イレーヌさまの秘密
ヤンデレってこうですか!?分かりません><
「止まれ! 何者だ!」
「我が名は女神アリシエンティフィナ」
「ぬぅ……女神アリシエンティフィナだと!?」
「知っているのかライディーン!?」
「地上に蔓延る荒ぶる神を屠る戦女神。勇者を伴わず、自らの手で天罰を下す。地上に降り立った現神の中でも最も強大なる神といわれる女神が一体なぜ」
「博識な者もいるようですね。話が早いことです」
「ふ! 戦女神! 何する者ぞ!」
「待て! 逸るな新入り!」
「……はぁ!」
「「「!!!」」」
「な、何だ。何が起きた!?」
「わ、分からん。ただあの戦女神がどこからか持ち出したハルバードを振るったかと思ったら……兵士たちが倒れ伏して」
「ま、まさかあれは神気!」
「知っているのかライデx……」
「殺しはしません。リヒトが悲しみますから。ですが私は今、虫の居所が少し悪いので、不用意に近づかれては……ね?」
(((ご……ごくり……)))
「どうしましたか? 来ないのであれば、こちらから行かせていただきますよ」
※※※
「……うわ、振動がここまで伝わってきた……アリシエンティフィナさま大丈夫かな……て、こっちが心配するなんて烏滸がましいってもんだな」
『私が囮になりますので、リヒトは正面に注意が集まっている内にリースリットの用意した侵入経路から』
アリシエンティフィナさまのお言葉に従って何とか侵入を果たし、天井裏に隠れながら何とか様子を窺う。
アリシエンティフィナさまの加護のおかげか、身体はすこぶる軽い。これならいざという時にも逃げるに困らない。
「女一人に何を手間取っているというのだ!」
「その言葉イレーヌ陛下の前でも言ってみろ!」
すたすたと兵士たちが目まぐるしく駆けている。案の定、今、城の内部の守りは手薄くなりつつあると見ていい。
「くっ、あのアリシエンティフィナを名乗る女め、何が目的か。それでも、イレーヌ様は何としてもお守りせねば」
兵士たち、あるいはメイドたちの声に耳を澄まして、情報を探り続ける。
「ところでイレーヌ陛下は今いずこに?」
おっと。ついつい聞き流しそうな声に耳を傾ける。
「ん? あぁ、いつもの通りご自分の部屋に籠っておいでだ」
「そうか……むぅ。御付きのメイドですら立ち入ることを許さぬとは一体何が」
「分からぬ。だが、ちらりと盗み見たというメイドは毎夜夢にうなされ、痩せこけてゆき、ついにはこの城を出ていったとか」
イレーヌ様のお部屋……記憶と一緒の位置ならば、あそこか。
何回、何十回と繰り返し来たこの世界での数少ない思い出の場所だ。間違えるはずもない。早速部屋の様子を……
「……間違えました」
あっれー……? おかしいな。
何かすごい不気味な人形ばかりが床に敷き詰められてたんだけど。しかも揃って黒髪。閉めきられた黒いカーテンで光が入り込まないくせに眼だけがきらりと光って……目が合っちゃったような気がして、逃げ出した。
でもおかしいな。位置的に間違えた筈はないんだけど……もしかして女王になって部屋を変えたんだろうか。有り得る話だ。となるとどうすれば
「……ト…………ヒト…………ヒ……」
悩んでいると、先程イレーヌ様のお部屋と勘違いした部屋から何かが聞こえた様な気がして、耳を澄ませて聞いてみる。
「リヒト……リヒト……リヒトォ…………うふ。うふふふふ」
この声は……イレーヌ様なのか!? でもどうして、こんな部屋を真っ暗にして……ん? アリシエンティフィナさまの加護で鋭くなった五感、さらに夜目も利くようになった瞳が、イレーヌ様の様子を捉える。
そして驚いて声をあげて、反射的に手を伸ばそうとしたところを必死に押し留める。
イレーヌ様の手は血だらけだった。その理由は、闇の中で俺の人形を必死に掘り、あるいは縫い、その王族にはとてもではないが慣れぬ作業の中で何度も彫刻刀、あるいは針で手から血が出ているのだ。
そして、その血を拭うことすらせず、いや、あえて塗りつけるようにして、人形を完成させている。
「あぁ、リヒト。こんなに血まみれで。可哀そうに」
いや……それを言うのならイレーヌ様です。早く治療を……さっきの立体映像だと確か手元は隠れていたから気にならなかったが、まさか、ずっとこんな生活を?
でも、床の人形を見てみるとそこに血の跡が見えない。
この一体だけ失敗? いや、普通は作るたびに上達していくはずだろう? 急に自分で作ってみたくなったのか? まさか……
「今すぐきれいにしてあげます……ん~ちゅ」
すると、出来上がった人形にたっぷりと口づけを交わして、唾液を擦り付け、血を吸いだしている。
「全部……ぜーんぶ私色に染めれば、きっと綺麗になりますから、だから、ね?」
まさか、ここに在る人形すべて、こうして清め(?!?!?)ていったとでもというのか。
「だから、ずっとここにいて。私が閉じ込めてあげますから。私が強くなってあなたを守りますから……だから……だから」
イレーヌさまの頬から涙が一筋落ちて、人形の肌に吸い込まれた。
イレーヌさまのそんな様子を見ていて、俺はもう我慢が出来なかった。
「イレーヌさま!」
「だ……誰ですか!?」
アリシエンティフィナさまの加護は主に戦闘用全般で多岐にわたります