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6/24

>>4 ドッジボールはさすが現代のスポーツです

開いていただけて感謝です。


 「ではルールをせつめいします!」


 私主催のドッジボール大会には、父様が参加するということで、(仕方なく)従者を初めとした御者やメイド、料理人なんかも入れた総勢四十人越えの使用人たちが参加。プラス私と兄様と父様。

つまり、屋敷の全員が参加することになった。


 皆が動きやすい服に着替えてお昼すぎに集まった中庭は、美しい芝生が青々と生えていた。固まって作られた花壇には色とりどりの花が美しく咲き乱れていて、芝生の緑によく映えている。

 その中心で、ロングパンツにTシャツという謎の格好をした公爵令嬢(私)が、手には小さめのボールを抱えて綺麗な声を張り上げている。


 「ルールはとってもかんたんです!

まず二チームに別れて、『ナイヤ』と呼ばれる人と『ガイヤ』とよばれる人のグループに分けるの。そうね、『ガイヤ』は三人ぐらいがいいと思います。それ以外のひとたちは、全員『ナイヤ』です。

ここまでいいですか?」


私が確認をとると、全員が頷き返してくれる。それにちょっぴり安心して、ほっと息をついた。ここで下手な説明をする訳にはいかない。もし私が説明したせいで、『我らがボコボコ様』こと、ドッジボールがこの世界に受け入れられなかったら……。責任が重すぎる。胃が痛い。


「そもそもドッジボールは、長方形の中心で半分に分けたコートと呼ばれる場所でおこないます。

AチームとBチームでドッジボールをしたとしましょ。長方形の左側のコートにはAチームの『ナイヤ』が入り、反対の長方形の右側にはBチームの『ナイヤ』が入る。そしてAチームのコートを囲うようにしてBチームの『ガイヤ』が、Bチームのコートを囲うようにしてAチームの『ガイヤ』を配置するのです。」


座り込み、落ちていた木の棒を使って芝生の上を撫でながら説明する。長方形を書いたり棒の先で示したりするのをみんな、真剣な眼差しで見つめる。私の言ったことをブツブツと繰り返したり頷いてくれるのに、なんだか胸がほっこりした。


「やることはかんたん、このボールを相手チームの『ナイヤ』にぶつけるの。じょうずにキャッチできたらオーケーなんだけど、バウンドしないボールがぶつかっちゃった場合、その人はアウトよ。アウトになった人はコートから出て、『ガイヤ』としてコートの外から『ナイヤ』をねらう。でもその人は、相手チームの『ナイヤ』を当てることが出来たらコートの中に戻って『ナイヤ』にもう一回なれるの。

時間は五分間。タイムアップの時に『ナイヤ』の人数が多いチームが勝ち。あ、でも時間がくる前に全滅しちゃったら負けだけど。

 __なにか質問はある?」


今自分で言ったことを反芻するが特におかしな所はなかった、と思う。思いたい。

でもみんなが私に気を使って分からないところを分からないままにして、ドッジボール自体があやふやになることは避けたいと思うから質問があれば言って欲しい。

 そう思ってきょろきょろとみんなの顔を見渡すと、おずおずと一人の男が手を上げる。はいっ、と私が指せば、四十代後半に見えるその男は、不安げにモゾモゾと言った。


「ルールは、理解致しました。けれどお嬢様、このどっじぼーるというスポーツには、公爵様を初め坊っちゃまやお嬢様も参加なさるのでしょう?私たちのような使用人ごときがボールをぶつけるなど……」


目をきょときょとと動かし、戸惑っているのがわかる。それに対して私は、ああそんなことかと微笑みを強くする。


「そこは心配しなくても大丈夫。リジーも、とうさまも、にいさまも、当てられて怒ったりはしないわ。首をきったりなんて絶対にしないから安心してね。そうね、それでも不安なら……__」


そう言って私は、手に持ったボールを馴染ませるように何度か軽く上に投げてはキャッチする。それを何回か繰り返し、何回目かでそれをそのままの勢いで父様の顔面に向けて思いっきり投げた。

自称・プロ野球選手顔負けのボールを、父様は顔で受け止める。バチン、と痛そうな音がして父様が倒れた。

それに私は薄く笑みを浮かべる。最近全然やってないし、このエリザベスの体で上手くボールを投げられなかったらどうしよう。そう思っていたのが杞憂に終わって本当によかった。


