>>6 攻略キャラさんは、やばい人のようです
第一部分に、登場人物紹介を作りました。
良かったら見てくださると嬉しいです
私は今日、前世の夢を見た。
ベッドの中でまだ体をぬくぬくと温めながら、私は遠い目をする。
私の前世は、地球という惑星の日本という大きくない島国に生まれ落ちた普通の子供だった。大きな病気も怪我もすることなく、乙女ゲームにめり込みながら二十歳になった私は、成人式が終わり、家に忘れた財布を取りにバスに乗ったところで居眠り運転していた運転手が起こした事故によって死んだ。__と思われる。
いやぁ、正直あんまり覚えてないんだよね。最後に「うぎゃぁー!」って叫んだのは覚えてるんだけど、それ以外全く。
気づいたらエリザベスとして、優雅に兄様へトラウマを植え付けていました。笑うしかないな、これは。
それと同時に思い出したのは、私が今暮らしている世界、【愛の王冠をその手に】について。このゲームは隠しキャラも含めて、七人の攻略キャラを攻略する乙女ゲームだったはずだ。顔立ちも性格もバラバラの攻略対象たちを、異世界から聖女として転生してきたヒロインは魅了しながら、一人だけを愛したり逆ハーレムを作ったりする。
それには必ずハッピーエンドとバッドエンドが付き纏って、私が転生してしまったエリザベスはどのルートでも死んでしまうため、私は今、必ず死ぬ自分の運命を回避するために頑張っている。つもりだ。
兄様と仲良くなれたことから、ゲームのシナリオを変えれることを確認し、それを利用して穏やかに暮らすのが目標だ。そこは妥協するつもりも諦めるつもりもありません。だってそうすると死んじゃうじゃん、私。
で、そのためには、なるたけ攻略キャラたちと関わりたくないなーっていうか、関わるもんか!って思ってた私なんだけどさ。気づきました。今日のお茶会、第一王子が来るんです。来ちゃうんです。
いやぁー!決して公爵令嬢として出しては行けない声で、心の中で絶叫する。
完全に忘れてましたぁ。そうでした、元々このお茶会王子が依頼したお茶会でしたぁ。なんの疑問も疑いもなく受けちゃいましたけど、そうでしたぁ。
ひとしきり悲しんだ後、まぁいいか、と私は心の中でため息をつく。
どっちにしろ公爵令嬢っていう立場上、王子とはいつかは会う時が来たかもしれないんだ。それが想像よりかなり早く来ただけだ。ゲームでの婚約者だっていうことを除いたら、ただのこの国の王子だ、ただの。
……やっぱり気が重いや。
寧ろ自暴自棄になりかけながら、私はもう一度大きく息を吐き、現実から身を守るように布団の中に潜り込んだ。
「エリザベスお嬢様、お目覚めですか」
その声に、ぼんやりと被った布団から顔を出す。そして、私はあのまま寝てしまったのかなぁ、と呑気に思った。
私がそうしている間にもう一度、お嬢様、と呼ばれてしまった。いつも起こしてくれるソフィアは、部屋に入ってきてくれるのに。部屋の外から私を呼ぶ、今日のソフィアは意地悪だ。
私はむぅ、と頬を膨らませて、わざと偉そうに言った。
「きょうはお部屋に入ってきてくれないの?」
偉そうな割に、内容はただのお願いだ。そんなことにも気づけずに、ドアの向こうの戸惑った空気に私は満足げに少し笑う。まだ少し眠たい。頭がよく働かない。
「失礼します」
この時になって私は、部屋に入ってこようとしている人の声がいつものソフィアより少し低いことに気づいた。不思議に思って首をかしげていると、ドアが音を立てて開く。入ってきた人物を見て、あ、と声が盛れるのと同時に、眠気なんて吹っ飛んだ。
「初めてお目にかかります、お嬢様。
わたしの名前はウルシュ。ソフィアの従兄弟で、お嬢様付き執事の候補として本日からお嬢様のお世話をさせて頂くことになりました」
丁寧な言葉遣いに丁寧なお辞儀。その全てが流れるように美しかった。口には柔らかな笑みを貼り付けているけど、私とは目を合わさない。
ウルシュ。悪役令嬢の執事でありながらヒロインと結ばれた暁には、エリザベスを殺して二人で駆け落ちをし、結ばれなかったバッドエンドでは、エリザベスの傍にいることに耐えきれなくなりエリザベスを刃物で刺し殺す。
黒髪に深い緑の瞳を持つ、冷たい雰囲気の攻略対象の一人で、別名ストーカーのウルシュ。二度見したあなた。大丈夫、あなたはマトモです。同じ世界に生きていた者同士、とても親近感を抱きます。
ツッコミどころは満載だけどさ、まずこれに突っ込ませてください。
何故ストーカーなんだぁ!!
