クロスオーバー小説〜聖夜の声は闘いの果てに〜
今回ご協力くださった以下9名の先生方(八雲優一先生、面無し先生、城島廻先生、レモン先生、天城煌哉先生、ksr123先生、シルク先生、颯人先生、超絶暇人先生)そしてこれを読んでくださる皆さん! 本ッッッ当にありがとうございましたっッッッ!!!(あ、ヅラが……)
俺は、ゆったりと博麗神社の縁側に腰を下ろす。
妖怪たちの存続のために、外の世界を取り込んだ幻想郷……『幻夢現郷』にて、中心街の方はクリスマスシーズンで賑やかなんだろうな、と予想しつつ、小さな盃を口に運ぶ。
「こんな日に酒とは、寂しいね」
「お前は……!」
俺は博麗神社の鳥居をくぐってきたその人に驚きつつ、盃を差し出す。
「飲むか?」
「いただいとくよ……と、言いたいところだけど、先ずはあいつを探さないと」
「あいつって……こいつのことか?」
俺は、時空を開いて少年……博麗 海斗を引っ張り出す。
「うげっ」
「霊時空を使った『躱す』トレーニングはどうだったよ」
「あんなんする意味がわかんねえ」
海斗はそう言いつつ、立ちあがってパンパンとズボンに着いた土煙を払う。
「おいおい……こっちは酒飲んでんだから、ここで払うなよ」
「あ、悪りぃ」
「……所で、どうしてこんな日に酒なんて?」
「ああ、今日は……あいつの命日だからな」
俺の言葉に、俺に対して『寂しいね』なんて言った男は、本をパラパラとめくり……それを海斗に見せた。
「……なるほど」
「いまじゃ、俺の唯一の支えは可愛い可愛い孫娘だけだ」
「あれ、霊斗様、お客さんですか?」
買い物から帰ってきて、買い物袋を鳥居の傍に置いた俺の孫娘……霊愛が、俺に問いかけた。
「おお、霊夢そっくりじゃん」
俺に寂しいね、と言った男……シルクは、狐の仮面を外さずにそんなことを言った。
俺はそれに、「容姿はな」なんて答え、再び盃を口に運ぶ。
海斗は、こてん、と顔を傾けた。
「ふー……買い出しにでも行くか」
「もう買ってきましたよ」
霊愛の鋭いツッコミに、俺はズルり、と滑った。
◇◆◇◆◇
「いやさ、こんなん届いてんだよ」
俺はそう言って、霊愛にコンサートのチケットを見せる。
「『ロッヅェ・スカーレット』? 誰ですかそれ」
「いや、それがわかんねえんだよ。だから調べるために、実際に会おうと思って」
俺が霊愛に見せたのは、今話題の音楽家、『ロッヅェ・スカーレット』の独奏コンサートだ。
スカーレットの名があるように、レミリアやフランと血縁がある。
だが『俺の記憶上』、それこそレミリアやフランが生まれる前から現在まで、ロッヅェなんて男は存在しなかったハズだ。
「じゃあ、僕らみたいな存在ってことかな?」
突然話に入ってきたシルクの言葉に、俺はうなづく。
「ああ、多分、お前らみたいな別世界の連中だろうな。最近よく紛れ込んでくるんだよ」
この世界の壁が、大分緩んでる証拠だ。今度、補修しとかないと。
俺はそんなことを考えつつ、ちょっと外れの方にある博麗神社から、中心街に向かって歩み始めた。
◇◆◇◆◇
……なるほど、これがロッヅェの実力か。
人の心を鷲掴みにする、激しくも優しい音色。
一音のタイミングも、音階も間違わず、洗練された音。
その感想で言えば、『凄い』の一言に尽きる。
……まあ、もう終わったんだけど。
拍手喝采の中、ロッヅェが楽屋に行くのを見計らって、先回りする。
幻想郷の管理人の特権で、ロッヅェに接触するのは容易い。
「やあやあ、素晴らしい演奏だったよ。ロッヅェ君」
「……お前は?」
「この世界の、博麗の巫女の代わりだよ。君を、ちょっとしたゲームに招待しようと思ってね」
俺はそう言って、ロッヅェの足下にスキマを作る。行き先は、この幻想郷の闘技場。
「ゲーム?」
「じゃあ……後で」
俺はロッヅェの問いかけを無視し、スキマの中に押し込んだ。
◇◆◇◆◇
「選手は、多い方が盛り上がるだろうし」
