第10章李林甫の憂鬱
李林甫はいつになく沈んでいた。
閻王の復活が近づいている。
その事実は、史思明の予言を思い出させると共に自らの崇拝する悠基が皇帝として不適格な存在である事を示唆するものだからである。
そんな李林甫の様子を見た楊国忠が言った。
「おい。なんか元気ないな。痔か?」
その言葉に李林甫はため息をついた。
「痔か。病気だったらどんなによかっただろうな。いくらでも治し様がある。」
それに対して楊国忠が言った。
「そうか?痔は結構長引くぞ。俺の波乱万丈な人生の中で一番苦しかったのが痔になった時だ。」
李林甫は言った。
「随分愉快な人生を送ってきたのだな。羨ましい限りだ。」
すると陽国忠が言った。
「生きるという事は大変な事だ。いちいち刺激があったら疲れてしまうさ。お前のようにな」
その言葉に李林甫は少し感じるところがあった。
自らが最も重要視しているのは刺激である。
その様に言ったのは史思明も同じだったからだ。
そこで李林甫は言った。
「おい。陽国忠。お前は閻王復活、天下泰平と書かれた玉を見たことが有るか?」
陽国忠は言った。
「あると言ったらどうする?」
李林甫は陽国忠の言葉に驚き、目を見開いていった。
「お前はあの玉について何かを知っているのか?」
それに対して楊国忠は言った。
「ああ。だが聞きたいというなら覚悟を決める事だ。知ったら後戻りは出来ないぞ。お前は特にな。」
その言葉に李林甫は自分が何か大きなものに巻き込まれて行く様な恐怖を感じた。
しかし同時に強い好奇心も感じ抗う事が出来ずに言った。
「頼む。教えてくれ。」
李林甫の呼びかけに陽国忠は冷たい目を向けて言った。
「いいだろう。良く聞け。あれはあまり美味しくないぞ。」
李林甫は困惑して言った。
「どういう意味だ。」
楊国忠は言った。
「皆が探している随分良いものらしいからかじったんだ。石だけあって不味かった。あれを欲しがる奴らの気持ちが分からん。」
李林甫は陽国忠の玉に関する情報が余りにどうでも良いものであったためあきれ返った。
しかし同時に陽国忠の言葉が妙に気に入り笑みを浮かべた。
そして言った。
「そうだな。あれは食えない。刺激も無い。気にする価値はないか。」
陽国忠は言った。
「そうだ。良く分かってるじゃないか。俺達には不用な物だ。」
二人は目をあわせ笑い合った。
そしてその時だった。
李林甫の胸元が光り輝き衣嚢から玉の欠片が現れた。
その玉には天下泰平と書かれていた。
李林甫は驚き言った。
「これは一体?」
それに対して楊国忠は言った。
「さあな。残念だがお前と俺は違うようだ。この玉は恐らくお前が持つべきものだったという事なんだろう。だが他の奴には秘密にしとけよ。お前。殺されるぞ。」
李林甫は陽国忠の言葉に静かに頷いたのだった。




