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エロ同人みたいに……はならない

『リヒト・カミナはもういない』


『……う、嘘、です。リヒトは……リヒトは。きっと帰ってくるんです。そして、帰ってきたらリヒトに伝えることが……!』


『あー……残念ながらですねぇ。つい先日、部下から知らせが届きまして。リヒト・カミナの死を確認したと』


『!』


『あぁ、残念なことですなぁ。実に。前途ある若者が命を散らすとは』


『……』


『王女殿下。悲しむことはありません。その心の隙間、私が埋めてさしあげ……』


『うふふふ…………アハハハハハハハハハ!!! アハハハハハハハ!』


『!?』


『なーんだ……結局、この世界に希望なんてなかったんですね』


『お、王女、でん、か……?』


『気安く触らないでください!』


『ひぃ!』


『あぁリヒト……リヒト。仇は絶対に取ります。魔王は、絶対に殺してみせます。その為に私は……』


※※※


「そうして瞬く間にワシの失脚のための材料を集め、権力を掌握し、ワシも暗殺されそうになり、命からがら逃げだしたという次第でありまして、ハイ」


 宰相から聞いたことの顛末はこういうことであったらしい。


「ちなみにあなたがリヒトを殺そうとした理由は何だったのですか?」


「は、あの……イレーヌ王女殿下、いえ……イレーヌ女王は儚げなようでいてどこか芯の強いところがありまして。それを支えているのはリヒト殿の存在でした。それで、その」


「それを失っちゃえば心が折れちゃうだろうから後はどうとでもなると思ってたんだね」


 そんなエロ同人みたいに……はならなかったみたいだけど。


「何と下劣なのでしょう」


「いや弁解のしようもなく」


「まあワタシもちょっと面白いから放置してたんだけど予想以上に影響力が出てるみたいだね。何かに魅入られるみたいにさ」


 確かに。あの声、映像から醸し出されるカリスマ? のようなものにはもはや狂気を感じた。宰相も俺の倍近く生きているだろうにここまで震え上がるレベルだし。


「……なるほど。そのイレーヌという女王は、どうやら覇王の因子を持っていたのでしょう」


 アリシエンティフィナさまは結論を出したようだけれど、その覇王の因子、というのは。


「人間の社会において、英雄というのは必ずしも必要とはされません。過ぎたる力も、暴虐に依るカリスマも、戦も起きず乱れも少ない凪の治世下では無用の長物です。しかし、必要が無いからといってそのような資質を持つ魂が生まれ落ちぬようにするのは輪廻転生の理に外れます。

 そこで神々はそのような魂には楔を打ち込んでいるのです。魂を揺り動かす絶望、哀しみ、嘆き、あるいは見果てぬ希望……そういったものを抱いた時に初めて、その魂の本質が目覚めるように」


 なるほど。つまり、英雄の生まれ変わりとなる人間であっても、平和な世の中ではそれを一生、知ることもなく平穏に日々を過ごしているということですか。


「リヒト、あなたはイレーヌという人間に一体何をしたのですか? その者の死が引き金になるとは余程のことですよ」


「いや、本当に。何かをしたというわけでは無いのですが。ただ、そうですね。リースに色々頼まれて、転移魔法で王女さまの部屋に転移させられたりなんかして色々ご迷惑を……」


「……あの王女さまね。実はかなりの引っ込み思案でさ。リヒト以外の人間と話をしたこともろくになかったんだよね」


「そうだったのか!? いや、じゃあ何でリース何度も何度も事故みたいにイレーヌさまの部屋に転移させてたんだ。着替え中のときとかに遭遇したりして大変だったんだぞ!?」 


「いやーちょうど当時、研究していたことが王女さまの協力があればスムーズに取りかかれるやつでさー。ワタシが頼み込んでもにべもなく断られてたんだけどリヒト放り込んだら王女さま協力してくれるようになったりしてたからさー。つい」


「いやあの当時は大変でした。いくら厳重に王女殿下の守りを固めても掻い潜ってくるので手を焼いていました」


 宰相閣下もうんうんと頷く。そんな裏事情が。


 そうか。俺はイレーヌさまのことを何にも知らなかったんだな。


「アリーシェ。このままだと、イレーヌさまはどうなると思いますか」


「そうですね。今は、腐敗を排し、改革の道へとその腕を振るっているようですが……それもやがて終わった時、歪んだ魂のまま暴君への道を進むでしょう。幾千、幾万の犠牲を民に強いても、リヒトの仇を取るために女子供も、農夫も職人も、全ての民を戦へと駆り立てることになるでしょう」


「だろうね。さすがにこの辺りでどうにかしないとマズいと思ってリヒトを探しに行ったんだよ」


 そういうことだったのか。


「なら、その前に止めないとね」


「そ、そうだ! その為に私と一緒にイレーヌ陛下の元に! リヒト殿が生きていることが分かればイレーヌ陛下の御心も満たされるだろう……そして私も何とか許してくれちゃったりするだろう」


 宰相が必死に訴えてくる。ああそうか、そういう魂胆だったんだ。


「止めておいた方がいいんじゃないかな。死んだと思われた人間がいきなり現れてもまず信用しないよ。ましてや殺そうとした張本人の宰相閣下本人じゃあね。捕まってイレーヌを騙そうとした詐欺師として磔の刑にでもされるだけじゃないのか」


「そんな……! じゃあどうすれば」


「リヒトがそのイレーヌという人間に直接会いに行くしかないでしょう」


 混乱の最中、アリシエンティフィナさまが道を指し示して下さった。


「……とはいえ、それも容易なことではありません。先程、リースリットが指摘しましたが、あなたが直接まみえたとしても閉ざした心は容易には受け入れられることは恐らくない。あなたをただの幻影と、切り捨てようとするでしょう」


 それでも、俺は彼女のことを救いたい。


 そのための危険は、俺が今までどうにか出来なかったことに対する罪だ。


「ですが、英雄たる者を導くのもまた、女神の役目」

そして今、乗り越えられなかった試練を乗り越えるための力を授けてくれる、俺を勇者にしてくれる女神がいる。


「リヒト、私の勇者として、私の役目を引き継いでくれますか」


 アリシエンティフィナさまは切なそうな目で俺を見て、手を握る。


 アリシエンティフィナさまは俺を行かせたくないのだろう。危険にさらしたくないのだろう。守ろうとしてくださるのだろう。けれど、それでも。俺の女神として俺の願いと女神の願いを織り合わせ、導いてくれる。


「心得ました。我が女神。アリシエンティフィナさま」


 手を取り、跪き、女神に誓う。あなたの勇者たらんことを。


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