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地下アイドル弁慶ちゃんはクーデレアイドル義経とともに鎌倉を倒します  作者: 森田季節


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19/21

19 週刊誌とスポーツ新聞

 イベント<爆風祭>に向けて、三人はまた練習の日々を送っていた。

 技術的には何も懸念点はなかった。むしろ、現時点での鎌倉トップ、つまり現役最強のアイドル『シッケンズ』を超えているという評価さえ、プロデューサーの秀衡はしたぐらいだ。


 しかし、そんな中、とんでもない「スクープ」が起こる。


「大変や! えらいことになったで!」

 ふりつけの練習中に社長の吉次が入ってきた。


「なんや、これ! こんなことするわけないやろ!」

 吉次がキレてグラサンをつかんで、壁に投げつけたほどだ。


 スポーツ新聞と週刊誌にこんな記事が載ったのだ。


<さねともみなも襲撃の黒幕は敵対芸能事務所! あの女を殺せと指示>


 記事には「Fプロモーションの社長K氏が反社会組織と関係があるのは有名だ。彼は冷酷にも当時十四歳のアイドルの暗殺を依頼。事件は行き過ぎたファンの行動ということにしろと言ったという」なんてことが書いてある。


 思いきり、藤原プロモーションの吉次のことだ。

 しかも、その記事の続きには「『シッケンズ』をつぶして、『牛若◎』に天下を取らせる計画もある。ここまでの急速な『牛若◎』の成長にはやはり作為があったのだ。」なんてことまで書いてあった。


 別の週刊誌など、『牛若◎』の罪状と称して、ありもしないことが並んでいる。


「ふざけたマネしおって……。私がライブハウスに火をつけちゃって、逃げたこと以外、全部ウソではないか!」

 たとえば、ツアー中、石川県小松市の安宅あたかで弁慶ちゃんが義経を殴りまくったなどと書いてあった。


「義経は会社で馬に乗って社内を荒らしまくったとか書いてある……」

「わたしなんて、誰とでも寝る女って書いてるんだけど……」


 プロデューサーの秀衡もそれを読んで青ざめた。


「普通、こういう記事は週刊誌などから事前に連絡が来るものですが……」

「まったくなかったで……。つまり、最初からつぶすんが目的っちゅうわけや……」


 SNSで調べてみても、すでに異様に拡散されていた。


 もう、<爆風祭>まで日はない。このまま、元からアウェーのイベントに出たら、どんな目に遭わされるか……。


「しょうがないですね……。ひとまず、<爆風祭>は中止ということで――」


「出るよ」

 義経が真面目な顔をして、言った。


「えっ……? 本当に……?」

 弁慶ちゃんも義経の肩に手を置いた。

 義経が出るなら、自分も出る、それだけのことだ。


「私も義経に賛成だ。ここでこそこそ隠れたら、その情報が真実だったと言ってるようなものだ。ここは堂々と出て、私たちの歌を届けるべきだ!」


「まあ、わたしは二人が出るっていうなら、ついていくよね~」


 今更、どんな困難があろうと止まることなどありえない。


 秀衡も「そうでした。皆さんをスカウトした理由を忘れるところでした」と苦笑して言った。


「では、敵地に乗り込んで、鎌倉を滅ぼしてやりましょう!」


 吉次は「グラサン、怖し損や……」と壊れたグラサンを拾っていた。



 だが、それから五日後、もう一つ大きな発表があった。


『さねともみなも』が二年の沈黙を破り、<爆風祭>に出ると書いてあったのだ。


「これ以上ないほどのアウェーになりそうね~」

 気楽そうに静は言っていたが、目は笑っていない。


「むしろ、ちょうどいいではないか」

 弁慶ちゃんは一周して本当に楽しくなってきていた。


 そういえば、昔からピンチは何度も経験してきた。

 その都度、どうにか乗り切って、弁慶ちゃんは生きている。

 生まれる時代が違っていたら、薙刀を振り回す豪傑にでもなっていただろう。


「ここで『シッケンズ』と『さねともみなも』を倒せば、鎌倉は滅ぶ! 大勝負としては悪くない! それに、私たちのやり方は基本的に奇襲なのだ! ちょうどいい!」


 義経は一言も発しなかった。

 いつになく真剣にふりつけのチェックをしていた。

 それを見て、弁慶ちゃんは安心した。最初に出会った頃は、まだまだ頼りないところがあった気がするが、今ならどこからどう見ても最高のアイドルだ。


「なあ、静、お前は自分を本物のアイドルと思うか?」

「なによ、弁慶ちゃん。唐突すぎるよ~。回答次第でフラグ立っちゃうの?」


「で、どう思う?」

「本物のアイドルと思ってるから、わたしは活動を続けてきたし、『牛若◎』にも入ったんだよ。だって、二人とも本物のアイドルだから。わたしと同じものを持ってるとすぐにわかったから」


「だったら、何も心配しなくてもいいのかもしれないな」

「どういうこと? 思わせぶりすぎてわからないよ~」


「もし、『さねともみなも』が偽物のアイドルなら恐るるに足らないし、本物のアイドルならつまらないことはしないだろう」



 そして、<爆風祭>当日がやってきた。

『牛若◎』の楽屋は一番舞台から遠くて不便なところだった。


 それだけじゃなく、あらゆる敵視と悪意が彼女と藤原プロモーションに突き刺さってきていた。アイドルはそういう空気というものははっきりと感じ取れる人種なので、かなりつらい。


 逆に言えば、それでも泰然としていられるとしたら――

 それほどまでに心が強くて、トゲをはじき返せる力があるということだ。


「義経、『さねともみなも』ってお前の姉の娘なんだな?」

「そうだけど」


「じゃあ、お前、立場的にはおばさんか」

「弁慶、嫌い」


 ぷくうと義経は頬をふくらませた。


「あっ、弁慶ちゃん、嫌われちゃった~! つまり、義経ちゃんはわたしのもの!」

 静が、さっと義経に抱きつこうとする。


 しかし、義経は見た目によらず高速で移動して――

 弁慶ちゃんに抱きついていた。


「弁慶は嫌いって言ったけど、離れるとは言ってない」


「そういうことだ、静」


 弁慶ちゃんはドヤ顔で言った。


「はいはい、じゃあ、弁慶ちゃんと一緒になるよ」

 静はしっかりと背中から弁慶ちゃんに抱きついた。静の大きな胸が弁慶ちゃんにぶつかる。


「お前、わざと胸当ててるだろ……」

「そうだよ~♪」


 まあ、これだけの一体感(物理)があるアイドルユニットなら問題などないだろう。


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