俺はそう言って、巨大モニター付き飛行船を発進させ、その画面に俺の顔を映す。
「本日2時より、闘技場にてサバイバルゲームを行う。参加者は、闘技場に」
それだけ宣言し、飛行船をパチンと指を鳴らして消す。
「さて……どれだけ来るかな」
俺は、ニヤリと笑った。
◇◆◇◆◇
「おお、お前もきたのか」
俺が声をかけたのは、前回のコラボにて鍵となった男……名前はまだない。
「お前のこと、呼びづらいな」
「なあ、帰っていいか?」
「えー、ちょっと待ってくれよ……そうだな、今回の闘いに参加してくれたら、俺が呼び名を与えてやる」
「乗った」
俺が男に提案すると、快く承諾してくれた。
「さて……」
俺は、霊愛に差し出されたマイクを受け取り、思いっきり叫ぶ。
『クリスマーース!!!! 楽しんでるか!?!?』
『ウオオオオオオ!!!!』
『クリボーーッチ! 悲しみなんて、この闘いで、吹き飛ばせ!!!!』
『ウオオオオオオ!!!!』
『今回のルールは簡単! 再起不能になるか、降参で負け! カウントダウン、カモン!』
『3! 2! 1! スタート!』
俺は観客の期待通りの反応に満足しながら、始まった闘いを眺める。
「俺の名は、刀哉だ! 名乗りをあげろ!」
「俺は、博麗 霊斗!」
なんだこの場違い感、と思いつつも、俺も刀哉に合わせて名乗る。
刀哉に対し、剣を抜こうとして……抜けなかった。
「は?」
「俺の能力は、刀剣を統べる程度の能力だ!」
「あ、なるほどね」
刀哉は居合の姿勢をとり、俺に向けて、一気に切り放つ。
「……期待はずれ、かな」
俺は刀哉の居合を見切り、手首を思いっきり蹴る。
「う!? 貴様、期待はずれだと? なら、これを受けてみろ! 剣舞『月輪之太刀」
刀哉はそう言うと、俺の懐に潜り込んでそこから円形に斬りつける。俺はそれを半身を引いて必要最小限の力でかわすと、今度は刀を蹴り飛ばし、回し蹴りを刀哉の首に放つ。頚椎を折るくらいの威力は込めたつもりだが……。
ズザザッという音と共に刀哉は地を滑るが、そのまま立て直し……雰囲気が変わった。
「悪いな、こいつを死なせるわけにはいかんのだ」
「待ってたよ」
……今度は刀を抜けた。
魂と肉体が入れ替わったとでも言うべきか。
刀哉の攻撃を受けると、それは見た感じでわかるが、随分と重いものに変化していた。
俺はそれを再び最小限の動きでかわす。
「俺に能力は効かないぜ」
「どうやらそのようだ」
刀哉の攻撃を再びいなし、俺の剣……龍神王武とぶつかる。
「力とスピード不足」
俺はそれをそのまま押し返し、追撃しようとした所で、何やら別の攻撃が遠くから来ているのに気がつき、それを龍神王武で叩き斬る。
「これは……!」
この幻夢現郷にて、銃弾が放たれるのは珍しくない。だが、腕を銃にするなんてのは、なかなかいない。
「外したか……」
◇◆◇◆◇
その銃弾を放った男……ロッヅェ・スカーレットは、片腕の狙撃銃を日本刀に変化させ、霊斗に迫る。
音速の移動。普通の人間だったら、視認することすら困難なそのスピードに対し、霊斗は能力で自分の周囲の時間の流れを加速させ、さらに霊斗の動くスピードを丁度良くなるように上げる。その中でロッヅェに対し、飛び蹴りの構えを取り……時間の流れを戻す。
時間の流れを戻すための補正によって、先ほど加速させた分、時間の流れが遅くなる。
ロッヅェが霊斗の体に、ゆったりと『自分から』突撃してきた。
「ぐ……!」
その瞬間、時間の流れが元に戻る。加速させた分が、無くなったのだ。
計算づくめの一撃によって、ロッヅェは霊斗の能力によって時間が捻じ曲がった範囲外に弾き飛ばされる。
「うらあっ! 」
今度は、回転するマスパが放たれてくる。霊斗はそれを半身をずらすことで避け、居合斬りで一閃。
「そろそろお遊びは……終わりだ!」
霊斗は、空に向かって手を掲げる。その途端、霊斗から発せられる気が戦っている者達を、引き付ける。
その全員が感じていることは、個人差はあれどほとんど同様。
