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大切なお義兄ちゃんを守るために皇帝になりました  作者: 米田薫
第3編皇帝陛下と宗教改革
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第5章封魔教からの使者

私が雪女衣を試合に出したのは勿論、彼女の夢を応援したかったからである。

もっとも私は皇帝だ。

私情とは別に打算もある。

雪女衣を試合に出す事で、多くの目に触れさせ封魔教に対して反応を誘うというものである。

そして私の策は功を奏し封魔教からは秘密裏に雪女衣を殺す様に要求された。

また私が無視していると何度も抗議文を送ってきた。

これらの文書は封魔教が教義として跂踵を害鳥とみなしている重要な証拠となるため内容の分析を含めてお義兄ちゃん達に預けている。


そんな状況の中、封魔教から使者がやって来た。

本来彼らは秘密主義で国とやり取りする場合には書面で行ない、直接会いに来る事はないのが基本である。

そこで意外に思ったがこれを無視するわけにもいかないため、急遽お義兄ちゃんを呼んだ。

さらに怪異のことは分からない可能性があるため楊ちゃんにも横に控えてもらった。


使者は私の前に座ると言った。

「始めまして。私は高力士と申します。本日は封魔教の使者として参りました。」


高力士か。

たしかお義兄ちゃんが調べた封魔教の組織図に名前があった。

若くしてその優秀さから幹部に上り詰めたが、有望株の一人だ。

本来その様な地位の人間が寺院を出て会いに来る事はありえない。

私は凄く不審に思った。


私は言った。

「今日はなんの用だ?」


高力士はそれを聞くと怒ったような様子を見せた。

「分からないはずがないでしょう。散々書類を提出したはずです。跂踵は危険な生き物ですよ。疫病をはやらせてもよろしいのですか。」


私はこの男に対する不審感をさらに募らせた。

封魔教の抗議文はもっと婉曲な表現だった。

ここまで直接的に不満を示す事が本当に封魔教全体の方針なのだろうか。

私には今回の訪問が正義感に駆られたこの男の独断であるようにしか思えなかった。


もっとも私の対応は変わらない。

私は冷静に答えた。

「お前達の教義において跂踵が忌むべき存在である事は分かっている。だが、私の愛鳥雪女衣が跂踵であるかどうかが定かでない。よって慎重に調査してから対応する。それまでは待っていろ。」


それに対して高力士は更に怒りを募らせた様子で言った。

「では今ここに連れて来てください。私が判断いたします。」


私は言った。

「断る。なぜ私の愛鳥をお前に見せなければならない? 私が自分で調査するといっているのだ。それが信用できないのか?」


私は思った。

さすがにここまで言えば、これ以上の反論が出来ないだろう。

この男の気持ちが分からない訳ではないがこれは一種の戦いである以上望みどおりの対応をしてあげる訳にはいかないのである。


すると高力士は今にも立ち上がりそうな勢いで言った。

「陛下。目を覚まして下さい。陛下はその妖孤の色香に騙されているだけです。」


妖孤の色香?

私が楊ちゃんに夢中ってこと?

何を言っているのだろうか。

私は高力士に俄然興味が出てきた。


私は言った。

「妖孤の色香とはどういう事だ?」


それに対して高力士は答えた。

「陛下が妃である楊玉環に夢中で魔におもねり政治をおろそかにしているという噂は、封魔教の内部に知れ渡っております。そして今日、楊玉環を見て確信しました。彼女は妖孤ですね。美しい瞳に綺麗な顔、そして豊満な肉体。たしかに陛下が愛に溺れることも仕方がないのかもしれませんが、節度は守るべきです。陛下は一人の人間である以前に皇帝なのですから。自覚をして下さい。」


私は思った。

この男は皇帝である私の元に単身で乗り込んできて、死を覚悟でここまでの事を言っているのだ。

度胸はあるのだろう。

しかし、いくらなんでも思い込みが強すぎる。

封魔教の指導部は陰では悪事を行ないつつ、表ではこういう強力な信者を従えて対抗する勢力を叩いているのだろう。

その教育の成果なのだろうが、いくらなんでも的外れが過ぎる。


私は横の楊ちゃんを見た。

楊ちゃんは自らの美貌を褒められて嬉しいのか尻尾を振っていた。

そして楊ちゃんが言った。

「美しい?私がそんなに美しいのかしら。」


それに対して高力士は言った。

「はい。今まで見たことのない美しさです。あなたには一枝の濃艶な花が結露し、香りが立ち込めているような趣があります。あなたの様な人間を側にはべらせている陛下の喜びは神女をはべらせる神の喜びに勝るでしょう。あなたに匹敵する美を持つ人間といったら趙飛燕しか浮かびません。」


