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誘う魔法使いリースリット・アシュティ

アリシエンティフィナさまとリヒトはわりとすれ違ってますがお互いに想い合っています

 翌日、爆音とともに目を覚ました。


「な、何ごと!?」


「無事ですかリヒト!」


 音がしてから数える間もなくアリシエンティフィナ様がやってきた。


「あ、アリシエンティフィナ様。一体何が……うわぷっ」


「リヒト……リヒトォ……」


 アリシエンティフィナ様の胸に抱えられ、その豊満な胸元に埋まってしまう。


「リヒトリヒトリヒトリヒトリヒトリヒトリヒトリヒトリヒトリヒトリヒトリヒトリヒトリヒトリヒトリヒトリヒトリヒトリヒトリヒトリヒトリヒトリヒトリヒトリヒトリヒトリヒトリヒトリヒトリヒトリヒトリヒトリヒトリヒト……」


 あの、アリシエンティフィナ様。大丈夫ですのでそろそろ離れてほしいのですが。


「やはりいけません。このまま私達二人で暮らしましょう。あぁ、二人ではありませんね。リヒト、子供は何人欲しいでしょうか?」


 は? 子供? 幻聴が聞こえたのだろうか。女神さまでいやらしいこと考えてしまうなんて、アリシエンティフィナ様は有り余る慈愛で俺を包み込んでくださっているというのに……!


「やあリヒト。久しぶりだね。元気してたかい?」


 聞き覚えのある声が聞こえたかと思ったら、即座にハルバードが閃く。


「浅い……?」


「うっわぁ。念のために張っておいた防御術式全部ぶっ壊されたよ。何者?」


「あ、アリシエンティフィナ様! 止めてください」


 再びアリシエンティフィナがハルバードを振り上げようとしたのを羽交い絞めにして何とか必死に食い止める。


「あぁ! リヒト。そんなに強く抱き締めてはダメです」


「……アリシエンティフィナ……?」


※※※


 閑話休題。何とか落ち着いて話をすることができ、お互いの事情を把握することが出来た様だ。


「あなたがリヒトを召喚した魔法使い……?」


「そうだね。それであなたがリヒトを保護した……女神さま、なんだね。正直にわかには信じがたいけど、なるほど。道理でワタシの防御を全て貫通するなんて芸当ができたわけだ」


 うんうん、と納得している。


「お初にお目にかかります。ワタシの名前はリースリット・アシュティ。王国宮廷魔術師筆頭? かな。一応。まあこんなものただの飾りだけどね」


 つぶらで勝ち気な玉虫色の瞳に腰元まで伸ばされた黒い髪をたなびかせ、魔女にありがちなとんがり帽子ではなく羽根付きのベレー帽をかぶっている。薄汚れたマントの下はへそ出しのレザーベストと短いパンツでその細くてしなやかな手足を露出するが、そこに身につけられた怪しげな液体の入った試験管、多種多様な言語で書かれた魔術書、髑髏をはじめとしたアクセサリーと色々台無しである。


 魔法使い、というにはいささか活発過ぎるような印象である。しかし、魔法使いというのは世界の真理を探究する旅人に他ならない、と言って憚らない彼女はどこ吹く風か。さすがに祭典くらいは改めるべきではないかといっても聞きはしない。


「それよりダメじゃないか? リヒト。ちゃんと帰ってこないと。君はワタシのモノなんだから」


 リースは気安いさまで俺の頬に触れてくる。さわさわと滑る観察するかのようなその仕草は実は俺を心配してくれたのだと分かる。


 全く相変わらずだなぁとリースの様子を見て、思わず笑みが零れ……た、んだけど、何故だろう。アリシエンティフィナ様の顔が笑顔なのに迫力が半端じゃない。


「いつからリヒトがあなたのモノになったのでしょう。彼は私の大切な勇者です。気安く触れないようお願いしますね」


「ハハハ、それは残念だったねぇ。異世界召喚なんていくらワタシと言えどそうそう出来るものではないから色々ふっかけさせてもらってたんだよ。召喚した人間の所有権は私にある、てね? いや、いい拾いものだった」


 正直この点は助かった。下手すれば奴隷扱いされてもおかしくなかった俺の身分をリースが保証してくれたわけだったから。リースもなんだかんだ言いつつ非人道的な扱いはしなかったし……多少人使いは荒かったけど。