『これはヤバい』
全員一致の感情によって、霊斗への攻撃が放たれる。
が、それは霊斗の使用した無限の結界によって防がれる。
「んじゃ、行くぜ。霊符『夢現の未来』」
霊斗と名のない男を除いた全員が、その場に、倒れこんだ。
◇◆◇◆◇
「あっはっは。悪かったな」
俺はそう言って、苦笑いしながら声をかける。
「悪かったな、じゃねぇよ……」
そう言って溜息をついた刀哉。その力の差を痛感したのだろう、若干霊斗から離れようとしているのが目にわかる。
「まあ、お詫びとして、この世界を案内してやるよ」
「なあ、霊斗、俺の呼び名は?」
「ああ、悪かった。そうだな……終とかどうだ?」
「シュウ……気に入った」
お礼を言った名無し改め、シュウの声を尻目に、俺は闘技場の出口に向かう。
ちなみに、夢現の未来の影響を唯一受けてないのは、シュウだけだ。
「楽しみにしとけよ、お前ら」
俺はついてくる参加者達に向けて、ニヤリと笑った。
◇◆◇◆◇
「ここは?」
「ウチの道場」
俺は今回の出場者の一人である、白谷 磔の問いに答える。
「へ〜……霊斗ってそんなのもやってんだな」
俺は海斗の言葉にうなづきつつ、道場の扉を開ける。
……何やら喧騒が聞こえるな。
「だから! 霊斗を出しなさいって言ってんのよ!」
「まあまあ、エルミーさん。落ち着いてください。気長に待ってましょうよ」
「うっさいわよ! あんた関係ないでしょ!」
「いやいや、僕だって待ってるんですよ」
道場の扉を開けると、いつの日か会った2人が、玄関で話していた。
「おい、お二人さん。中は教え子の邪魔になるから外でやってくれ」
「うるさいって言って……って霊斗!?」
「おやおや霊斗さん、お久しぶりです」
「ああ、久しぶりだな。……何しに来たんだ?」
俺が問いかけると、男の方……羽間 斗間が、女の方……エルミー・イーストファーよりも早く、答える。
「貴方に、謝罪をと思いまして」
「謝罪……? お前がか? 随分な変わりようじゃないか」
「まあ……色々ありまして」
俺の言葉に、斗間はハハハ、と笑った。
「んで、お前は?」
「私? 私は……あんたに会いに来たのよ。前回、ロクなことなかったから、文句いってやろうと思ってね」
「物理的に?」
「勿論!」
エルミーはそう言って、俺に殴りかかる。
「靭符〈サブライトスピード〉」
突如として亜光速になったエルミーの拳。速度に比例して威力は上がり、亜光速ともなればかなりの威力と速度を誇る。
だが、霊斗はそれを敢えて受けた。その瞬間、時間が止まる。エルミーにダメージが入らず、それでいて霊斗もダメージをほとんど受けないくらいの硬さに自分を調整し、背後に『空間の穴』を作る。……羽間斗間を道連れに、霊斗はつぶやく。
「夢の世界へ……ようこそ」
時間が再び動き出した頃には、そこには誰もいなかった。
◇◆◇◆◇
「どこよここ」
エルミーはそう言うと、ズボンに着いた土埃をパンパンと叩いて飛ばす。
「いらっしゃい。地球のような生物のいない星に」
エルミーはそう言って、周囲を見渡す。
「あんた、最近零に似てきたわね」
「それは褒め言葉だと受け取っても?」
「ハア……なんかもう疲れたわ」
エルミーはそう言いつつ、剣で斬りかかる。
俺はそれを霊神剣で受けると、そのまま剣を軸にして回転し、蹴りを放つ。
斗間は……何やってんだあいつ。
「余所見厳禁よ!」
「おっと危ない」
俺はエルミーの顔への突きを上半身を反らすことで回避し、そのままバク転でエルミーの剣を弾きつつ数歩分後ろに下がる。
「まだまだよ!」
エルミーはそう言うと、俺の腹に回し蹴りを決めてくる。
が、俺はそれを腕で防ぎ、そのまま掴んで投げ飛ばす。
「キャッ! 電界〈我王雷〉」
投げ飛ばされつつ、エルミーがスペルを唱えた数秒後、超電圧のかかった、巨大な黒雲が集まる。
「……! これはやばいな」
声を発し、空間の穴を開いた瞬間、超電圧によって透明になった雷が降る。
