メリーさんの裏話。
注意!
なまこ×どりる四章へのネタバレを含みます。
『メリリース・スペンサーの苦難の日々』、創作秘話というか、後書きというか。
『なまこ×どりる』というか、その背景世界の『GA暦地球』は小説より先にファンタジーTRPGのゲーム用の背景世界として考えられていて、ファンタジーを彩るものとして必須と言えるものの中にマジック・アイテムの存在があると言える。
およそマジック・アイテムの存在しないファンタジー小説なんてまず浮かばないし、ゲームならなおのことだ。
では『GA暦地球』のマジック・アイテムはどうやって手に入れればよいのか?
古代の遺跡から?この世界は遠未来地球なので、古代の遺跡から見つかるのはどちらかというと科学技術の遺産である。
よって付与魔術師によるオーダーメイドがメインの入手方法かなと考えている。
『暮伊豆』さんの『異世界金融』などもそのスタイルと言えようか。
では、1人の付与魔術師がどんなマジック・アイテムでも作れるのか?
それでは冒険として面白くない。
例えば最高の武器ならドワーフの工匠に作ってもらうのが格好良いが、木製の杖まで作るの?といったら違うだろう。
そこで、布製品を主とした世界最高の付与魔術師、というゲームのNPC(プレイヤー、主人公でない)的な設定として、『ミセス・ロビンソン』というキャラの原型が生まれている。
つまり、彼女は『なまこ×どりる』を書くより前に生まれているキャラである。
デザインの原型からしてNPCなので、造形として特異にする必要はない。
名前は『サイモンとガーファンクル』の有名な曲名からそのまま取っている。
キャラクターのデザインのベースはいわゆる揺り椅子に座ったおばあちゃんという誰でも想像できるものにし、その付加要素として『奥様は魔女』的な〈念動〉能力や『雨木シュウスケ』の『鋼殻のレギオス』から『デルボネ』と『リンテンス』というキャラの要素を加えている。
使い魔は布を織るイメージの動物から蜘蛛を選択。きわめて古典的・民話的イメージであるが、なろうの書籍化作品でも『異世界のんびり農家』の『ザブトン』など見かけられる。
でまあ、オーソドックス故に良い造形のキャラである。
『なまこ×どりる』で魔術学校女子寮の寮長という枠、年配の女性という枠が必要となったときに、彼女を使おうと思い立ったのである。
世界最高の付与魔術師が引退を許され女子寮の寮長なんてやってる余裕あるのかということについては、設定があるのだが本編で書く可能性があるのでここでは触れない。
使ってみたら初登場時から案の定人気が出た。そこは思惑通りである。
『なまこ×どりる』にはプロットといえるほど上等なものは初めから存在していない。
あるのは世界観の設定と、わたしの脳内にのみ存在するシーンの断片的なイメージである。
そのイメージの中で4章にミセスの見せ場・戦闘シーンがあり、それをどんな演出にしようかなと考えていた。
格闘ゲーム的なイメージで言えば、ミセスの必殺技は自作のマジック・アイテムを使うことだろう。
では通常攻撃はなんだ?少なくともパンチやキックではあるまい。
そこで蜘蛛から糸のイメージである。
糸というと上記『リンテンス』もそうだが、わたしの好きな武器であり……ん?
……実はこの話、『ぐだぐだとーくしょー。:ぶき』に書いてあるんだが、あれ読んでこの短編読むともうミセスと戦うのアレクサって分かるよね。
はい、4章クライマックスはミセスVSアレクサです。
酷いネタバレを見た。
えーと、話戻して、糸というと切断技のイメージ強いので、ちょっとひねりたかったんですよね。
実は、〈気絶〉を糸で伝達させるというのは元々、『GA暦地球』の別のキャラの隠し技的な設定でした。
昔書いていてデータが吹っ飛んだ『王都の決闘士』の主人公、ヴィンスの隠し技。
『なまこ×どりる』でも『ラツィオのA級決闘士ヴィンス』と名前が2回くらい出ています。
昔どこかで書いたとおもうけど、アレクサが拳で白兵戦なのは、その発表されなかったヴィンスの戦闘スタイルをコンバートしたからなんですよね。
そのヴィンスの隠し技はミセスに継承されました。データ再利用です。
でまあ、4章クライマックスにミセスの過去編挿入したいなというイメージは書き始めた初期からあった。
ざっと書くと、「アレクサが前触れもなく倒れる→過去編でミセスがそのスタイルを得たシーンを書く→現代に戻りアレクサが立ち上がる」な流れです。
で、だ。過去編をクライマックスに挿入するのって嫌われるよねぇ!
