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大切なお義兄ちゃんを守るために皇帝になりました  作者: 米田薫
第2編皇帝陛下と軍制改革
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第10章高仙芝の思い出

高仙芝は辺境地帯に赴任するとすぐに住民に対して突厥が攻撃を仕掛けてきた場合に避難の計画を策定し、その訓練を行なった。

そのため、突厥が攻撃を仕掛けてきたという急報を受けてもすばやく対応する事が出来て被害はほとんどでなかった。

もっとも住民の保護に力を注いだ分、防衛は不十分となりほとんど無抵抗に突厥の略奪を許していた。


鈴京は城壁から略奪を行なう突厥を眺めながら言った。

「酷い有様だな。」


高仙芝は言った。

「全くだな。相変わらず恐ろしい国だ。」


「飲まなきゃやってられねえよ。」

鈴京はそう言うと、自分と同じくらいの器に酒を注ぎ一気に飲み干した。


高仙芝はいつもの事ながら凄い飲みっぷりだと感心した。

また、栗鼠に酒が飲めるのだろうかという事を今更ながらに不思議に思った。


すると鈴京が言った。

「おい。辛気臭い顔をするなよ。お前も飲むか?」


そして鈴京は高仙芝に対して、器を差し出した。

しかし、高仙芝はそれをやんわりと拒んだ。


鈴京が言った。

「なんで飲まねえんだ?飲めねえ訳じゃないだろう。」


高仙芝は答えた。

「戦の最中は飲まない事にしてるんだ。」


それを聞くと鈴京は笑い出した。

そして言った。

「なんだよそれ。いつからそんな事言い出したんだ?昔は気にせずどんどん飲んでたじゃねえか。」


高仙芝は昔、酒好きで女好きとして知られていた。

戦は上手く、本人の力も非常に強いが、その分素行は非常に悪かった。

それこそ、戦の最中に深酒をし、二日酔いで戦にのぞむ事もあった。

そのせいで体を壊し、療養した事もあった。

将来を嘱望された存在でありながら将軍になるのに時間が掛かり、40代にして始めて将軍になる事が出来たのはその様な理由による。


高仙芝は昔のことに思いを馳せながら言った。

「そうだな。昔は飲んでいた。だけどもう飲む必要は無いんだ。」


鈴京は言った。

「どういう事だ。何かあったのか?」


鈴京の言葉に高仙芝は笑みを浮かべて答えた。

「俺は元々、真面目な性格でな。酒も女もそんなに興味が無いんだ。だけど、昔は溺れるほどに酒は飲んだし、色んな人間と浮名を流した。それは結局、怖かったんだよ。戦がな」


鈴京は高仙芝の言葉を聞くと優しく言った。

「今は怖くないのか?」


高仙芝は言った。

「怖いさ。でも大丈夫だと思えるようになった。お前のお陰だよ。俺の肩の上に乗っている栗鼠が、こんなに強気なのに、お前よりずっと大きい俺が弱気でいる訳にはいかないだろ」


鈴京は少し涙もろいところがある。

そのため高仙芝の突然の感謝の言葉に胸が熱くなったようで、泣きそうになった。

そしてその事を隠すために酒を飲みながら言った。

「全く。お前は世話が焼けるよ。昔からそうだ。あの森でどんぐりをもらった時からなにも変わっちゃいねえ。」


高仙芝は言った。

「そうだな。」


すると鈴京が言った。

「だが俺もお前に感謝してるぜ。俺はな。流れ者の栗鼠だ。誰とも深く関わらず、孤独に強く生きてきた。いや、孤独を強いと感じがいしていたかも知れないな。だが俺はお前にあって本当の強さってもんを知ったよ。誰かを守るとき、人は真の強さを発揮できるんだろうな。」


