微生物の魔王と妖精の少女、そして異世界の解決屋の関係
ハーネイトが第7話で再会する伯爵と呼ばれる男。微生物の王でありながら、なぜ一介の人間に協力し続けるのか、それにはちゃんとした理由がありました。
そう、伯爵にとって彼は、最愛の人を助けてくれて合わせてくれた恩人だったからです。
菌世界の王
今はアクシミデロ星と言う星で、伝説と言われる解決屋と行動を共にしているサルモネラ伯爵こと、サルモネラ・エンテリカ・ヴァルドラウンは、バクテリウス王国の第二王子という経歴がありました。王族の暮らしは豪華で満足はいくものの、第二王子なのでこのままでは王様にはなれず、ヘタレで性格の悪い第一王子コルネリの存在に不満を抱いていました。
国王である父バルフィカスは伯爵のこともコルネリと同じように愛し育てていましたが、次第に、伯爵はグれていきました。王宮には自身の居場所がないと感じた伯爵。しかし伯爵は他の人より体に恵まれていたので、他の世界に行くだけの力がありました。
そこで彼は人間のいる世界に、家臣らの目を盗みよく遊びに行きました。そこで、伯爵はある女の子と出会います。その子はエレナ・リリーといい、両親がいない孤児でした。雪の降る夕暮れ時、2人は偶然出会い彼女と話した伯爵は、互いの境遇を語りながら仲を深めます。そして、いつしか恋人のような関係になりました。そうして幸せなときを過ごしている中、不幸が二人を襲います。エレナが突然病気になったのです。熱が下がらず動けない彼女を助けるため、伯爵は菌界人の力で、エレナの中に入ります。そこで伯爵が見たのは、王宮にいつもいるはずの第一王子がエレナの体を滅茶苦茶に攻撃しているところだったのです。
第一王子は、恵まれた体のサルモネラに嫉妬し、将来脅かす存在として、伯爵を殺そうとしていたのです。隣の芝生は青く見えるといいますが、互いにないものねだりをしていたのです。伯爵の最愛の人を人質にされ、伯爵は抑えていた力を解放しコルネリと戦いました。家臣らもサルモネラの異常な強さのことは全員が分かっているほどであり、結果として伯爵は兄のコルネリを倒しました。
しかし、既に手遅れで、コルネリのせいでエレナは12歳という短い生涯に幕を閉じてしまいました。 今まで寡黙で不器用、表情をあまり出すことのなかった伯爵は初めて涙を流し、彼女を手厚く弔いました。そして、兄殺しの汚名を背負い、故郷の国に帰りました。すると豊かな微生物の国は、火の海に包まれていました。
伯爵は事態を察し、急いで宮殿に向かい中に入りました。その時、父と母がある男に串刺しにされ殺されているところを見てしまいました。その男は、実はサルモネラ伯爵の本当の父でした。昔今の国王に暗殺されかけ、存在を抹消されたのです。そして命からがら生き延びて復讐を誓ってこのような事態を引き起こしたのです。伯爵が父と母と慕っていましたが、それは本当の両親ではなかったのです。せめてもの罪滅ぼしで、伯爵のことを国王と王女は育てたのでしょう。
しかし伯爵はそんなことは知らず、体から雷の剣を作りその男に戦いを挑みます。
宮殿や街が業火に包まれていくなか、1日かけて戦いました。互いに互角、勝負はなかなかつきません。
男も、目の前にいる若者が実の息子だとは知らず、互いに力をぶつけ、伯爵は一瞬の隙を突いて、男の胸をスパークブレイドで貫きました。男は床に倒れ、息が絶え絶えになりながら、伯爵に話しかけました。息子よ、強くなったなと。男は途中で伯爵が息子だと気がついたのです。
その言葉を聞き、伯爵は戸惑いました。しかし、互いに血の繋がりがあることを証明する体の、六芒星のアザを見て理解しました。
伯爵は後悔の念に駆られ、父を必死で助けようとしました。しかし同じ菌界人同士で戦うと、不死身の力が使えないのです。
