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地下アイドル弁慶ちゃんはクーデレアイドル義経とともに鎌倉を倒します  作者: 森田季節


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1 地下アイドル弁慶ちゃん

新連載はじめました、よろしくお願いします! 初の現代物?です。

 その日、広島県広島市の繁華街にあるライブハウスで、ご当地アイドル『れっど・ぽっぷ・か~ぷ』の定期単独公演が開かれていた。


 会場は開始前から熱気で満ちあふれていた。

「まいか~!」「みこり~ん!」とメンバーを呼ぶ声が響き渡る。


 ご当地アイドルとはいえ、彼女達の本拠地、広島市は中国地方最大の都市で人口も多い。

 つまり、ご当地アイドルの潜在的ファンも多い。


 これはご当地アイドルにとって極めて重要なことだ。

 たとえば、人口百人の村でアイドルをやっても、村から動員できる数は百人が限界。

 しかし、人口百万の都市ならば、理論上は百万人を地元だけで動員することが可能!


『れっど・ぽっぷ・か~ぷ』もその追い風を受けて、順調に動員数を伸ばしていた。


 メンバーも心なしか自信を持って、ステージに上がり、自己紹介のMCなどをはさみつつ、三曲をプレイ。

 早くも会場では酸欠で倒れる客が現れるほどの盛り上がりとなっていた。


「みんな~! まいかたちの望み知ってる~!?」

 リーダーのまいか(16歳)が客に尋ねる。


「「武道館!」」

 客たちが声を合わせる。


 メンバーの顔にも英雄じみた笑みが浮かぶ。

 そう、アイドルにとっての夢、それは武道館公演を実現することである。


 無論、その武道館より広い会場もある。アリーナクラス、ドームクラスのアイドルもいる。だが、この日本では、武道館がアイドルのみならず全バンドにとっても一つの到達点であることには変わりはない。


「このまま武道館まで行くよー! 新幹線ののぞみぐらいのスピードでねー!」


 会場は今日最高潮の盛り上がりを見せる。


「じゃあ、ここで定番のあの曲、行っちゃお――――」


 リーダーのまいかの声がそこで途切れる。


 舞台袖に僧侶の服装を改造したような格好の少女がいる。

 普段着ではありえないから、アイドル(こちら)側の人間だろう。


 そして、右手には巨大な薙刀っぽいマイクスタンドを突き立てている。

 だが、何より目立つのは二本のツインテール。


「『れっど・ぽっぷ・か~ぷ』よ、見事な歌とダンス、そしてパフォーマンスだったぞ! そこで、是非、我々と手合わせ願いたい!」


 そのままツインテールの少女はずかずかと舞台の中央にやってくる。

 観客は特別ゲストの登場かと思い沸き立つが、一部のアイドルオタクだけが青い顔をしていた。


「あれは、決闘申し込み型アイドルの『弁慶ちゃん』じゃないかっ!」


 その名前を知っている一部の人間がざわめきだす。


『弁慶ちゃん』とは一種の災厄のような存在だからだ。


 しかし、『れっど・ぽっぷ・か~ぷ』のメンバーは落ち着き払っていた。とくにリーダーのまいかはむしろ、待っていたぞという顔をしている。業界に身を置く者で、その存在を知らない者はいないのだ。


「まさか、あの『弁慶ちゃん』が尋ねてくるとはね。わたしたちも名前が売れてきたって証拠よ」

 アイドルに似つかわしくない腕組みをしながら、まいかは続ける。


「あなたのことを知らないファンのみんなのために説明しておくね。『弁慶ちゃん』は現代アイドル時代における一輪の徒花あだばな。和歌山県の紀伊田辺の産まれ、引越した先の兵庫県姫路市でアイドル活動を始めるも、姫路のライブハウスでほかのアイドルとケンカして、そこで電気機器を破壊してしまったせいで発火、そのライブハウスを全焼させてしまい行方を暗ませた」


 会場からは「無茶苦茶だ……」「すでに人間のクズだぞ……」と声が上がる。


「その後、京都に潜伏し、アイドルのライブにゲリラ的に登場しては勝負を仕掛け、圧倒的な煽り芸で相手アイドルのファンを根こそぎ鞍替えさせて、アイドルを廃業させるという行為を繰り返してきた。実にそれで廃業した子の数は百人を超えるという!」


「それは盛り過ぎだな! 私が廃業させたのは九十九人! 百の大台にはまだ乗っていない」


 会場から「だいたい一緒じゃねえか!」「どっちみちクズだ!」といった声が上がる。


「私、弁慶ちゃんはこれでも仏教系の中高一貫校に通っていてね、つまり一人の仏教者と言っても過言ではない存在なの」

 また、会場から「過言じゃねえか」と声が上がるが、弁慶ちゃんもまいかも無視した。


「そして、仏教の慈悲の心を持つ私は、アイドルなどという浮世の夢から醒めない女の子たちに一人ずつ現実を見せるべく戦ってきたのよ。こんなゲリラライブばかりする限界芸術的アイドルに客を持っていかれるようじゃ、アイドルとして生きるのは、どの道無理でしょう!?」


「ふん! ただのイヤガラセを善行のように語るだなんて、浅はかな女! じゃあ、ここで一曲やらせてあげる。こっちもご当地アイドルとはいえ、武道館を夢見るプロ。実力を正当に評価してあげるから」


「ふふ、後悔しないことね」


 つかつかと弁慶ちゃんはステージの中央にやってきて、止まった。


「では、次の曲を歌うわ。『恋の五条大橋、吊り橋効果!?』」

 観客が「五条大橋は絶対釣り橋じゃないだろ……」と言ったが、聞こえなかった。


●恋の五条大橋、吊り橋効果!?

作詞・作曲 弁慶ちゃん


「どうしよ、恋しちゃったよ、明日の鐘が鳴った時に♪

どうしよ、恋しちゃったよ、欄干から落ちそう♪」


 マイクスタンドを持って、弁慶ちゃんが歌いだす。

 まいかは「なるほど、頭がサビから入るキャッチーな曲で行くってことか」と冷静に分析していた。


「ここで返り討ちにしてあげるわ。そうすれば、『れっど・ぽっぷ・か~ぷ』の勇名も一気に全国区になるってものよ」


 だが、まいかは弁慶ちゃんの異様な動きに度肝を抜かれた。

 というか、むしろ、まったく動いていない。


 マイクスタンドを右手で床に、どんっ! と突き立てた。

 置かれた場所も体のはるか右側なので、マイクの役はまったく成さない。


 そして、そのまま、Aメロを弁慶ちゃんは生声で歌いだした。


「そんな! マイクを使わないですって!? そんなの圧倒的なまでに不利なことをどうしてここで……」


 まいかは混乱した。

 だが、彼女の混乱はさらに増幅する。いや、会場全体が困惑した。


 マイクを使ってないとは信じられないほどの大音声なのだ。


「これ、最初のマイクを使ってたサビより大きな音じゃない!?」

本日は三回更新を目指します。

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