事後処理もそこそこに
「……その方が、魔王だというのですか」
イレーヌさまとの謁見。首輪から繋いだ鎖を引っ張って、リーティアリスさまを寄せる。
「リヒトさん、もう少し強く引っ張っても大丈夫、ですよ?」
「いやいやいや! 何を言っているんですか」
「……そうですか」
リーティアリスさまがしゅん、と残念そうにしている? いやいや、そんなわけはないし。
「イレーヌさま。確かにリーティアリスさまの罪は重いかもしれません。ですがそれは人間の招いた災厄です。償うは私達も同じ、そうではないでしょうか?
これから俺が責任をもってリーティアリスさまを見守ります。もし彼女がまた世界を脅かす存在に成り果てるというのであれば迷いはしません。ですからどうか」
「……それが勇者の判断であれば否とは言えません」
「イレーヌさま!」
「そう言えばアリシエンティフィナさまはどうしたのですか」
あー……やっぱり聞かれるか、と観念した心地で言葉を振り絞る。
「えーっと、その、暫く一人になりたいということで先にお帰りになっているのですが」
「……」
イレーヌさまも絶句である。
「大丈夫なのでしょうか」
「まあ大丈夫じゃないかな。曲がりなりにも女神だし自棄になって世界を滅ぼすとか……無いといいなぁ」
「いや、リース。それはアリシエンティフィナさまにいくらなんでも失礼だろう」
「どうかなぁ。ま、いいや。念のためと言うわけでもないけれど、リヒトがアリシエンティフィナさまを迎えに行くべきだよ」
「は、それはそのつもりだったけど」
「それでそのまま告白すること」
「そのままこく……はぁ!?」
な、何を畏れ多いことを。
「これから先はますますアリシエンティフィナさまの加護が必要……ていう無粋な話は置いておくとして、さ。リヒトだって、アリシエンティフィナさまを憎からず思っているだろう」
「……それは」
でも、何だ。女神さまとしてと言うか信仰の対象と……いや、うん。誤魔化すのは止めよう。そういう感情との区別をつけることは出来ないけれど、アリシエンティフィナさまを愛している。
とはいえ、これは胸に秘めておこうと思っていたんだけど。
「別に今さらだろう。リヒトは人としての弱さも何も曝け出して、それでもなおあの女神さまはリヒトに力を貸したんだろう? そこに今さら愛だの何だのが加わったところで見捨てるわけがないってそのくらい分かってるんだろう?」
それはそうだ。
分不相応な願いを叶えてくれた。あの方のおかげで俺は勇者になれた。その慈悲を今さら疑うわけはない。
けどなー……。
「はいというわけでとっとと行ってこーい!」
リースが俺の背中を蹴って送り出す。