- 6 -
「ちょうど一休みしようと思ったところだ。エリック」
「はい」
エリックと呼ばれた執事の青年は、うなずいて部屋を出て行った。
「わたくしはお邪魔にならぬよう、失礼致します」
「せっかくだから休憩につきあえ」
「はあ……」
ベアトリスが見つかるまでは極力顔を合わせないでいようと思っていたのに、どうしてこうも予定が狂うのか。
仕方なく、示されたソファにローズは腰を掛けた。正面にレオンが座る。
沈黙が二人の間に落ちる。レオンは、じ、と座ったまま何も言わなかった。
(……何を話せばいいのかしら)
ベアトリスの世話をしながら、一応ローズも貴族の風習などは身につけてきたつもりだ。けれどこんな時にどういう話をしたら的確なのかはよくわからない。なのでローズも黙ったままでいた。
「失礼します」
入ってきたのは、先ほどのエリックという執事だった。ワゴンからいくつもの焼き菓子をテーブルに並べていく。
(ずいぶんと大食漢の方なのね)
ローズが見ても、その量は二人で食べきれるものではなかった。レオンがこれほどに食べるのならば、今朝のあの量ももしかしたら大げさでなく適量だと思ったのかもしれない。
「甘いものがお好きなのですか?」
ガゼボでお茶を飲んでいた様子ではそういう風には見えなかったので、ローズは聞いてみる。
「いや、俺は食べない。お前の分だ」
「えっ」
うっかり声をあげてしまってローズはあわてて口を閉じた。
「わたくしも、こんなには……」
「女性というものは、甘いものが好きなのではないのか?」
「好きか嫌いかといえば好きですけど」
「では、食べるがいい」
(なんなのこの人……)
お茶を入れているエリックの手が微かに震えているのを見てローズがちらりと見上げると、その執事はどうやら笑いをこらえているようだった。
ローズは、す、と目を細めた。
「まあ。女性は甘いものが好きなどと、どちらからお聞きになりましたの?」
レオンは、ちらっと、エリックに視線を動かした。
(やっぱり)
「どこかの知らない女性たちと同じに扱われるのは不愉快です。わたくし、甘いものは好きですが、無駄は嫌いです」
ベアトリスがよくやっていたように少し勢いをつけて言うと、レオンは虚をつかれたように黙り込んだ。
(これくらいは言っても大丈夫よね。お嬢様なら、執事の言いなりの主なんてきっと許さないもの)
レオンが大きくため息をつく。
「本当にお前は、気の強い女なのだな」
思わずもれたらしいつぶやきが聞こえたが、ローズは聞こえないふりをしてお茶のカップを手にした。
わかった、とレオンが言ったあとはまた二人の間に沈黙が降りる。自分のお茶を飲み干すと、ローズは早々にレオンの部屋を後にした。
☆
その夜、自分の部屋で夕食をとっていたローズは、部屋から見た暗い庭のあちこちにちらちらと明かりが見えることに気づいた。
「あれは?」
給仕をしてくれていたソフィーに聞くと、彼女はローズの視線を追って窓の外を見た。
「はい、お庭にランプをおいて灯りをともしてあります」
「まあ。公爵様のお屋敷では素敵な装飾をなされているのですね」
ローズがいうと、ソフィー淡々と答えた。
「時々、こちらの離れにお客様が滞在される時などに、あのような飾り付けをいたします。でも」
ふ、とソフィーは顔をあげて窓の外を見つめた。
「今夜はいつもよりも明かりの数が多いようです。きっと、奥様のお慰めになるように、とレオン様が増やしたのでしょう」
「……まあ」




