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これが宰相?

 俺達は宿の部屋を取り、そこで一息つきながら話し合うことにした。


「少し調べてみたのですが、死亡したことになっているリヒトは名誉の戦死として担ぎ上げられその死後、人々を纏め上げる名分として半ば神格化されているようです。まあそのことについては構わないのですが」


 いや構いましょう。アリシエンティフィナさまにとっては当たり前の賛辞であるのでしょうけれど人の身である自分としては余りにも重いです。


「問題なのは、リヒトの自由意思が無いのをいいことに婚姻を交わしていたことです。ええ。それはもう盛大に行ったそうです。リヒトの等身大の彫像を抱いて口づけを交わし、永遠の愛を誓ったそうです」


 何でそんなことに……


「そうですね。魔王討伐を掲げ、最期まで命を懸けた悲劇の英雄……旗印として掲げるのに格好の人格といえるでしょう。あの王女はそれを承知で、リヒトを利用している……」


 アリシエンティフィナさまの考察に、なるほどと頷いた。


「あはは、やだなぁアリシエンティフィナさま。確かにそういう一面もあるのかもしれないけれど、それだけで動ける程、人間っていうのは賢くない生き物だって知ってるはずじゃないか」


 しかしリースはそれを笑った。いや、それ以外にどんな理由が


「え? まさかとは思うけれどこの期に及んでそれを言うのかい? そんなのリヒトを好きだったからに決まってるじゃないか」


「……いやーそれにしたってさー。新しい恋を探したりするものじゃないのかな。女性はそういう切り替えは早いとか聞いたことあるけど」


「どこの情報かは知らないけどそんなものは人それぞれだと思うよ? それに……」


 と、リースが何かを話し始める前にコンコン、とノックの音が響いた。


「誰だい? ルームサービスは頼んでなかったと思うんだが」


「リヒト! リヒト・カミナはいるか!」


 リースの言葉を遮るように聞こえてきた大声を聞いて、驚いた。その声の主はそのまま駆けるように部屋に入って来た。


 薄汚い布で全身を覆ってそこから垣間見えたでっぷりとした体つきを伴った中年の男。その顔は紛れもなく


「宰相様!?」


 何と、俺を葬ろうとした宰相その人だった。


 その時、パリン、と俺達が今まで口にしていたティーカップの割れる音がした。


「……なるほど。その人がリヒトを殺そうとした人間なのですね」


 いつの間にかアリシエンティフィナさまの手にはハルバードが。


「ひ……ひぃ!」


 しかしどうしたことだろう。宰相様の様子がおかしい。いつも威張り散らしていた、自信ありげであった様は見る影もなく、常に何かにおびえるように縮こまっている。


 いや、女神アリシエンティフィナさまを前にして畏れを知らなかったらそれこそ問題だけれど、それにしたって様子がおかしい。


「まあ待ってくれアリシエンティフィナ様」


 しかし、それを止めたのは意外にもリースの声だった。


「どうせもう宰相閣下には何も出来はしないよ。それは当の本人が直接ここに来たことからも分かるだろう? 彼が動かせる人材はもうないんだよ」


 確かに。言われてみればそうだ。


「ま、そんな状況でも中でこんな少ない時間でワタシたちの泊まっている宿屋を突き止めた才覚は認めてあげてもいいけどね……ホントに余計なこと考えなければ有能なのにねぇなまじ有能だから余計なこと考えるのかな」


「それで? リヒトを殺そうとしたコレを生かしておく理由は何ですか?」


 アリシエンティフィナさまのハルバードが、宰相の首筋を撫でる。血は出ないギリギリで、その肌をいたぶり、宰相は恐怖のあまりひぃひぃと過呼吸を起こしている。


「今のこの状況を説明するのは彼の口からってのが一番手っ取り早いと思うんだよねぇなんせ作り出した元凶だから」


 アリシエンティフィナさまはちらりと俺の方を見る。


 確かに許せない。けれど、リースの言うとおり、何があったのか。それを宰相から聞きださなきゃならない。それに宰相がわざわざ俺を探しに来た理由も気になる。後のことはその話を聞いてからでも遅くはないだろう。


「俺からもお願いします。どうか、矛を収めてください」


「……分かりました。リヒトがそう言うのであれば」


 アリシエンティフィナさまは溜息を吐き、ハルバードを仕舞った。


「おぉ……ありがとう。ありがとう。リヒト……いや、リヒト殿」


 宰相は鼻水と涙が混じった顔で俺の胸に飛び込んでくる。いや、本当に何があったら変わるんだここまで。


「ひぃ!」


 そして横からアリシエンティフィナ様の蹴りが腹に決まり、ごろごろと部屋の壁にぶつかって止まった。


「……あぁ、リヒト。いけません。お風呂に入りましょう。さあ一緒に」


 アリシエンティフィナさまの手が俺の胸元に伸びて服を脱がしていく。いや、自分でやりますから。


「それでは私たちはお風呂に入ってきますから。ああそれと……私の不興を少しでも買えばその首、容易に飛ぶこと、くれぐれも心しておくように」


 アリシエンティフィナさまはぎろりと一瞬だけ宰相を睨み、俺に笑顔で部屋に備え付けの風呂場まで促した。


 多分、気絶していると思うんだけど……聞こえてるんだろうか。後、一緒にお風呂はちょっと……


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