第20章雪女衣と消せない絆
雪女衣は、李弘に別れを告げ北方に向かって空を飛んでいた。
しかし直ぐに地面に叩き落された。
あまりに突然の事に、雪女衣は驚き上を見上げた。
すると上空には鷹が飛んでいた。
(一体どういう事なのでしょう?)
雪女衣は突然の事に頭が回らなかった。
しかし、雪女衣をにらむ鷹の目からは明確な殺意が見て取れた。
「キッキッ。」
鷹は鋭く鳴くと上空から雪女衣に襲い掛かった。
雪女衣はなんとかかわしたが、かわしきれず傷を負った。
その痛みは雪女衣の死の予感をより鮮明なものにした。
(どうすれば助かるのでしょう)
雪女衣は鷹の攻撃を逃れる方法を必死に考えた。
そして同時に、必死に生きようとしている自分の事を不思議に思った。
雪女衣は長く生きてきたが、自分の死を想像する事も無いわけではなかった。
しかし想像上の自分の態度は決して悲観的なものではなかった。
むしろやっと死ぬ事が出来るという安堵の表情を浮かべていた。
だが実際は違う。
雪女衣はどれ程無様でも必死に鷹から逃れ生きようとしている。
雪女衣は悠基との出会いで生きる意味を見出し、死が怖くなっていたのである。
そんな事を考えていると鷹は再び襲い掛かって来た。
飛行速度では絶対に敵わない雪女衣は訓練の成果を発揮し再び攻撃をかわした。
しかし、無傷では済まず再び傷を負った。
もう雪女衣の体はぼろぼろだった。
次はよけられない。
雪女衣は直感的に自らの死を感じた。
(私はなんて愚かだったんでしょう。)
死の間際に雪女衣が感じたのは深い悲しみと涙だった。
(結局、私はもう一度皆さんに会いたいのです。だから、ここまで必死に生きようとしている。皆さんとの出会いは私にとって奇跡でした。なのにどうして。私は自分からその奇跡を手放してしまったのでしょう。たとえ迷惑をかけても皆さんの下を離れるべきでは有りませんでした。やっと見つけた私の居場所なのですから。)
そして鷹は勢いをつけ、再び雪女衣に襲い掛かった。
(せめて今後の皆さんが幸せで笑顔にあふれていますように)
雪女衣は身に付けた首飾りの存在を感じながら目を閉じじっと祈りを捧げた。
その瞬間だった。
黒い塊が凄い勢いで鷹に襲い掛かった。
鷹は驚き一度上空に舞い戻った。
「ミー。ミー。(まったく随分遠くまで来たものですね。追いかけるのに苦労しましたよ)」
悠々だった。
雪女衣は驚いた様子で言った。
「どうしてここが分かったんですか」
悠々は鳴いた。
「ミー。ミー。(匂いですよ。密かに応援に来ていまして、勝ったのでお祝いの一つでもしようと思ったら、控え室にあなたがいませんでした。ですから匂いをたどってここまで来ました。)」
雪女衣は言った。
「匂いで分かるものなんですね。」
悠々は自慢げに言った。
「ミー。ミー。(私以外では無理でしょう)」
「キッ。キッ。」
鷹は悠々と雪女衣に対して威嚇の鳴き声をあげた
それを見て雪女衣が笑顔で言った。
「最後にお顔が見れて良かったです。なんだか凄く安心しました。あの鷹の狙いは私です。悠々さんは下がっていて下さい。」
すると悠々は雪女衣と鷹の間に立ち、呆れた様子で鳴いた。
「ミー。ミー。(あなたは本当に頭が悪いですね。立ち去った理由もどうせ私達に迷惑をかけないためなのでしょう。そのせいでかえって迷惑をかけるのはなんともあなたらしいですが)」
雪女衣は悠々の行動に驚いて言った。
「悠々さん。何してるんですか。私を庇う気ですか。」
悠々は鳴いた。
「ミー。ミー。(庇う? どうして私があなたを庇わなければいけないんですか。あなたには根本的な勘違いがあります。私も陛下もあなたよりずっと強いのです。あなたごときの迷惑など負担ですらありません。遠慮せずに私を頼りなさい。)」
そして悠々は鷹を見て激しい鳴き声をあげた。
「シャー。シャー。(鷹。お前は頭が足りないようなので一つお勉強をさせてあげましょう)」
悠々の威嚇に鷹は激高し上空から襲い掛かった。
しかし、悠々は飛び上がりながら鷹のくちばしをかわすと羽の付け根に噛み付いた。
そして、鷹が地面に落ちると頭を足で押さえ羽を牙で噛み付き鷹を取り押さえた。
そして鳴いた。
「ミー。ミー。(鷹ごときが猫に勝てるはずが無いのですよ)」
「悠々さん」
雪女衣は目の前の光景を見ながら、涙を浮かべた。
悠々は鳴いた。
「ミー。ミー。(大げさですよ。この程度の事で泣かないで下さい。恥ずかしい。)
すると雪女衣と悠々の元へ李林甫が馬で現れた。
悠々は李林甫を見ると鳴いた。
「ミー。ミー。(今頃一体何しに来たのですか)」
李林甫は悠々の言葉は分からないが悠々の態度から悠々の言おうとしている事を察し答えた。
「助かりました。雪女衣が死んでいたら私の首も危ないところでした。その鷹は殺さないで下さい。おそらく、飼育された鷹でしょうから鷹から鷹匠を割り出してそこから、今回の件の首謀者を見つけ出す事ができます。」
悠々は鳴いた。
「ミー。ミー。(雪女衣。どうやらもう少しこの体勢でいる必要があるようです。確認ですが、まさかまだ、私達から離れようなどと考えてはいませんよね)」
雪女衣は笑顔で言った。
「はい。もう2度とこんな事はしません。皆さんに出て行けといわれない限り、私は皆さんと共に行きたいと思います。」
悠々は鳴いた。
「ミー。ミー。(それなら初めから逃げなければ良いのですよ。去る必要はないと陛下も私も言っているのですから)。」
悠々の言葉は何時もどおり冷たかった。
もっとも悠々の喋り方はどことなく温かいもので表情も心なしか嬉しそうだった。




