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大切なお義兄ちゃんを守るために皇帝になりました  作者: 米田薫
第3編皇帝陛下と宗教改革
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第1章猫仕事

ある日、私は日頃の疲れを癒すため、楊ちゃんに按摩をしてもらっていた。

楊ちゃんは按摩の技能が高いらしく凄く気持ちが良い。

私は寝台にうつぶせになりながら背中を揉んでもらった。


私は言った。

「本当に気持ち良いよ。楊ちゃんは本当に色々な事が出来るね。」


すると楊ちゃんは言った。

「そんな事ないわよ。でも私も長く生きているもの。いくつか得意なものはあるわ。」


そして楊ちゃんは私の背中のつぼを力強く押した。

私は大きな声で言った。

「あー。効く。痛い。」


それを聞いて楊ちゃんが言った。

「まだ若いのにここが痛いって事は相当疲れているって言う証拠よ。多分日頃から大変な事が多いのね。」


私は言った。

「そうなんだよ。皇帝って本当に大変だよね。皆が好き勝手いろんな事を言ってくるからいつも気が抜けないよ。」


楊ちゃんは言った。

「陛下は腕だって細いし、体も小さいわ。今だって少し力を入れたら折れてしまいそう。こんな女の子に皇帝なんていう大きなものを背負わせるなんて人間もだらしがないわね。」


私は自嘲気味な笑みを浮かべて言った。

「まあ。そんなに真面目にやってないけどね。」


すると楊ちゃんが言った。

「そんな事ないわ。陛下はしっかりやってるわよ。だってお仕事をしてる事があるじゃない。」


私は言った。

「楊ちゃん。人間としては普通だよ。」


楊ちゃんは言った。

「人間は大変ね。一体何が楽しくてそんなに働くのかしら。」


そして私は思った。

たしかに楊ちゃんが働いている事は見たことがない。

常に遊んでいて、そうでない時は寝ている。

他の怪異もそうだ。

狸たちなどはなんの目的もなく風に揺られている。

だがそれはそれで生き物としては正しい姿にも思われた。


私がそんな事を考えていると、お義兄ちゃんが室内に入ってきた。

「悠基様。少しご相談があるのですが。」


私は楊ちゃんの按摩を受けた力の抜けた声で言った。

「お義兄ちゃん。いらっしゃい。」


するとお義兄ちゃんが言った。

「お仕事はどうされたのですか?たしか今日中に処理しなければならない書類が多数あったものと思いますが。」


そんなお義兄ちゃんを見て楊ちゃんが言った。

「可哀想な人間ねえ。きっと仕事くらいしか楽しい事がないのね。」


お義兄ちゃんは言った。

「大人は楽しくなくても仕事をするんですよ。」


すると楊ちゃんは私の足のつぼを押した。

私は痛かったがなんだか気持ちよく、体を伸ばした。


そして楊ちゃんが言った。

「陛下はねえ。若いのにこんなに身体が凝ってるのよ。あなた達が陛下を働かせすぎよ。」


それを見てお義兄ちゃんが少し反省した様子で言った。

「たしかにそうかもしれません。悠基様。無理してはおられませんか。」


お義兄ちゃんはそのまま心配そうに私の顔を覗き込んだ。

私は大変良い気分だった。

当然だ。

楊ちゃんの按摩で凄く良い気分であるのに加えて、お義兄ちゃんが私の事を心配してくれている。

私にとってこれ以上の贅沢は無い。


するとお義兄ちゃんが言った。

「悠基様が面倒ごとや心配事を溜め込む性分である事は分かっております。ですが、無理はいけません。体には悪いですし、悠基様が無理されていると聞くと私も悲しい気持ちになります。」


私は嬉しい気持ちだった。

お義兄ちゃんがこんなに私の事を気遣ってくれるのは久し振りである。

そしてこれは好機だとも思った。

最近の私にははかなげさが足りない。

皇帝である以上仕方がないことだが、そのせいで最近のお義兄ちゃんがあまり甘えさせてくれないのもまた事実である。

ここで少し、民のために自分を犠牲にして戦う皇帝を演じ、お義兄ちゃんの気を引くとしよう。


私は言った。

「気にしないで。これは私が望んだ事だから。お義兄ちゃん。皇帝って楽しいよ。たしかにつらい事も苦しい事も多いけど、皆が支えてくれるし、私のちょっとした行動で多くの人が幸せになれると思うとこんな幸せなことは無いよ。」