高仙芝はその話を聞いて照れくさくなったのか静かに頷いた。

すると、鈴京が真剣な目で言った。

「それよりお前。いつまで篭城する気だ。兵だって十分にあるんだ。反撃しても良いだろ。」


その質問に高仙芝も真剣な目で答えた。

「上からの命令だ。突厥が攻めて来たとしても、住民さえ保護できたら一切反撃はせずに、好きなように略奪をさせろといわれている。」


その言葉を聞いて鈴京は厳しい目を浮かべた。

そして言った。

「気に食わねえな。一切反撃しなけりゃ何処までも付け上がってくるのがこの世の摂理だ。森だったらすぐに身包みはがされて死んじまうぞ」


高仙芝は少し楽しい気持ちになった。

鈴京が強気で居てくれるからこそ自分は冷静に対応できるからである。


高仙芝は言った。

「だが攻撃をした場合敗れる危険性がある。最悪の場合は城が落ちてそうすると住民達に大変な危害が及ぶ。それは避けたい。」


鈴京は怒った様子で言った。

「でもよう。突厥の連中はお前の事を臆病者だと揶揄しているらしいぜ。俺が馬鹿にされるのは良いがお前が馬鹿にされるのは我慢出来ねえよ。」


高仙芝はその言葉に笑みを浮かべた。

そして言った。

「気にしないでくれ。ただの真実だ。俺は臆病者だよ。勇敢なお前には遠く及ばない。」


しかし、鈴京はなおも不満そうな顔を見せた。

そこで高仙芝は言った。

「そんなに不満そうな顔をしないでくれ。皇帝陛下直々の命令なんだぞ。逆らったら首が飛んでしまうさ。」


それを聞くと鈴京は一瞬考え込む様な様子を見せた。

そして言った。

「陛下の発案か。それなら何か策があるのかもしれねえな。」


高仙芝は皇帝陛下の名を出した途端に納得した鈴京の事を不思議に思った。

そして言った。

「陛下の名前が出るだけで、納得するんだな。お前、もしかして陛下に惚れてるのか?たしかに綺麗で華やかな方だったから栗鼠のお前が憧れるのも無理は無いが、さすがにお前と陛下じゃつりあわないだろ。」


すると鈴京は高仙芝を叩いた。

そして言った。

「馬鹿。そういうんじゃねえよ。ただあの皇帝陛下が突厥に対してやられっぱなしで我慢するようなたまじゃねえと思っただけだ。それに俺には心に決めた女が居る。」


高仙芝は驚いた。

鈴京の恋愛の話など、聞いた事がなかったからだ。


そこで高仙芝は言った。

「心に決めた人?一体誰なんだよ。そんな話始めて聞いたぞ。」


すると鈴京は言った。

「そういや話したこと無かったな。聞きてえのか?」


高仙芝は思った。

そういえば自分はこお栗鼠のことをまったく知らないと。

そして高仙芝は自分がこの栗鼠に深く感謝しており、なにか恩を返す事が出来ないかと考えているため、栗鼠のことをもっと知りたいと思った。


そこで言った。

「ああ。俺とお前の仲だろ。是非聞かせて欲しいな」


するといつも思い切りの良い鈴京には珍しく少し躊躇う様子を見せた。

しかし、覚悟を決めた様子で言った。

「そんなに面白い話じゃねえぞ。良いのか?」


高仙芝は言った。

「お前の恋愛話だろ。面白くない訳がないじゃないか」


すると鈴京は言った。

「言ってくれるねえ。まあ良いか。お前になら知られても構わないか。実はな。俺がまだ、森で暴れていた頃、美しい狐に出会ったんだ。そして俺はすぐに恋に落ちた」


高仙芝は驚いて言った。

「狐?恋愛の相手は同じ栗鼠じゃないのか」


鈴京は驚く高仙芝を尻目に淡々と答えた。

「恋に種族は関係ねえよ。好きになっちまったらそれまでだ。俺はたまたま惚れた女が狐だっただけさ。それから俺は必死にその女の元に通った。なけなしのどんぐりで気を惹こうともしたぜ。もっともあの高嶺の花には全く効果が無かったけどな。」


高仙芝は言った。

「狐だからな。どんぐりはいらないだろ。」


鈴京は高仙芝の適切な指摘を特に気にした様子も無く話を続けた。

「このままじゃ駄目だ。そう思った俺は思い切って告白した。そして彼女は俺の告白を受けてくれた。あの時は嬉しかったぜ。」


高仙芝は言った。

「付き合うことになったのか。それは凄いな。」


すると鈴京が言った。

「ああ。そして浮かれた俺は高い木の下に二人の巣を用意した。だが幸せは長くは続かなかった。告白の成功した次の日、俺は振られたんだ。理由は聞かなかったよ。振られて食い下がるなんて男らしくないからな。」


高仙芝は言った。

「やっぱり狐が木の下で暮らすのは厳しかったんじゃないのか?」


鈴京は高仙芝の言葉は無視して言った。

「それから俺は旅に出た。誰も知らない場所でただ強さを求めてさまよっていたんだ。」


高仙芝は言った。

「それから恋はしていないのか?」


鈴京は答えた。

「ああ。男の本気の恋は一度だけだ。運命の恋が二度も三度もあったら興ざめだろ。」


そして鈴京は失恋の悲しみを忘れるようとするように、きつめの酒を口に流し込んだのだった。


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