第16章雪女衣の最終特訓(後編)
その後、雪女衣は必死に使用人たちから逃げ回っていた。
しかし、徐々に追求の手が厳しくなり追い込まれていった。
(あと30分程でしょうか。しかし、段々逃げるところがなくなってきて困りますね。)
雪女衣が途方にくれていると目の前に悠々が現れた。
雪女衣は驚き身構えた。
すると悠々が鳴いた。
「ミー。ミー。(身構えなくても良いです。私は参加していませんから。)
それに対して雪女衣は答えた。
「そうですか。ほっとしました。」
そう言った雪女衣の表情は少し寂しげだった。
すると悠々が鳴いた。
「ミー。ミー。(とはいえ陛下がせっかく考えられた催しです。すぐに終わっては面白くありません。しょうがないのであなたが逃げるのを手助けしてあげます。)」
その言葉を聞いて雪女衣は目を輝かせた。
「本当ですか?」
悠々は鳴いた。
「ミー。ミー。(当然です。その証拠に先程も病人の振りをしてあなたの気を惹こうとしていた李林甫を成敗してきました。)」
今の発言は悠々の冗談である。
気分が高揚し興奮している雪女衣を落ち着けるため気高い猫は少し似あわない事をしたのだ。
しかし、雪女衣は冗談に気付かず真面目に答えた。
「暴力はよくありませんよ。」
その言葉を聞くと悠々は苦笑いをして鳴いた。
「ミー。ミー。(冗談ですよ。慣れない事はするものではありませんね。付いてきなさい。いい逃げ道が有ります。)」
「はい」
雪女衣は嬉しそうに歩いて行く悠々を追いかけた。
悠々はある使用人部屋に入ると、机の上にのりそこから屋根裏に入った。
そして鳴いた。
「ミー。ミー。(ここは私の散歩道です。屋根裏は人間は上がって来られませんから陛下に見つかる事も無いでしょう)」
雪女衣は感心した様子で言った。
「凄い。悠々さんは本当に色々な事を知っていますね。」
悠々は雪女衣の言葉に照れた様子で答えた。
「ミー。ミー。(あなたがものを知らなすぎるだけです)」
そして二人は屋根裏に上った。
すると屋根裏には狐になった楊玉環が待ち構えていた。
楊玉環は肉球で器用に水風船を取ると、雪女衣を目掛けて投げつけた。
「ミー。ミー。(危ない)」
悠々はとっさに雪女衣に覆いかぶさり、水風船から雪女衣を守った。
それを見た楊玉環は笑みを浮かべて言った。
「あら。結局、雪女衣を助けているのね。本当に素直じゃないんだから。」
悠々は鳴いた。
「ミー。ミー。(狐。どうしてこんな所で待ち伏せしているのです? 本来雪女衣が来るはずの無い場所ですよ。)」
それに対して楊玉環が言った。
「あなたが雪女衣を助けるのは予想通りよ。そして単純な猫のだもの。雪女衣を偉そうに自分の散歩道に連れてくると思っていたわ。」
それを聞くと悠々は鳴いた。
「ミー。ミー。(雪女衣。先に行きなさい。この女は私を侮辱しました。しかるべき罰を加えなければなりません。)」
雪女衣は心配そうに言った。
「喧嘩は駄目ですよ」
すると楊玉環が言った。
「気にしないで良いわよ。互いに手の抜き方は分かっているわ。それよりこのまま進めば修練場の屋根裏に着くわ。そこにはあなたが会いたい人が居るはずよ。」
雪女衣は悠々の方を見た。
悠々も楊玉環の言葉に静かに頷いた。
「皆様。ありがとうございます」
そして雪女衣は走り出し、修練場へ向かったのだった。
☆☆☆
雪女衣は修練場に着くとそこには李憲が正座していた。
雪女衣は屋根から飛び降りると李憲に言った。
「李憲様。最後の勝負をお願いします。」
李憲は言った。
「あなたは本当に真っ直ぐですね。必ず最後はここに来て私と勝負して下さると思っていました。」
雪女衣は言った。
「当然です。この特訓が最後の特訓なら李憲様に勝たなければ特訓になりませんから。」
それを聞くと李憲は静かに答えた。
「そうですか。ところで質問です。雪女衣。今は楽しいですか?」
雪女衣は李憲を真っ直ぐ見て答えた。
「はい。夢のようです。」
李憲はその言葉を聞くと笑みを浮かばた。
「そうですか。それは良かった。」
そして李憲は立ち上がると修練場の外へ向けて歩き出した。
雪女衣は李憲に対して言った。
「勝負なさらないのですか。」
李憲はそれに対して言った。
「その必要はありません。あなたはすでに勝利している。あなたの真っ直ぐさとひたむきな努力は我々全員の心に強く響きました。そして今、あなたの存在に反対する者はすでに居ません。あなたは自らの力で信頼を勝ち取ったのです。」
そして李憲は修練場の扉を開いた。
そこには「雪女衣壮行会」という旗と共に立派な設営が設けられていた。
中には悠基や陸、海、空、使用人に加えて、姚崇や高力士の姿もあった。
驚いた雪女衣に李憲が笑顔で言った。
「元々今日は練習を早く切り上げて壮行会の予定でした。それが突然の悠基様の思いつきでこういう形になりましたが悪くはないでしょう。」
悠基は雪女衣に言った。
「いやー。参ったよ。勝気満々だったんだけどね」
「俺の功績です。宰相にして下さい。」
横ではなぜか空が誇らしげに自らの功績を語っていた。
雪女衣はその様子を見て涙を浮かべた。
すると後ろから鳴き声が聞こえた。
「ミー。ミー。(めでたい席です。涙は相応しくありません。嬉しいのでしょう? 泣くのではなく笑いなさい。)」
「はい。」
雪女衣は目に涙を浮かべたまま最高の笑顔で悠々の言葉に答え、彼女の勝利を祈る皆の元へゆっくりと歩いて行ったのだった。