俺はそれを、空間の中に避雷針を作り出し、雷を誘い込む。
「もらったぜ!」
「んな……!」
「てめェの雷……自分で食らってみろ!」
その空間の穴を、エルミーの真上に広げる。
「あ……! 御雷〈武三日月の巫女〉」
電圧で見えなくなった雷は、数秒のためを置いてエルミーに降り注ぐ。
その威力は、地面すらも削っていく。
透明な雷が消えた瞬間、そこにエルミーはいなかった。
「……死んだか」
「誰が?」
「んな……!」
エルミーに背後から短剣を突きつけられる。その姿は、雷を纏っていた。……スペルで我王雷を纏ったのか。
「……すごいな。だが! 夢幻〈霊時空〉」
俺は、最凶の弾幕が飛び交う空間、霊時空をエルミーの後ろに繋げる。
「嘘ッ! 剣心〈千刃三段切り〉」
エルミーは、超電圧のかかった短剣を亜光速のスピードで弾幕に斬りつける。
必要最低限の弾幕のみを弾いている。
「後方注意ね」
「は?」
エルミーの視点が一転し、目線が地面を向く。エルミーは、俺に蹴られたのだ。それによって転ばされ……彼女は、無数のガトリングガンに撃ち抜かれるようなダメージを受けた。戦闘不能……というか死んだことを確認し、俺は斗間の方を向く。
「やれやれ……今回は戦う気は無いんですが」
「え? そうなの?」
斗間は俺の言葉に、ククク……と笑い声を漏らす。
「今さらですね。謝罪に来たって言ってるじゃ無いですか。それより……なにか、あったんですか? なんか、辛そうな顔をしてるように見えますよ」
「あ、やっぱわかるか」
「ええ。だって僕、魔人ですから」
俺は斗間の言葉に、ポリポリと頰を掻く。
「そうだな……何から話すか。まあ、端的に言うと、今日はあいつの命日なんだよ」
「あいつ……とは?」
「俺の、嫁」
「霊夢ですか」
斗間はそう言うと、何処から持ってきたのか、茶を啜る。
「酷い雨の降る1日だった。ゴメンって、ありがとうって、老けたあいつから死に際に何度も言われたよ。でも……1番キツかったのはあれかな」
「アレ、とは?」
「最後の最後。愛してるって、あいつは俺にそう言って死んだんだよ。嬉しかったけど、毎年この季節は、考えさせられるんだ。俺はそんな良いやつじゃないって。霊夢を騙して、自分を偽ってるような、そんな感覚っていうのかな。それから俺は、霊夢が他の奴に愛し、愛されている世界から逃げなくなった。
俺は何人もの人間に愛され、何人もの人間を愛し、時には霊夢以外と関係を持った。……でも、本当にそれで良かったのか、悩んでるんだよ」
俺がそう言うと、斗間は短く、俺に微笑みを見せた。
「大丈夫ですよ、少なくとも、今まで……いや、これからも、なんとかする力っていうのを貴方は持ってるんです。様々な人を楽しませ、様々な人を助け、様々な人に恵まれ……そんな中で、いつも貴方は誰かの希望になってるんですよ」
斗間はそう言うと、短く切り出した。
「帰りましょう。貴方のいるべき所へ」
「……ああ」
……このクリスマスを終えたら、新しい世界にでも行くかな。
俺はエルミーを治癒して、元の世界への穴を開けた。
◇◆◇◆◇
「なんだこりゃ……」
俺は、道場の荒れ果てた姿を見て絶句した。
所々にこびりついている血痕。
誰もいない、そんなガランとした空間。
「……とりあえず、調べてみるか」
俺は自分の能力を操り、過去を視る程度の能力を追加、調べてみる。
「……なるほど」
〜時は、数時間前に遡る〜
◇◆◇◆◇
「……仕方ないですし、私が皆さんのお相手を致しましょう」
私、博麗 霊愛は自由人である霊斗様の行動に溜息をつきながら、空間からクナイを取り出す。
「何方からでもどうぞ」
「超本気モード2! 俺は佐藤 快! よろしく!」
私がそう言うと、名前を叫びながらグローブをはめ、体から電気を放つ一人の青年が突撃してくる。
「私は、博麗 霊愛です。どうぞよろしく」
私が名乗りながら、快くんの拳を避け……この子、強い……!