冷たくなる父の体を抱き抱えながら、伯爵は叫びながら、悲痛の声をあげました。最愛の人、そして父と知らず戦い、国王も実の父も助けられず、自暴自棄になりました。炎は国中を覆い尽くし、国も壊滅し彼は途方に暮れていました。
しかしそんな中、遠征に出ていたウェルシュ中将、ビブリオ大佐、セレウス中尉、ボツリナウス元帥とエルシニア准尉、カンピロバクト軍曹、リステリア広報官が生きていました。彼らは腹心であり、事件が起きる前から伯爵を慕っていました。
伯爵は腹心たちの再会を喜びつつも、壊れた国の復活と、エレナがどこか別の世界に転生していないか探すため、新たな決意を固め、残りのわずかな菌界人を束ね、王様になりました。
伯爵には確信がありました。エレナの体の中で戦った際に、伯爵の魔力が体に染み込んでいるのを確認したからです。伯爵のいた微生物の世界では、魔の力(菌界人の力)を帯びたものは、死後、希に別の世界に行くことがあるという伝説が菌界人にあったのです。人間のエレナも、影響を受けていました。結果としてエレナは記憶をもって生まれ変わり、ハーネイトのいる世界に転生しました。しかし体は人のものではなく妖精になっていました。
エレナはその容姿と世界で起きている事態の影響からかその世界の人間に追われてしまいます。それを助けたのがハーネイトで、彼女は恩を返すため、ハーネイトの仕事を手伝っていました。
そんなあるとき、伯爵もこのアクシミデロという世界の存在に気づき、自身の能力でやって来ました。いつの世界にも微生物がいる。彼らはわずかな微生物があればそこからあらゆる世界に出現できる能力を持っていました。しかし伯爵は旅を続けてもエレナが見つからないことでついに暴走し、たまたま訪れていた人間の街を無差別に壊しまくりました。
たまたまその街が機士国の管轄下にある町で、機士国に仕えて働いていたハーネイトとエレナが駆けつけ、伯爵を止めるため剣を取り戦いました。エレナはその時、ハーネイトのペンダントのなかにいました。
伯爵の強さはやはり桁違いであり、魔獣殺しの異名を持つハーネイトは生まれて初めて死を意識しました。伯爵の放つ微生物に、金属のマントや皮膚の一部を喰われ、力の差の前に、ハーネイトはこれまでかと諦めかけて、地面に腰を下ろしてしまいました。
そんなとき、奇跡が起きました。エレナがペンダントの中から飛び出て、ハーネイトの盾になったのです。それを見た伯爵は、目の前の妖精にエレナの面影を感じ、エレナは伯爵を見てすべてを思い出します。
エレナとこうして出会えたことで伯爵の暴走は解け、伯爵は傷つけてしまったハーネイトに謝りました。そして、エレナの経緯やハーネイトのことについてを聞き、伯爵は彼を、一生かけて守るべき恩人として、一国の王でありながら忠誠を誓ったのです。
この時ハーネイトは、自身を追い詰めた男が仲間になるのに困惑しましたが、エレナもハーネイトを慕い、押しに弱い彼はついに根負けしました。ハーネイトはせっかく会えたのだから水入らずで旅をするといいと言って、二人を見送りました。
2人はアクシミデロを旅しながら、多くのものや人を見てきました。そして如何にハーネイトが多くの人から慕われているか、7回も人類の危機に立ち向かい勝利を収めてきた彼に改めて敬意を払うようになります。のちに、ハーネイトと伯爵、エレナは再会し、共に活動し幾多の戦いを切り抜けていくことになります。その活躍は生ける伝説となり、長らく語られたのでありました。
今回はハーネイトと伯爵、リリーの関係について述べましたが、他にもこうした短編のお話で本編より前にあった出来事と主人公の人間関係について説明をしていこうと考えています。