だからまあ、結局書かないかなぁと思ってたんです。
ところがどっこい。
『間咲正樹』さんですよ。『なまこ×どりる』の400件目の感想踏んだから、何か記念にオーダーある?と聞いたら短編書いてくれって言うんですよね。
いやあ……。タイミングがね。ちょうど4章に入ったところだし、今のうちにその過去編書いておけば後で挿入もできるかなとか思うわけですよ。
んで、しばらく考えた。
元々過去編は書くことを考えていたが長々とやる気もなかった(挿入が長いと読者が逃げる)ので1話か2話程度でって考えてたんです。4千~1万字くらい。
初めからアレクサと、ミセスの若いころ、メリーは似ているんだけど対称的にしたかったんですね。
アレクサ:お嬢様口調、富裕、才能ある、努力家、プロレス的戦闘
メリー:蓮っ葉な口調、貧乏、才能ない、努力家、暗殺者的戦闘
って感じね。
で、これでメリーの話を考え始めたんだけど……話が平坦なんですよね。
使い魔召喚で小さい蜘蛛→馬鹿にされる→ひらめく→勝つ→いじめられる→勝つ
ちょっと極端だがこんな感じ。
エリオットがいないんですよ。
実はミセスの旦那については設定してあったんだけど、細かい馴れ初めは不要だから設定してなかったんですよね。
高校時代のメリーは虐められている中で勝って、それでそれ以降モテるようになったのかな程度でしか考えてなかったんですよ。
……んー、話膨らませるためにに恋愛要素突っ込もうかと。
エリオットが幼馴染だったことにして、魔術学校時代に恋愛することにしようかと。
これが話が伸びたすべての原因です。
元々の話に恋愛要素無いのを突っ込んでるんだもの。そりゃ倍になるよねw
メリーのスタンスが初めから決まってるので、恋愛ストーリーをドラマチックにするために対称的な位置に配置するとだね。
エリオットは男版アレクサ的な立ち位置なんですよねw
いや、この二人のセリフとかめっちゃ書きやすかったです。
あと、シナリオの展開上、クライマックスをヒーローVSヒロインにしたかったので、それを一瞬で意識刈り取るだけにはできないじゃん?
だから、糸を燃やしちゃう炎属性の魔術師にした。
中盤は「何もさせずに勝つ」戦闘をして、ラストバトルは「相手を上回って勝つ」戦闘をさせるんですね。
個々の話の解説をすると、
第一話
前半は予定通り、後半は書いてる間に勝手に指が冬至祭の話を書き始めていて、エリオット出そうぜって言ってきよるんですよ。というか、エリオットが前半だけだとキャラが弱いというのもあるのでね。
んで、ロミオ的ムーブ(窓から入る)してきて、なんか邪険にしつついちゃいちゃしよる感じになった。
あれ、ラブいなと。んで異世界恋愛に投稿しましたってゆー。
第二話
この話はほぼ予定通りかな。
蜘蛛に名前をここまでつけてないのも、使い魔に失望していた感がちゃんと出せていると思います。
これ異世界恋愛だよ!ラブは?とか脳内で言い出したので、木陰で壁ドンしてる。あと、かけっこの布石はちゃんと張れた。
第三話
完全にアドリブというか勝手に生えてきた話。いや、前回のネタばらしは予定通りですけどね。
冬なのに恋人たちの日は入れないんですかーとかいう突っ込みが勝手に私の中でされまして。
次話でいじめで踏まれるチョコ、それを口にするエリオットのイメージが浮かび、そのエモさを強調するためにチョコを作るシーンそのものが挿入されるという大暴投。
第四話
いじめのシーンそのものは予定通りです。
いじめられつつも魔力を温存し、体をひきずりながら相手に勝つというシーンがやりたかった。
そこにチョコがあるので、エリオットがヒーロー参上ムーブをするという。エンディングは三話を書くときに浮かんだシーン。
第五話
夢のシーンは二話の布石回収。決闘の名乗りではじめてロビンソンの苗字を出す構成とか、割とイメージ通りっていうか、3・4・5話あたりはある程度同時進行で書いてたんですよね。ええ、全3話で終わる予定だったので!
戦闘前の会話は二話書いた直後くらいに書いていた。
エピローグ
『なまこ×どりる』とのリンクの話。ほーら、なまどりが読みたくなるよ……。
こんなものかなー。
細々したところだと、
〈虫召喚〉とか魔法名。
SFではなく、異世界恋愛なので英語名ルビはオミットした。
ラーニョ
イタリア語で蜘蛛。日本人だと、その蜘蛛の名前は?スパイダーよ!と言ってるくらいのイメージですかね?さすがにもう少しは捻ってるのかな?即興で付けた感じのある名前。
広げた巻物には中央に魔法円と八芒星
この世界の魔術は基本的に五芒星であり、オリジナル魔術でで蜘蛛と親和性のあるデザインを作っているのだという誰にも伝わらないアピール。
3話の唐突な百合
いや、いい話なんだけどオチがなかったんでつい……!
僕のメリー
人気あるセリフでしたね!
原点は割烹参照。いつか書いてやろうと思ってたセリフです。
〈朧なる冬の亡霊〉
雪(冬)の女王(貴婦人)あたりの古典的伝承を使おうと思ってたんだが、さすがに手垢がつきすぎているというか、アナ雪してしまうというか。れりごー。
そこで魔術名は『サイモンとガーファンクル』の『冬の散歩道』の原題、『Hazy Shade of Winter』を使用、本来の曲中のでは冬の曇天という意味だが、Shadeに亡霊って意味あるよね!っていう。
「あなたの後ろ」
わたしメリーさん、あなたの後ろにいるの。