第12章雪女衣と料理
雪女衣は闘鶏を終え、悠基と暮らすようになってから新しい目標を作っていた。
それは料理が出来るようになる事である。
きっかけはある日の夕食。
悠基や楊玉環が料理人の作った料理を食べて笑顔になる様子を見て、自分も同じ様に大切な家族である彼女達を笑顔にさせたいと感じたからだった。
しかし、彼女は鳥である。
手もないし、動くと羽が飛び散る。
そのため彼女の目標はまたも前途多難であった。
「私としてはあなたの頑張りは分かっています。だからこそ、あなたを厨房に通し料理の風景を見ていただいていました。ですが、我々は宮廷料理人です。衛生面を考えるとあなたに料理をしていただく事は難しいといわざるを得ません。」
料理人の言葉に雪女衣は力なく頷いた。
「そうですよね。無理を言ってすみません。」
すると料理人が言った。
「そんなに落ち込まないで下さい。たしかに、あなたに料理をしていただく事はできない。ですが私に言わせればあなたはもう料理人です。」
料理人の言葉に雪女衣は驚いた様子を見せた。
「どういうことでしょうか?」
料理人は言った。
「料理人とは、料理で人を喜ばせる人を指します。たとえどんなに料理が上手くても自らの出世や欲望のためにその腕を振るう者は料理人ではありません。そしてあなたはいつも凄く楽しそうに私の料理を眺めてくれました。きっと出来た料理を食べて喜ぶ皆様の事を想像して居られたのでしょう。」
雪女衣は料理人の言葉に涙ぐんだ。
「ありがとうございます。」
すると料理人は懐から割烹着を取り出した。
それは人間が着るにはあまりにも小さな物だった。
「雪女衣。これは私の気持ちです。受け取ってください。そしてこれに懲りずにまた料理を見に来てください。皆。あなたが来る事を楽しみにしているのですから。」
雪女衣はその割烹着を着せてもらい満面の笑みを浮かべた。
「ふふ。ここに来てからどんどん宝物が増えていきますね。」
嬉しそうな雪女衣の様子に料理人はため息をついた。
「それにしても惜しいですよね。どこか料理が出来る場所があれば良いのですが。」
すると厨房に李憲が入って来て言った。
「方法ならありますよ。私の部屋を使うと良い。悠基様のご好意で一人で使うにはあまりに広い部屋です。料理道具を持ち込んでいただければ雪女衣専用の厨房を作れると思いますよ。」
その言葉に雪女衣は目を輝かせた。
「本当ですか?」
料理人も嬉しそうだった。
「さすが李憲様だ。良かったですね。雪女衣。」
喜ぶ二人に李憲が言った。
「そうと決まったら善は急げだ。さっそく私の部屋に来てください。そこで具体的な話し合いをしましょう。」
そして雪女衣、李憲、料理人は李憲の部屋に向かった。
そこで3人は厨房の設置場所や道具の確認を行い、準備の算段を立てた。
そして料理人はとりあえずの印象を確認するために一旦厨房に戻り雪女衣に貸す事のできる道具の選別に向かった。
料理人の帰りを待ち落ち着かない様子の雪女衣に李憲は言った。
「全く。落ち着きなさい。厨房は逃げませんよ。」
雪女衣は言った。
「すみません。楽しみで仕方がなくて。」
すると扉が叩かれた。
雪女衣は扉に駆け寄り、急いで扉を開けた。
「料理道具はどの様な感じですか?」
しかし、そこに居たのは料理人ではなく楊玉環だった。
雪女衣は楊玉環に恥ずかしそうに言った。
「すみません。間違えてしまいました。それにしても珍しいですね。李憲様のお部屋にどの様な御用ですか?」
楊玉環は言った。
「夜這いよ」
妖しく笑う楊玉環の右手には刃物が握られていたのだった。