「大丈夫ですか、とうさま。

__まぁ、こんなふうに当たっても少し赤くなるくらいなので、大丈夫だと思います。」


倒れたまま動かない父様に伺いを立てつつ、周りの唖然としている使用人たちに笑顔をむける。みんなは私の顔をぼぅ、と見ていたけどハッとして父様の元に駆け寄った。

「ご無事ですか、公爵様!」


みんなが父様を取り囲んで、心配気に顔を伺っている。執事長がいち早く父様に駆け寄り、ボールがクリティカルヒットした左頬に触れた。

「アズ、レズ、なにか入れ物に入れて氷をすぐに。痛みにきく湿布も小さく切って持ってきなさい」


執事長の傍にたっていた顔のそっくりな女の子2人が声を揃えて返事をして、そそくさとその場を立ち去る。

 なんだかいたたまれない気分になって、私はそっと後ずさった。三歩目を踏み出し、さぁ四歩目を……という時に、背中が何かにぶつかる。ぎょっとしながらも振り返ると、そこにいたのは兄様だった。


「良かった、にいさまでしたか。」

兄様も、すっかり父様を囲っている一員にいるのだと思い込んでいた。それを少し恥ずかしく思いながら、兄様の顔を振り返ってのぞき込む。私よりも背の高い兄様の正面に、後ずさった私が背中からぶつかってしまったようだった。

にいさまは嬉しそうに少し顔を赤くしながら、私の髪を触る。そのいつもの兄様らしくない行動に、私は少し目を丸くする。


「もうリジー、急に父様にボールをぶつけるなんて……変なの」


くくく、と笑いながら言う兄様は本当に面白がっていて、それに私は胸を張って答える。


「すばらしかったでしょう、リジーの投げたボール」


それにうん、と頷いて兄様は幸せそうにほんわかと笑った。ゲームでも今までの生活の中でも初めて見た兄様のそんなふうに笑う様子に、私は衝撃を受ける。

今までの兄様は、計算し尽くした様に綺麗な顔で微笑むだけだったのに!

けれどその笑顔を見せてくれたということは、確実に私と兄様のギスギスした関係は改善されたと思ってもいいだろう。そう下心で思う反面、純粋に妹としても嬉しくて私も笑い返した。


「リィジィーー……!」


目を回していた父様の意識が覚醒したのは、ちょうどこのタイミングだった。







意識が戻った父様は、それはもうドッジボールをやる気満々で。適当に分けた使用人たちに対して、私と別のチームになることだけは譲らなかった。これは完全に怒らせたかと私がヒヤリとしたのは言うまでもないだろう。


とりあえずと第一試合目が幕を開け、私のチームは女性を中心としたチームで、ソフィアと同じだった。相手チームには父様と兄様がおり、この時の父様が浮かべていた笑顔がとても怖かったことだけをここに記しておく。


結果は私たちの完全勝利。残り30秒を残して、父様チームを全滅させた。もちろん私の活躍があったからこそだと思うが、男達に比べて、女達の方が度胸があったからだと思う。ボールをキャッチしようともせずに逃げ回る男達に比べ、女達はキャッチしては投げ、キャッチしては投げを繰り返していた。

それに感心しながらも相手チームを見ると、父様と兄様がまあまあな活躍をしていた。


二人ともキャッチは上手だが、父様は勢いだけで投げすぎてしまっていて、コントロールが死んでいる。そんな父様と対象的な兄様は、コントロールが非常に言い分スピードが足りない。もったいないなぁと私は内心でため息をついた。


その日、料理人たちが夕食の準備に抜けたりしながらも日が暮れるまで、オースティン家の中庭では明るい笑い声とバチンという痛々しげな音が漏れ続けていた。


これによってドッジボールがこの世界に広まっていくのに、そう時間はかかるまい。ドッジボール愛好家としての使命を終えた達成感で口元を緩ませた幼女がいることなど、誰も気づかない。



ちなみに。

この次の日、オースティン公爵とその令息・令嬢に会った人達は皆、首を捻ることになる。


「なんで3人とも、両頬に湿布を貼っているんだろう」


と。

父と娘の喧嘩に、苦労人のジロルド君は、やっぱり巻き込まれてしまいましたとさ。


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