第7章雪女衣の特訓(走り込み編)
早朝、私の寝室にはお義兄ちゃんが訪れた。
前夜、楊ちゃんと酒宴を行い浴びるほど酒を飲んだ私は二日酔いの頭痛を感じながら目覚めた。
私は言った。
「お義兄ちゃん。何しに来たの?」
するとお義兄ちゃんは優しく言った。
「起こしてしまいましたか。雪女衣の特訓に参りました」
そしてお義兄ちゃんは悠々の横で眠っている雪女衣を揺すって言った。
「起きて下さい。今日から特訓ですよ」
雪女衣は一瞬、驚いた様子を見せたがすぐにお義兄ちゃんとの約束を思い出し立ち上がった。
そして私に言った。
「陛下。行って参ります。」
私は言った。
「うん。怪我には気をつけてね。」
そして二人は出て行った。
二人が出て行くと、悠々も起き上がり外に出ようとした。
私はそれを見て言った。
「悠々。雪女衣の特訓の邪魔しちゃ駄目だよ。」
悠々は私の言葉を聞いて鳴いた。
「ミー。ミー。」
私には言葉の意味は分からなかったが恐らく私の言葉に同意してくれたのだと思った。
(私も付いていこうかな。お義兄ちゃんの走る姿も見れるし)
私はそう考え立ち上がろうとした。
しかし、頭が痛く諦めたのだった。
☆☆☆
そして李憲と雪女衣は早朝の走り込みを行なっていた。
李憲は言った。
「良いですか? 体力は全ての基本です。厳しい練習は体力があって始めて行う事が出来ます。ですからまずはこの走り込みを毎日行ないましょう。良いですね」
雪女衣は言った。
「はい。李憲様。お忙しい中時間を割いて下さりありがとうございます。頑張ります。」
すると、前からあくびをかきながら眠そうに歩く李林甫とすれ違った。
李憲と雪女衣は一旦、走りを止めた。
そして李憲は言った。
「李林甫。徹夜で仕事ですか? 睡眠は重要ですよ。仕事が多すぎるなら減らしますが。」
すると李林甫は二日酔いで頭が回っておらず言った。
「いえ。仕事ではありません。お勤めで得た金銭を使って美女を侍らせ夜中まで酒池肉林をしておりました。」
それを聞いて李憲は顔をしかめた。
李林甫は自分のした過ちに気付いたがもはや手遅れだった。
李憲は言った。
「李林甫。あなたには、問題行動が多い。それは恐らく鍛錬が足りないからでしょう。」
李林甫は李憲の説教を恐れて言った。
「いえ。私は文官なので鍛錬はいらないかと。」
すると李憲は言った。
「文官も武官も関係ありません。この後に及んで言い訳ですか? そうだ。今日から一緒に走りこみをしましょう。」
李林甫は李憲の非情な提案に恐れをなした。
そしてとりあえずこの場から逃れようとした。
すると李憲が李林甫の服の袖を掴んだ。
李憲の力は強く李林甫は身動きが取れなくなった。
李憲は笑顔で言った。
「どちらに行かれるのですか? まだ話は終わっていませんよ。」
結局李林甫は李憲から逃れる事は出来ず、3人で走ることとなった。
雪女衣は鳥であるため小さい足を必死に動かして走りながら、李林甫に言った。
「李林甫さん。先日は試合を組んでいただきありがとうございます。今日から一緒に頑張りましょうね。」
李林甫は苦笑いをして言った。
「私としては勘弁して頂きたいのですがね。」
そして3人はしばらく走りこみを続けた。
するとしばらく走ったところで高力士が現れた。
高力士は走っている三人を見て言った。
「朝早くからご苦労様です。鍛錬ですか?」
李憲は言った。
「はい。そういうあなたは? 何をしているのですか?」
高力士は答えた。
「いえ。ずっと山の中で暮らして来たので宮中が珍しくて。朝から色々見学をしていました。」
それを聞くと李林甫は目を輝かせた。
この走り込みから逃れる好機だと考えたためである。
そして言った。
「それは大変だ。どうでしょう。私が宮中を案内しましょうか。」
