試験よりも親父の雷よりも、PKの方が怖くて辛い
ピーッッ!!!
中学校総合体育大会、サッカー、県予選準決勝。藤林中学校 対 白城中学校 の試合は、1対1で後半を終え、PK戦に突入していた。
PK戦とは、サッカーにおいて、規定の試合時間を終了して決着がつかなかった際に行うものである。
この物語の主人公は、藤林中学校、最後のキッカー、
「頑張れよ! 和希!」
山田和希。15歳。男。
―――怖い。
和希の心臓はバクバクと脈打ち、正常な思考など軽々と吹き飛ばす。全身に血流が行き渡る。
―――次。次、白城が、白城がシュートを外したら……
たとえ和希がシュートを決めなくても、負けることはない。
「ダメだダメだ!」
和希は自分の頬を叩く。周りはビビる。
「俺が決めないと!」
和希はみんなの気持ちを背負っている。PKの順番は5番目。
そこで終わる可能性のある順番。
PKの説明をしようか。ウィキペディアから一部抜粋してきた。
まずコイントスを行い、勝ったチームが、使用するゴールを選択する。次にもう一度コイントスを行い、トスに勝った主将のチームが先に蹴るか後に蹴るかを決める。条件に従って、両チームが交互に5本ずつのキックを行う。
通常の試合におけるペナルティ・キックとは違ってインプレーの概念がないため、ゴールキーパーやゴールポストなどに跳ね返されたボールをキッカーが再びゴールに蹴り込むことはできないし、蹴れるのは一度のみ。
両チームが5本のキックを完了する以前に、他方が残りキックをすべて成功させたとしても、一方の現在の得点を下回ることが確定したときは、その時点で試合終了となり、以後のキックは行わない。したがって、3本ずつのキックを一方がすべて成功、他方がすべて失敗すれば、最短の3-0でPK戦終了となる。
5本ずつのキックの後に両チームの得点が同じである場合は、同数のキックで一方のチームが他方より多くの得点を挙げるまで、それまでと同じ順序でキックを続ける、いわゆるサドンデス方式。
今、藤林と白城は4回蹴って4本全て成功している。
そして先行の白城はこれから5回目を始める。
ピーッ!!!
結果だけ。 失敗した。
―――あああああああ!!
和希の頭はオーバーヒート寸前だった。
―――外しても勝てる外したらダメだ外したら負ける外したらマイケル外したら入れる……
完全に壊れた。
「えー、藤林の8番、ペナルティーマークに」
審判に呼ばれた。和希は無意識に歩いていく。
「決めてくれ和希!」
「お、おう!」
途中言葉に詰まったが、頑張って言葉をかえす。
ペナルティエリアについた。
―――どどどどっち!? どっちに打つ!?
右か左か、上か下か。
―――怖い怖い怖いっ!! パパに怒られた時より、試験でヘマしたときの点数を見るときよりも怖い!
究極の選択。
ピーッ!!!!!!
そして笛が鳴る。
―――外したらどうしよう
和希は助走をつけて走り出す。
―――外したらどうしよう外したらどうしよう
一切の無言。無限に高まる緊張感。緊張の絶頂。
PK。それは精神力の闘い。
いくらキーパーが強かろうが、いくらキッカーが上手かろうが、PKというものは。
心の強さが、勝利を導く。
―――もうどうにでも、ナッレェェェ!!!!
バコンッ!!!
和希の頭の中の時間が、長くなる。周りの風景、ボール、キーパー、音、その全てがスローモーションになっている。
瞬間の本気のぶつかり合い、それがPK。
そしてボールはゴールネットの左上隅に吸い込まれ……
た。
ピッピピーッ!!!
「ウォォォォォォォォ!!!!」
―――あ
「やったな和希ィ!」
胴上げをされていた。勝ったのだ、と気づいたのはその後だった。
―――やった! 勝った! 俺達が! 全国に!
県予選決勝。またもPK戦があり、またも後行5番目に抜適された和希が、同じ状況下でゴールを外したのは……
また別の話。
謎に書きました。
精神安定剤です。