「そうですか。リヒトが私の勇者であるというのは世界に決められた不文律。人が決めた決まりごとなど超越した次元に在ることをゆめゆめ忘れないでくださいね」


「アハハハ……ねえリヒト、神殺しって面白いと思わない? ちょっと興味出て来ちゃったかな」


 何だろう。リースが妙にケンカ腰のような。


「それにしても異世界召喚でチート授かるようなことが無いかと思えばまさか地上最強の戦女神アリシエンティフィナの勇者になるなんてねぇ」


「神の補助も無く異世界召喚を行ったというのには正直驚愕しましたが不完全ですか。まあ、リヒトをこの世界に呼んだことは褒めてさしあげます」


「何なんだろうねぇ失敗の原因なんて全く思いつかないんだけど。リヒトの身体も隅々まで調べても何も出てこなかったしね」


 アリシエンティフィナさまの身体がまた固まった、様な気がした。


「それよりリース、何でここまで来たんだ。イレーヌさまを守ってほしいって言っておいたじゃないか」


「イレーヌ……?」


 イレーヌさま、と言うのはイレーネ・フィン・マックディーン王女殿下。俺の召喚された王国の王女だった。


 リースの保護下で暮らしていた俺は手伝いの為に王城を駆けまわる日々を過ごしていたのだけれど、その過程でイレーヌさまと親しくさせていただいた。何とか力になりたい、とは思ってはいても何の実績ももたない異世界人である俺には何も出来ず『あなたとお話をできるだけで十分です』という儚げな笑みと共に送られたお世辞を前にしては何も言えなかった。


 一時期はリースが俺の魔王討伐の任に付いてきてくれるという話も上がっていたけれどそれを断ったのは、リースに王女さまを守ってほしいからだった。それが何とか通した俺のワガママだった。


 守るというのは、国王が臥せってより国の実権を握り、王女さままで好色な目で見つめていた宰相からだ。何度か王女さまと一緒にいた時に楯突いたこともあったから好かれては無いと思っていたけれどまさか暗殺に至るまで恨まれてたとは。


「……つまり、その王女とリヒトには何もなかったのですね」


「何かって……あぁ、そういえば帰ってきたら伝えたいことがある、と告げられてはいましたが」


 あれは結局何だったんだろう。聞こうにも帰れる状況ではないだろうしなぁ……そういえば王国では俺の生死ってどういう扱いになっているんだろう。


「安心しなよ。リヒトの生死については誤魔化しておいたから。実行部隊の兵士たちをちょちょいと洗脳して、偽物の死体を掴ませてね。宰相閣下は出来れば生け捕りで利用したいとか考えたみたいだねぇ。よかったね。生きたまま捕まってたらそれはもう惨たらしい扱いを受けてたことだろう」


「随分と準備のいいことですね」


「そりゃあねえ。女神さまにとっては発想の外で在らせられるだろうけれどこうなるだろうってことは予想してたからね。だからってわけでもないけど、リヒトのことはちゃんといつも見てたし」


「え? 聞いてないんだけど」


「言ってなかったっけ? でもいいよね。リヒトはワタシのモノだし。中々退屈しなかったよリヒトの旅は」


 文句言っても無駄かなぁ。


「まあね、リヒトに文句言われるのもいい気分じゃないし、ワタシの監視が途絶えたこの辺りに見切りをつけて使い魔を送り込んだりはしてたんだけど全部倒されちゃったんだよね」


「あぁ……あの脆弱な出来損ないのことですか」


「ハハハ、まあそれでも何とかワタシ自身が乗り込むことで何とか接触できたんだよね……そういえば何でか分からないけどどうやっても緩まなかった結界がちょっと揺らいだんだよね。アレが無ければまだまだ時間はかかっただろうけどあれなんだったんだろう」


「……さてはゼフェリアウスですね。余計なことを」


 知らない間にアリシエンティフィナさまとリースとの間には激しい攻防があったらしい。


「まあ王女様の心配はいらないさ。ワタシも宰相にはリヒトに手を出した報復をしようとしたけどその必要もなくなったしね」


 どういう意味だろう。


「ちょっと面白いことになっててね。いや、ワタシとしても正直これは読めなかった。とにかく、王女さまについての心配はいらない……けど、このままじゃ色々とまずいからね。ワタシじゃ止められないしリヒトが唯一、どうにか出来るんじゃないかな」


 俺が?

リースは自覚こそありませんがリヒトのことが大好きです

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