しかし、李憲は李林甫を遮って言った。
「高力士殿も一緒に走りませんか。雪女衣と接する事ができてあなたの目的にもあっているはずです。」
それを聞くと高力士は笑みを浮かべた。
「是非ご一緒させて下さい。身体がなまっていることが気になっていたのです。」
李林甫はため息をついて小さい声で言った。
「この脳筋どもが」
すると李憲が笑顔で言った。
「聞こえていますよ。」
李林甫は李憲の地獄耳に驚きながらも走り始めた。
それからしばらくの間、4人は走り続けた。
そして始めに予定していた距離を走りきると、宮中の広場に入った。
雪女衣はへとへとになり鳥胸を大きく動かして呼吸をしていたが、横で倒れ込んだ李憲を気遣って言った。
「大丈夫ですか」
そして雪女衣は少しでも李林甫が楽になるように羽で李林甫を扇いだ。
李林甫言った。
「疲れました。もう一歩も動けません。」
それを聞いて李憲はため息をついた。
「全く。体力がありませんねえ。そんな事では陛下の期待にお応えすることは出来ませんよ。」
李林甫は笑みを浮かべて応えた。
「大丈夫です。陛下から期待されていると感じた事は一度もありません。それよりも問題はこれからです。私は疲れきってしまい、もはや一歩も動けません。部屋まで負ぶっていってもらえませんか。」
李憲は李林甫の言葉にため息をついた。
「全く。そういう事では困りますよ。これを期にこれからは真人間になりなさい。」
そう言うと李憲は李林甫を担ぎ上げた。
李憲は雪女衣の方を向くと言った。
「雪女衣。あなたも疲れたでしょう。後で私が運んであげますからここで待っていてください。」
雪女衣は嬉しそうに頷いた。
そして李憲は高力士に一礼をし、去って行った。
高力士は雪女衣と二人になると、雪女衣に頭を下げた。
そして言った。
「雪女衣殿。跂踵が疫病を起こすという疑いが晴れたわけではありません。ですが一生懸命走り、自分がへとへとになりながらも李林甫殿を気遣うあなたを見て、少なくともあなた自身は存在に足りる存在である事が分かりました。酷い事を言って申し訳ない。ここで謝罪させて下さい。」
雪女衣はうつむき加減で応えた。
「いえ。そう言っていただけて嬉しいです。」
そして少し躊躇った様子を見せた後に、真っ直ぐ高力士を見て言った。
「私。今度、もう一度闘鶏をするのです。是非見に来て頂けませんか。」
高力士は頷いて言った。
「分かりました。判断はそこまで待ちましょう。頑張って下さい。」
そして高力士は去っていった。
すると李憲を待つ雪女衣の元に悠々がやって来た。
悠々は口で水の入った桶を加えており、桶を地面に置いた。
「ミー。ミー。」(運動した後の水分補給は大切です。飲みなさい。)
雪女衣は自分を否定していた悠々の好意が嬉しかったようで、素早い足取りで桶に近づき水を飲んだ。
そして水を飲むと言った。
「生き返りました。ありがとうございます。」
それを聞くと悠々は鳴いた。
「ミー。ミー。」(勘違いしないで下さい。あなたのためではありません。あなたがこんな所で倒れられては陛下に迷惑が掛かります。だから水を持ってきただけです。私があなたを殺そうと思っていることには違いはありません。)
雪女衣は気高い悠々の不器用な優しさを感じ笑顔を見せた。
そして言った。
「分かっています。ここの人たちは皆が優しくて勘違いしそうになりますが、私は人々から忌み嫌われる跂踵です。その事実には違いがありません。だけど、李憲様のためにも今は少しだけわがままになって、頑張ってみようと思います。」
悠々は鳴いた。
「ミー。ミー。」(いい顔をするようになりましたね。ですが、結果が全てですよ。)
雪女衣は悠々の優しくも厳しい言葉に静かに頷いたのだった。




