第21章お節介狐と恋する少女
その夜からしばらく経った頃、少女の母である女帝は、ある青年を呼び出した。
李憲である。
女帝は李憲を見ると言った。
「わざわざここまで来てもらって悪いわね。ご苦労様。」
すると李憲は言った。
「断れるのであれば来たくはなかったのですがね。」
李憲の態度を見て、女帝はため息をついた。
「まったく。私に対してそんなに偉そうな態度をとるのはあなた位のものだわ。」
女帝の様子を見て、横に立っていた狸も言った。
「お前が好きそうな男だ。惚れるなよ」
李憲は怪訝そうな表情で言った。
「横の狸はなんですか?怪異でしょうか。」
女帝は言った。
「一応確認に連れて来たけど、かなり鮮明に怪異が見えるみたいね。まあこの子は姚崇とかも意識をすれば見ることが出来る強力な怪異でだけれども。あと、この子の言う事は気にしないでいいわ。なぜか、彼氏面をしてくるのよ。」
李憲は言った。
「そうですか。それで。ご用件は何ですか。」
李憲の言葉に女帝は真剣な表情に戻り言った。
「実は私の娘に最近、変な怪異が目を付けたみたいなのよ。毎日、あの子の部屋の前に花が置かれているの。警戒をしても、警備の目をかいくぐって部屋に入ってくるみたいだし、おそらくかなり強力な怪異だと思うわ。目的は読めないけれど、私の娘になにか有ったら大変だからあなたが警備をしなさい。」
李憲は女帝の言葉に驚いた様子で言った。
「陛下には李弘殿のほかに娘がいらっしゃるのですか?」
女帝は笑みを浮かべて言った。
「ええ。正真正銘の箱入り娘よ。次期皇帝にする可能性も十分にある子だから丁重に扱いなさい。」
李憲は言った。
「かしこまりました。」
こうして李憲は少女、後の皇帝悠基と出会うことになったのだった。
☆☆☆
最初は、ちょっとした遊び感覚だった。
屋敷に幽閉されたお姫様から、夕飯のライチを分けてもらってくる。
長い時を生きるうえで、人生を楽しむためには丁度いい刺激だった。
しかし、悠基を見て考えが変わった。
悠基は狐がいままで見たことがないほどに孤独で、寂しそうだった。
だが話してみると真っ直ぐで、面白い、非常に良い子であった。
だからこそ、狐は悠基の事を救いたいと思った。
彼女を屋敷から解放したいと思った。
だが、作戦は失敗し、狐は悠基を傷つけてしまった。
狐はそれ以来、悠基の前に姿を現すことはなくなった。
もっとも、悠基を見捨てることは出来ず、自分が悠基のことを大切に思っていること、悠基に少しでも外の世界へ目を向けて欲しい事、そういった思いを示すために毎日彼女の部屋の前に花を置き続けた。
そんな中、状況に変化が起きた。
屋敷の警備が非常に厳しくなったのである。
警備員が変わり、新しい警備の男は悠基の部屋の横で寝起きをし、怪異を見ることが出来る。
そして、時には狸までも利用して狐の侵入を拒もうとするため、しばらくの間、花を届けることが出来なくなっていた。
「そろそろ何とかしないといけないわ。このままだとあの子は私があの子の事を捨てたと勘違いしてしまうかもしれない。」
狐は覚悟を決め、最悪の場合には再び妖術を使うつもりで屋敷に近づいた。
しかし、この日は様子が違った。
屋敷の中は非常に開放的になっており、警備の者は全く居なかった。
狐は、かえって怪しいと思いながらも好機である事に違いはないため、悠基の部屋に向かった。
すると、部屋の前には悠基が座って待っていた。
悠基は狐を見つけると言った。
「あのお花。やっぱり狐さんだったんだ。」
狐は悠基を見て花をくわえたまま、静かに頷いた。
悠基笑みを浮かべて言った。
「狐さんに会いたくてお義兄ちゃんに警備を緩めてもらったの。少し外に出ない。お話がしたいんだ。」
狐は悠基の様子が以前と違うことに驚いた。
しかし、その変化は狐が望んでいたものであったため狐は喜んだ。
もっとも、少しだけ、狐ができなかったことを成し遂げてしまった誰かに対して悔しさを感じた。
その後、狐と悠基は二人で庭を散歩しながらお話しをした。
「狐さん」
悠基がそういうと、狐は悠基を制した。
そして言った。
「私は楊玉環というの、長いから楊ちゃんと呼びなさい。」
悠基は言った。
「うん。楊ちゃん。私ね。最近、毎日が楽しいの。楊ちゃんのおかげだよ。楊ちゃんがあの日、私の元に現れた日からすべてが始まった気がするの。あと、この前はごめんなさい。私は自分のことで精一杯で楊ちゃんの気持ちを考えなかった。」
楊玉環は言った。
「こちらこそ。ごめんなさい。でも良かったわ。あなたが楽しいと私は嬉しくなるの。」
楊玉環の言葉を聞くと、彼女は緊張した様子を見せた。
そして覚悟を決めた様子で言った。
「楊ちゃん。私ね。小さい頃からお友達っていうものがいたことがないの。私の始めてのお友達になってくれない。」
楊玉環は言った。
「いい。そんなに下手にでることはないわ。あなたと友達になりたい人はきっと沢山居るもの。わたしも喜んであなたのお友達になるわ。」
悠基はその言葉を聞くと、涙を流した。
楊玉環は悠基の足元へ行くとそこに静かに寄り添い言った。
「泣かなくていいの。笑いなさい。」
そして悠基が落ち着くまで、楊玉環は悠基に寄り添っていた。
悠基は涙が止まると消え入りそうな小さな声で言った。
「一つだけ内緒の話をして良いかな?」
楊玉環は言った。
「勿論。それがお友達というものよ。」
悠基は言った。
「私ね。好きな人が出来たの。」
楊玉環はその言葉を聞いて、自らに気合を入れなおした。
孤独な少女の初めての恋である。
その唯一の友人として、彼女よりはるかに長く生きてきたものとして、絶対に彼女の初恋を実らせてあげたいと。