「神符〈まだ見ぬ領域〉、霊符〈神撃剣〉」
私は身体強化と光の剣を作り出すスペルで、快くんの攻撃を防ぐ。
「火符〈エクスブロード〉」
快くんが私にフックを決めようとするが、私はそれを半身をずらして足で弾き、そのまま後ろ回し蹴りを顔面に決める。
「ブッ……!」
「私は制限時間があるので、さっさと終わらさせてもらいますよ!」
私はそう言って、スペルを唱える。
「夢幻〈星屑の降る夜〉」
快くんの周囲を、立方体の結界が取り囲み、その上からはたくさんの弾幕が降ってくる。
「チッ……! 大炎符〈デュアルバーナー〉!!」
快くんは結界にもたれかかると、両手を弾幕に向ける。その直後、極太の炎のレーザーが弾幕を飲み込み、結界を突き破った。
「……この技を使うからには私の負けですね。霊符〈夢想封印〉、幻符〈神魔凶〉」
「火符〈メテオアロー〉」
結界の穴から飛び出した快くんは、私に向けて小型の隕石のような弾幕を放つ。
私はそれを相殺するように夢想封印を発動し、さらに闇の剣を作り出す。
それを上に投げ、最後のスペルを発動する。
「鬼神乱舞〈滅王剣〉」
光の剣と闇の剣が交差し、黒と白の剣が出来上がる。それを、快くんに対して振るう。
「始動〈ワンミニッツブースト〉」
しかし、私の最高の一撃はあっけなくかわされ、その圧倒的な速さの脚は私の腹に叩き込まれた。
「ガッ……」
私は、口から血を流しながらその場に倒れた。
◇◆◇◆◇
「あーあ……掃除しないと……」
僕は、霊愛さんが暴れまくった道場を眺め、そう思った。
霊愛さんが倒れた今、この場の責任者は僕になるんだろう。
霊愛さんが相手をした方も、満身創痍といった感じだ。
「なんだ、負けちゃったのか?」
白金のオーラを体から出す、本気モードの白谷 磔さんは、つまらなそうにそう呟いた。
「あ、そうだ、絢斗、霊愛を復活させてくれよ」
「え、ちょっと待ってください。お相手なら、僕がしますよ」
磔さんにそう言い、僕は磔さんから距離をとって構える。
「ふーん……まあいいか。よし、やろう!」
磔さんはそう言うと、たくさんの弾幕を作り出す。
僕はそれを全て弾き、磔さんの頭上を飛び越え、剣で切りつける。
「僕の名前は、神威 豊です。よろしく!」
磔さんは剣をかわすと、スペルカードを使用する。
「乱符〈スピンシュート〉」
磔さんの手から、回転するマスタースパークが撃たれる。
僕はそれを受け流し、下から再び剣で斬りつけた。
しかし、それは磔さんが能力で創り出した二本の地面に刺さった鎌に引っかかる。
「なるほど……!」
僕は磔さんに対して蹴りを放ち、床を転がって立ち上がる。
随分とお疲れのようですが……なるほど、創るには体力を要するのですか。こう言っては失礼ですが、劣化版の霊斗先生の能力ですね。
僕の頭上に、たくさんの弾幕が設置される。
僕はそれを弾幕を設置して相殺すると、磔さんが走り込んでくる。
『ワアアアアオオオ!!!!!』
「な、なんだ!?」
突然声を発した僕の霊剣に驚き、隙ができる。
その瞬間を逃さず、僕は霊剣との僕の体を使わせる『契約』と、スペルを同時に行う。
