美しかった。食べきれないほどの甘味やむせるほどの花よりはよほど、素直に綺麗と思える。

(レオン様は、この光景をご覧になったことがあるのかしら。もしご覧になったら、一体、どう思われるのだろう)


「あのランプの明かりを近くで見てみたいわ。食事のあとで、お庭に出てみてもいいかしら」

「かしこまりました」

 ローズが食事を終えて庭に出てみると、たくさんのランプが置いてあった。


 ガラスのランプは貴重品だ。それをこれだけの数揃えられるのは、公爵家の裕福の表れでもある。貧乏性のローズは、これ一つでいくらだろうと、ついつい考えてしまった。

 ランプは思ったよりもずっと明るく、足元に不安はない。うっすらと暗闇にうきあがる花々は、見慣れた花とは思えないほど印象が違っていた。その花の一つ一つをもの珍し気に眺めながら、ローズは庭をそぞろ歩いていった。


 庭の端までたどり着いたローズは、そこにローズのいる離れとは別の小さな建物をみつけた。

「ここは?」

「こちらは、音楽堂でございます」

「音楽堂?」

「はい。サロンなのですが、楽師の演奏を聴きながら食事ができるようになっておりますので、そう呼んでおります」

「入ってみてもいいかしら?」

「よろしいですよ。中からは、ちょうど庭を見渡せるようになっております」


 ソフィーが扉を開けると、中は広めのホールになっていた。庭に面した窓が大きく張り出しており、ソフィーの言った通り明かりの煌めく庭が一目で見渡せた。

「なんて綺麗なのかしら」

 ホールの中には小さめなテーブルがいくつか配置してあり、端の方にはぽつんと布をかけた背の高いものが置いてある。


「これは?」

「ハープでございます」

「見てもよろしいかしら」

「はい」

 ソフィーが布を取ると、現れたのは、隅々まで彫刻を施された一台の美しいハープだった。ローズもあまり楽器には詳しくないが、装飾だけでなく弦も立派なところをみれば、ただの飾りではなく実用的なものなのだろう。


「こちらの楽器も、素晴らしいものですね」

「名のある楽器師の作品だと聞いております。今夜はもう楽師を呼べませんが、ご希望でしたら明日にでも演奏を頼みましょう」

「そうね。ぜひ聴いてみたいわ」

 ソフィーが、庭に通じる大きなガラスのドアを開いた。まだ昼間の熱気が残っていたホールに、涼し気な秋の風が吹き込んでくる。


「よろしければ、夜のお茶はこちらにお持ちいたしましょうか?」

「ええ、いいかしら?」

「もちろんでございます。それでは用意してまいりますので、少しお待ちください」

 そう言って、ソフィーは音楽堂を出て行った。ローズは一人になると、ハープに手をかける。しばらくあたりをうかがってから、そこに置いてあった椅子に座った。

「ちょっとくらいなら、大丈夫よね」

 ハープを抱きかかえるように傾けると、ポロン、と片手で弦を撫でる。

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