私は思った。

決まった。

声の感じもいつもより少し抑えて完璧だった。

お義兄ちゃんはきっと私が儚い女の子という印象を抱いたことだろう。

暇なとき、楊ちゃんから儚げな女の子を演じる術を習っていて良かった。


「悠基様。」

お義兄ちゃんは、案の定、目を潤めていた。

我が義兄ながら単純で心配になる。

女の子の涙は信頼してはいけないという事をしっかり教えておかないと変な女に引っかからないか不安になる。

まあ、そんな女は私がお義兄ちゃんに近づかせないけどね。


「ミー。ミー。」

私がそんな事を考えていると悠々が鳴き出した。


お兄ちゃんは私の仕事机の方で悠々が鳴いている事に気付き、私に言った。

「大丈夫ですか。あっちは仕事机ですよね。書類にいたずらとかされたら大変ですよ。」


私は焦った。

実は私は今、自分の仕事を悠々にやらせている。

遊びで悠々に仕事を教えていたらいつの間にか本当に仕事が出来るようになってしまった。

最初はまずいと思っていたのだが、悠々が働いている様子は可愛い上に、正直私より良い仕事をするため最近ではほとんどの書類仕事を悠々に任せている。

せっかく良い雰囲気なのに、あれに気付かれたらどれ程怒られるか知れたものではない。


そこで私は言った。

「気にしなくて良いよ。悠々はしっかり者だから大丈夫。」


私の発言にお義兄ちゃんは一応納得したのか、目を再び私の方に向けた。

私はこのまま悠々の件については話が流れる事を願った。


「ミー。ミー。」

しかし、私の願いは虚しく悠々は私の元に書類をくわえてやってきた。

どうやら書類に不備があったらしい。


私は日頃の習慣から思わず言った。

「それ単なる誤字だから気にしないで良いよ。でも一応確認するからそっちに置いといて。」


「ミー。ミー。」

悠々は再び、書類をくわえると仕事机に思った。


それを見てお義兄ちゃんは言った。

「悠基様。これはどういうことですか。」


私は言った。

「さあ。悠々のいたづらじゃない?全くけしからん猫だよ。」


私がそう言うと、悠々は誇りを傷つけられたのか再び書類を持ってやって来た。

そして私とお義兄ちゃんの目の前で、器用に口で私の判子を取ると、私の書類に押した。


「ミー。ミー。」

悠々は唖然とするお義兄ちゃんの前で誇らしげに鳴いた。


それを聞いて楊ちゃんがお義兄ちゃんを言った。

「なんでもこの猫はあなたに仕事のやり方を教えてるみたいよ。(判子はこうやって押すんです。慣れれば利発な李憲様ですからすぐに出来るようになりますよ。)って言ってるわ。」


お義兄ちゃんが言った。

「もしかして仕事を猫にやらせているんですか?」


私は思った。

もうこうなっては仕方がない。

開き直ってしまおう。


私は楊ちゃんの按摩を一端止め立ち上がって言った。

「そうだ。私はこれを猫仕事と呼んでいる。」


お義兄ちゃんはため息をついて言った。

「全く心配して損しましたよ。」


私はこんな事をやっておいてなんだがお義兄ちゃんに幻滅されないか不安になった。

そして控えめな声で言った。

「お義兄ちゃん。怒ってるの?」


するとお義兄ちゃんは言った。

「まあ。少し安心しました。働きすぎで倒れそうになるよりは適度に休んでていただいている方が良いです。」


私は笑顔で言った。

「お義兄ちゃん。やっぱり優しいね。」


それを聞くとお義兄ちゃんはたしなめる様に言った。

「ですが、猫に判子を押させるのは問題ですのでやめてください。もし悠基様が自分が確認する必要がないとお考えの書類がございましたらご連絡下さい。専用の機関を設けて、代わりに判子を押させます。」


私は思った。

さすがはお義兄ちゃんだ。

発言は凄くもっともだ。


そこで私は言った。

「分かったよ。ところで、何しに来たの?」


お義兄ちゃんは言った。

「実は宗教の件でお話しがございまして。」


私は思った。

宗教か。

たしかにそろそろ改革に乗り出しても良い頃かもしれない。

私は次の改革に向けての計画を練りだしたのだった。


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