執事でストーカーって怖いよ。執事服を着てて電柱とかの影に隠れてる人影をみたら普通のストーカーの何倍も怖いよ。
しかも美形ってなんかちょっとね、うん。
ストーカーでその冷たい瞳はなんだと問い詰めるべきなのか、超イケメンにストーカーされることを喜ぶべきか、初恋をとられたと泣きわめくところなのか。微妙……。
しかも私は切実に思うんだ。
そんなに私が嫌なら、殺さずに仕事を辞めてくれ。ちゃんとお給料はあげるから問題ないですよ。そう無理やり殺そうとしてもらわなくて大丈夫ですよ。
今日はただでさえ王子に会わなくちゃいけないのに、なんでこのベストタイミングに君が滑り込んでくるんだよ。嫌がらせなのか、そうなのか。
思わず舌打ちが出そうになったが、口を変な形に曲げて我慢する。
「そう……。父様も心配性ね、私はただの六歳の女の子なのに」
思わず素の本音が漏れる。それにすこしハッとして、六歳の少女の仮面を被り直す。
「おなまえはウルシュね。よろしくね、ウルシュ。あなたとなら、お友だちになれるかしら」
微笑んで、彼の目を見るけど彼は目を合わせようとはせずに、声だけ明るく取り繕う。それが余計に嘘っぽくて、私は直感的にこの人苦手だなぁと思った。__まあストーカーで私を殺すかも、の時点で君なんて拒否ですけど。自分の命がかかってなかったら、即座に出てけと叫んで往復ビンタが飛んだだろう。
「お嬢様はソフィアに懐いていると有名ですからね。わたしとも仲良くしていただけると光栄です」
けれどそれには黙って微笑みだけ返し、私はずっと気になっていたことを聞いた。
「ねえウルシュ。あなたが来てくれるようになるってことは、ソフィアはもう私と遊んでくれないの?」
私がそう聞いた瞬間、ドアが勢いよく開き、ドアの前にいたウルシュの頭部にドアの角が当たる。鈍い音を立てた直後、ウルシュが頭を抱えてうずくまる。
「お嬢様!お嬢様が私の名前を呼んだ気がして参りましたわ!何がございましたか__って、なんでウルシュがここにいるの?」
鼻息荒く飛び込んできたのは、ソフィア。さらりとちょっと怖いことが聞こえたけど、私は聞こえなかったことにする。
そのまま私に駆け寄ろうとして踏み出した足が、床ではない何かを踏みつけたことで下を見て、そこでやっとウルシュの存在に気づいたみたいだった。
「ソフィア……」
うずくまったまま、唸るような声でソフィアを呼ぶ。その声には少なからず殺気が含まれていて、思わず私は身を強ばらせる。やばい、この人ただのストーカーじゃない。
だけどそんな不穏な空気にも気づかずに、ソフィアは図太くけらけらと笑ってみせた。
「どうしたのウルシュ。まぁ、ドアで頭を打って倒れちゃうなんてドジねぇ」
それにはウルシュも毒気が抜けたようで、諦めたようにため息をついただけだった。
「ソフィア。ドアは静かに開け閉めして、周りに誰もいないか確認しろ」
もちろん釘を指すことは忘れなかったけど。
その様子が面白くて、私は笑った。それに二人はきょとんとしたような顔をしているのがまたおもしろい。
「だって、二人が本当の兄妹のように仲がいいんですもの」
私が笑いながらそう言うと、ソフィアは「そうですかぁ?」と首をかしげた。が、すぐに私を見て優しく笑う。
「私にはお嬢様がそんなに笑っている理由は分かりませんが、お嬢様が幸せそうなので私も幸せです」
そんなソフィアの態度が大好きで、私はベッドから飛び降りるとソフィアに抱きついた。正確には身長が全然足りないので、彼女のエプロンドレスにしがみついただけなのだが。
そんな私をソフィアは抱き上げてくれて、同じ目線の高さでもう一度、一緒に笑った。
この瞬間は、同じ空間に私を殺すかもな人がいることも、今から王子に会わなきゃいけないことも全て忘れ去って幸せを感じていた。
その様子に眩しそうに細まる二つの紫の瞳があることには、全く気づかずに。
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