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アリーシェと呼んでください(勇者限定)

 色々準備もあるため、今日のところはリースも神殿に泊まり込むことになった。


 夜中、俺は一人、リースの元を尋ねることにした。


「なあリース。よければ教えて貰えないかな? 女神アリシエンティフィナさまのことを。俺は、この世界の人間じゃないから詳しいことは全く分からないんだ」


 リースはマントを脱いで装飾も外し、身軽な格好で俺に応対した。


「んーそうだねぇ。リヒトの質問から察するに直接聞くよりもワタシの口から聞いた方がいいんだろうね。どういう風に人と交わっていたのか。どのような神として人々に信仰されていたのか。多分、そういうことを知りたいのだろうし」


 地上最強の戦女神アリシエンティフィナ。神をも殺す力を持ったその女神は、その強大な力ゆえに神々からも恐れられ、地上に遣わされまま追放された。


「というのは建前で、本当は人間たちの力の及ばない災厄から人々を守るために降り立った慈悲深き女神さまらしい」


「何でそんな建前を?」


「アリシエンティフィナ様の仕事は基本的に汚れ仕事だからね。そう気軽にお願いされても困るんだ。人は人の手で出来る限りの災厄を乗り越えなくては意味が無い、ってのが考えなんだろうね」


 なるほど。何となく分かった。分かった、けれど。何となくすっきりとはしない。だってそれじゃあ、アリシエンティフィナさまの幸せは一体どうなる? もっと人に好かれていいんじゃないかって、そう思う。


「まあそれでもね。そういう建前を乗り越えて、アリシエンティフィナ様に憧れて、女神の加護を得たいと願う人間も結構いるんだよ。ま、実際に彼女の勇者になれたのは、少なくとも私はリヒト以外知らないけどね」


 驚いて顔を見上げた俺を、リースはクスクスと笑っていた。


「異世界召喚は失敗に終わったけどそれ以上の凄いことなんだと思うよ。アリシエンティフィナ様の勇者になれたっていうのはさ」


 そうなのかな。


 アリシエンティフィナさまの勇者にならんとここを目指した戦士たちのことを思って、その存在に少しだけ嬉しくなって、そして誇らしかった。


※※※


「明日は私も一緒についていきます」


 そして寝室に戻った俺をアリシエンティフィナさまが待っていた。


「あなたにはまだ教えなければならないことがたくさんありますから。見守っていなければ、ね?」


 笑顔でそう言われて、確かに俺は未熟者でそう言われては返す言葉もない。


 だというのに、不謹慎にも嬉しいなと感じてしまうのだからどうしようもないな。


「そこで、なのですがリヒト。私が女神アリシエンティフィナであることは隠さなければなりません。故に、仮の名、というか愛称で私のことを呼ぶよう心掛けてもらいたいのです」


「愛称、ですか」


「はい、アリーシェ、と」


 それは、何と畏れ多い。


「あ……」


 口が止まった。まずい。ぐ、何だこの緊張感は。


「ぁ……リ、シエンティフィナさま」


「ゆっくりで構いませんよ」


「あ…………ア、アリー……しぇ、さま」


 何とか吐き出した。ふと目の前を見てみるとアリシエンティフィナさまは後ろを向いていた。


「さ、さまは要りませんよ。旅路では私はただのアリーシェです」


 さらりと無茶を仰いますな。いや、だけどこれもアリシエンティフィナさまの勇者となる第一歩。


「ア、アリーシェ!」


「!! 良く出来ました。リヒト」


 アリシエンティフィナさまが俺を胸元にぎゅっと抱き締めてきた。


「今日はこのまま眠りましょう」


 アリシエンティフィナさまに抱き締められて、全身でその慈愛を感じながら眠りに就いた。


『聞こえておるかのう、リヒト・カミナよ』


 その夢の最中、奇妙な声が聞こえた。あなたは?


『あー、うん。ワシはゼフェリアウス。神の中の神、といったところかの』


 ゼフェリアウス……あれ? どっかで聞いたような気がするけど気のせいかな。


『まあ、アリシエンティフィナの親のようなもんだと思ってくれればそれでよい』


 なんと。アリシエンティフィナさまにはいつもお世話になっています。


『まあ、ワシに礼を言わんとも良いが。それで、なのじゃがな……非常に言いにくいのじゃが』


 何でしょうか。


『……お主の女神、ヤンデレじゃぞ』


 はあ? 何の話ですか?


『あぁ……お主も大概にアレじゃのう。まあだからこそというべきか……ヒエッ』


 うんうん、と唸っているゼフェリアウスさまだったが、いきなり叫び声をあげた。


『これ! アリシエンティフィナ! 違う! 違うから! 余計なこと吹きこんだりなどまだして……止めい! それはいくらなんでも反則じゃろうが! あ! あぁああああああああ!!!!』


 そしてその後は、アリシエンティフィナさまとの幸せな夢を見た、様な気がした。


※※※


 翌朝。


「あれ? アリシエンティフィナ様も一緒に行くんだ」


 リースは意外そうな声をあげながらもそれ以上は追及しなかった。


「リース、アリシエンティフィナ様は世を忍ぶ女神さまなんだからちゃんとその正体を隠すようにね」


「別に誰も信じないって。堂々としてれば大丈夫大丈夫」


「ですね。それよりリヒト。昨日、ちゃんと練習したのですから気をつけないとダメですよ、アリーシェ、と呼んでください」


 納得いかない。



アリシエンティフィナさまは嘘は言いませんがわりと公私混同はします

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