楊ちゃんはそれを聞いて照れた様子で言った。

「こんなに情熱的な告白は初めてだわ。あなた。文才があるわね。」


私は思った。

この男は楊ちゃんに告白でもしているんだろうか。

しかし、私に対する要求は楊ちゃんとの仲を危惧するものだし。

正直、もう会話の内容が入ってこない。


そして私にはもう一つ気になる事があった。

それは高力士が楊ちゃんを趙飛燕に例えたことである。

趙飛燕はこの国が出来る前に、人間の国家が存在した際、その国を内部から崩壊させるため閻王が送り込んだ傾国の美女で楊ちゃんと同じ妖孤だ。

でも楊ちゃんと違って非常に腰が細く儚い感じだったらしい。

舞が得意だったが、風に吹かれて飛んでしまう事を危惧した皇帝が敷居を用意しその中で舞を舞わせたという逸話があるほどだ。


だから私は笑いながら言った。

「それは言いすぎでしょ。楊ちゃんは太ってるから敷居はいらないだろうし。風に飛ばされるって感じじゃないしね。」


それを聞くとお義兄ちゃんが私を睨んだ。

私は普段どおりに話してしまったことを気付き慌てて口を押えた。

すると楊ちゃんが頬を膨らませて言った。

「陛下。それはあんまりだわ。私が肥満体みたいじゃない。私は健康的なのよ。健康的な美の形なの。女の子はこれ位の方が可愛いのよ。そうでしょ。高力士」


高力士は返事をしようとした。

しかし、そこで話しが本筋からずれている事に気付いたのか仕切り直す様に言った。

「とにかくあの跂踵は早く殺すべきです。あんな生き物はこの世に存在してはならない。」


するとお義兄ちゃんが口を開いた。

「失礼ですが。あなたは先日の闘鶏を見られましたか?」


私は驚いた。

お義兄ちゃんの発言は全く計画になかったからだ。

すると高力士は言った。

「見ていませんが。」


それに対してお義兄ちゃんが続けた。

「先日の闘鶏は素晴らしかった。人間であってもあれだけ立派な戦いを出来る者は少ないでしょう。私は彼女から多くの事を学んだ気がします。また彼女は素行も良く皆から慕われている。陛下も気に入っています。我々に大切な仲間です。それを存在すべきでないなどというのはやめていただけますか。」


私は驚いた。

お義兄ちゃんの発言は雪女衣を跂踵と認めるとも取れる発言だ。

私の計画が崩れる。

私が焦ると横に居るご機嫌ななめな楊ちゃんが私の後ろに目配せをした。

私がこっそり後ろを見ると雪女衣がこちらを心配そうに覗いていた。


なる程、お義兄ちゃんはその事に気付いていたのか。

そしていつもの悪い癖が発動したらしい。


しかし、高力士もお義兄ちゃんに負けず真っ直ぐな性格である。

お義兄ちゃんの失言にも気付かず、言い返した。

「あなたにとって跂踵がどの様な存在であるかは知りません。ですが跂踵は魔であり、悪だ。この世から消し去らなくてはならないのです。」


するとお義兄ちゃんは言った。

「その根拠は?」


私は内心まずいなと思った。

お義兄ちゃんは今、雪女衣を守ることしか頭にない。

正直少し頭に血が上っている状態である。


それに対して高力士は言った。

「私は導師からその様に教わりました。」


お義兄ちゃんは言った。

「他人の存在を否定するという重大な事をするにも関わらずその根拠は人任せですか。他人を救うとか導くなんていう大それた事を言うんだ。少しは自分の目で見て、頭で考えたらどうだ。」


大切なものが傷つけられたら怒る。

それは単純な事だが大切で実は凄く難しいことだ。

私は昔から、そういう感情がほとんどない。

それだけにお義兄ちゃんのこういう所が大好きだ。

でも私にも立場がある。

そこで私は仕方がなく怒鳴った。


「李憲。口を慎め。」


その言葉を聞いてお義兄ちゃんは我に返ったようで静かになった。

私は話を続けた。

「李憲は少し冷静さをかいた発言をした。悪かったな。調査はする。今日のところは帰ってくれるか?」


すると高力士は静かに言った。

「李憲殿の言う通りかもしれません。」


私は状況が飲み込めず聞き返した。

「どういう意味だ?」


高力士は言った。

「私は跂踵は殺すべきであると考えています。ですが李憲殿が跂踵の事を大切に思っていることも伝わってきました。それに跂踵との関わり方について自分でしっかり判断してこなかったのは事実です。どうでしょう? 私の結論が出るまでお側においてもらえませんか?」


私は思った。

高力士を側に置く事は危険な選択ではある。

だが、上手く使えれば一つの武器になる可能性もある人材だ。

私は、後者を採った。


そして言った。

「分かった。良いだろう。よろしく頼むぞ。」


こうして高力士が私に仕えることになったのだった。


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