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強敵と書いてともと呼ぶみたいな関係

「イレーヌさま」


 人形を踏みつけることは気にしない。そのまま一直線に。最短ルートでイレーヌさまの元へ赴く。


「い……いや! だ、誰なんです、か」


 泣き叫ぶその姿を認め、そしてそのままその手を握り締める。


「は、放し……」


 握り締めた手が血に塗れていようと気にしない。そのまま、ぼうっと淡い光が生じる。


 アリシエンティフィナさまが俺を救ってくれた治癒術。戦いで傷ついた戦士たちの身体を癒す祈り。俺が救われたそれを、今度は誰かを救う為に繋ごう。


「ぁ……ぁなた、は……うそ」


 イレーヌさまの身体が後ずさり、よろめく。


「うそ……嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘!」


 俺に対し、俺の現身にんぎょうを手当たり次第投げてくる。それを防ぎはしない。ただ受け止める。そんなに柔な鍛えられ方をしていない。傷が出来てもすぐに治る。それよりも今は。


「俺は生きています。だから、泣きやんでほしい」


 抱き締める。その震えが止まりますようにと祈りながら。


「リヒト……夢ではないんですか? 本当に?」


「ええ。ちょっと話すと長くなるんですが……ちょっと女神さまに救われまして。魔王討伐のは、その……まだ、なんですけど」


「そんなことどうでもいいですよ……」


 腕の中に在る身体から力が抜けて行って、同時に震えも止まっていく。


「本当に良かった」


「ただいまです。イレーヌさま」


※※※


「ご迷惑をおかけしました」


 俺とアリシエンティフィナさまにリース……ああそれと、縮こまって恐怖している宰相がイレーヌさまの座る玉座の前で整列している。


「それにしてもリース、そういうことであるのならば説明してくれてもよろしかったでしょうに」


「いやいや。何度も説明しようとしたんだよ? でも聞きゃしなかったから」


「ウフフ、それは失礼しました」


 宰相がイレーヌさまの笑顔を見た途端にヒィ! と叫び声をあげたんだけどさすがに無礼過ぎはしないだろうか。


「あの、イレーヌさま。俺が言うのもなんですが、どうか宰相を処刑するのは待っていただけないかと。この国にとって失うにはあまりにも大きい人材ではないかと思います。今さら何かをしでかす気力もないでしょうし」


「そうですね。確かに、リヒトの言うとおりです。分かりました。リヒトに免じ、罪を償う機会を与えましょう」


「お、おぉおお!! ありがとうごじゃいましゅりひどどのぉおおおおおお!!」


 宰相がまた俺に泣きついてきた。うん。ちょっと権力を握っておかしくなっちゃっただけで根はいい人であったのかもしれない。多分?


「あなたがアリシエンティフィナ様ですね。リヒトからお話はかねがね。リヒトを救っていただいてありがとうございます」


「礼には及びません。別にあなたの為の行動ではありませんから。それより……」


「いえ。夫の命を救っていただいた以上、お礼をするのは妻としての役割というものですから」


「……妻。なるほど。確かに。政略としてはよき判断です。これから魔王を討伐する世界に響く勇者を国に繋ぎとめておきたいという為政者としての務め、感服します。あなたはせいぜいリヒトに余計な心労を与えないよう努めてください。それでもどうしようもなくなった心は私が癒します」


「そうですね。アリシエンティフィナ様はどうか私達を見守っていてください。女神として。人と人との営みというものに女神を巻きこむのは私達夫婦としても、心苦しいので」


「うふふふふ」

「うふふふふ」


 アリシエンティフィナさまとイレーヌさまは笑顔で見つめ合っていた。


 何故か、その視線の強さはまるで長年戦ってきたとものような強い何かが芽生えていて、少しだけ疎外感を覚えたり。いけないな。アリシエンティフィナさまの勇者としてそんなことでは。


「何というリヒトって割と綱渡りな生き方してるよね」


「そうだね。アリシエンティフィナさまから力を授かって、それでどうにかやっていけるようになった。俺もまだまだだ」


「……あー……そういうことじゃないんだけど」


 何だ? 何が言いたいのか? とリースの方を見ても、やれやれと溜息をつくだけだった。


「ま、いっか。退屈はさせてくれなさそうだしね。本当に、いい拾いものをしたもんだ」



これでイレーヌさまの出番は一旦終わりです

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