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カーソン・サーガ  作者: 義永 惣滋
すちゃらか戦士カーソン
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すちゃらか戦士、出会う

 カーソンの宣告に、ゴブリンの一行は呆けたまま棒立ちになっていた。言葉が通じていないのかと思い、もう一度くりかえす。


「おい、そこの偉そうにしてる奴! 何でもいいから、さっさと食い物をくれ!」


 途端に、指名をされたゴブリン――ググが口から泡を飛ばさんばかりの勢いで吠えた。


「な……なな、何を言ってるだか! わしら(ゴブリン)にたかるとか、とんでもない人間(コモン)だゴブ!」

「いやあ、それほどでも……」

「褒めてないゴブ!」


 ググは気を取り直したのか、カーソンに人差し指を向けた。


「もういいゴブ! 先にこいつを始末してしまうだ」


 先ほどルシアを狙撃した射手たちが、草陰から一斉にカーソンを狙い撃つ。風切り音を響かせ飛来した矢は、しかしカーソンの薙いだ剣の一振りですべて叩き落とされた。


「お前ら、殺気を出し過ぎ。そんなもん、当たる方が間抜けだぞ」


 何気ないカーソンの一言に、近くで傷ついている少女がいたが、もちろん彼は意にも介さない。

 裂帛の気合いと共に、カーソンは長剣を狙撃手の潜む灌木へ向けて振るった。剣風が衝撃波となり、弓兵たちを切り裂く。断末魔の悲鳴を上げ、ゴブリン兵たちが次々と倒れる音がした。


九竜神火(くりゅうしんか)剣法・第八式――無影竜爪……って、もう聞こえてないか」

「お、おまえは……何者だゴブ!?」

「うん? ただの傭兵――いや、失業したから元傭兵かな」

「ふ、普通の傭兵は、そんなことできないゴブ!!」


 寸刻前までの威勢はどこへやら。カーソンの剣技を見せつけられ、ゴブリンたちは明らかに戦意を喪失していた。カーソンは相変わらず、茶飲み話でもするかのような口調で話しかける。


「なあ、何か食える物、本当に持ってない? とりあえず水だけでもいいよ」

「き、今日のところは、このくらいで勘弁してやるゴブ! 覚えてろおおおッ!」


 話を最後まで聞かず、ググは我先にと逃げ出してしまった。配下のゴブリン兵たちも、指揮官に続いて逃げ出す。ルシアの魔術で気を失ったままの連中を無理矢理たたき起こして逃走したあたり、仲間意識は彼らなりにあるらしい。

 


 慌てて追いかけようとしたが、さすがに疲労が募ってきた。やる気もなくなってしまい、カーソンはその場にしゃがみ込んだ。せっかくの当てが外れてしまい、これからどうするかと思案を始める。


「あ、あのう……」


 唐突な呼びかけに思索を邪魔され、不機嫌そうな目でカーソンは声の主を探した。


「あ、あの……助けてくれて、ありがとう、ございます」


 空腹のせいか、かなり凶悪な目つきになっていたのだろう。哀れなくらい怯えた様子で、たどたどしいながらも先ほどの少女が礼を述べた。


「別に。あんたが気にすることじゃないよ。ゴブリンたちを追い払ったのは、成り行きでそうなっただけだし。それより、ここらに飯屋でも――って、なんで素っ裸のままなんだよ!?」


 ほとんど投げやりな口調で彼女に訊ねようとしたところ、驚くべきことに目の前の少女は一糸まとわぬ姿ですぐ横に立っていた。さすがのカーソンも慌てて顔をそらす。今までの傍若無人ぶりが嘘のような挙動が面白かったのか。少女の表情が和らぎ、笑みがこぼれた。




「もう大丈夫ですよ?」


 そう声をかけられて、ようやくカーソンは相手の方を向いた。白地の衣服に身を包んだ少女の年は十代半ば過ぎといったところか。亜麻色の髪は無造作に腰まで伸び、栗色の瞳は好奇の光で輝いていた。見慣れない人間にも、あまり物怖じしない性格のようだ。


「そういえば、さっき怪我をしてなかったかい? 早く手当をした方がいいぞ~」

「それなら、ご心配には及びません。一応、治癒系の魔術にも心得がありますから」


 そう言って、少女は少し得意げに微笑んだ。確かに右手の杖を見れば、魔術に心得があるというのも納得がいく。一般に老人以外で若者が杖を持つとすれば、それは魔術の触媒として用いることが多い。そんな当たり前のことにも考えが及ばないほど、思考が鈍ってしまっていたようだ。


「あの、よかったら私の家に寄って行かれませんか? あまり大したおもてなしはできませんけど。スープとかパンでよかったら、食べていってください」

「スープ! パン! ご、ご馳走してくれるの?」

「え、ええ……。助けていただいた、お礼をしたいですし」


 素っ頓狂な奇声を上げて、カーソンは少女の手を握ると、何度も何度も振った。


「ありがたい! これで飢えずにすむよ。いやあ、人助けも()()にはやってみるもんだなあ」

「成り行きでそうなっただけじゃ、ないんですか?」

「そうだったっけ? まあ、細かいことは気にしない、気にしない。終わりよければ、すべてよしってね」


 調子の良いカーソンの言い分に、とうとう堪えきれなくなったのか。少女が吹き出した。鈴の音のような愛らしい笑い声である。


「そういえば、まだお名前を聞いてませんでした。命の恩人様、教えていただけますか?」

「俺はカーソン。アルドバニアで傭兵をやってたんだけど、クビになって今は職探し中かな。君の名前は?」

「私はルシアと申します。よろしくお願いします、カーソン様」


 彼女はそう名乗ると、満面の笑みを浮かべた。

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