「『竜符〈竜撃〉ィィィィイヤッフウウウウウゥゥゥゥ!!!』」
僕の腕に、霊剣が召喚した竜の魔力が込められ、それによって竜の腕へと変化した僕の腕は磔さんの顎に命中する。
顎が揺れたことにより、磔さんは脳震盪を起こしてその場に倒れた。
途端、契約とスペルが解除される。激しい痛みが、僕を襲った。
「アアアアアアアア!!!」
僕は、失神した。
◇◆◇◆◇
「はあ……なるほどな。しかし、なんで消えたんだ……?」
俺は納得しつつ、空間に変化がないか調べる。
「お、あったあった。って、これは………!!!」
それは、俺が良く知る人物が起こした物だった。
「さーて……楽しみだ……! あ、そうだ。斗間、エルミーの面倒と掃除、よろしく」
「はあ……仕方ないですね」
俺は斗間の了承を受けつつ、みんなが連れ去られたであろう空間に転移した。
◇◆◇◆◇
「なんだ……霊斗はいないのか。今、この場で一番強いのは……お前だな、神居。相手してもらうよ」
「え……僕か?」
「そう、いいから早く!」
俺……大丈 優一は、俺が暇つぶしのために連れてきた中で一番強いであろう青年に声をかけ、生命力でできた美しき黒い剣、〈泉〉を構える。神居は、突然のことに驚きながらも、発火する日本刀を構えた。
「しかし……ちっちゃいな」
俺が少し挑発すると、神居は戸惑っていた様子から一変、いつか感じた本気の殺意を放った。
「俺が加減するなんて思うなよ」
「お、望むところだ」
一瞬、無音の空間が場を支配する。刹那、先に神居が動く。
「百花繚乱〈乱撃〉ッ!」
俺は神居の威力の高い無数の斬撃を、『全てを見る目』で見切り、泉で叩き落とし、神居の懐に潜り込む。
「しまっ……!」
神居が驚くと同時に、泉の一閃が神居を捉え、斬り裂……くことはなかった。
泉は、いつか見た一本の白い剣に阻まれていた。
「久しぶりだな、優一! 神居、交代!」
白い剣の持ち主は、俺が呼び出そうと思っていた人間……博麗 霊斗だった。
◇◆◇◆◇
俺は、とりあえず神居を投げ飛ばして優一と相対する。
「ああ、ホント久しぶりだ、霊斗」
優一はそう言って、黒い剣を構えた。
俺も弾幕を放つ剣、霊神剣を構える。
共に生命力でできた黒と白の剣は、ほとんど俺と優一の中心で交わる。
その瞬間、空間が「ビキビキッ」と悲鳴を上げ、空気が揺れる。
「手加減か優一! 天下の次元妖怪も堕ちたもんだな!」
「チッ……! 覚醒〈終世者〉」
俺が小馬鹿にすると、優一は藍色と橙色の翼が生え、眼の色も藍色と橙色に変わる。
「大地終焉〈コキュートス〉」
優一が唱えると、地面を氷が覆い尽くし、そのまま離れていた奴らを凍らしていく。
「関係ない奴巻き込むなよ!」
俺が叫ぶと、その氷は終によって、水になって溶けていく。
「こっちは任せろ!」
「恩にきる!」
俺は終にそう言い、優一に対して霊神剣を振るう。
それによって現れた弾幕は、滑らかな曲線を描いて、優一を飲み込まんと襲いかかる。
「甘い! 八式〈無限結界〉!」
優一はそれを破壊不可の結界で防御すると、氷と炎の結界を自らの手に纏わせ、合掌する。
「んな!?」
それによって深い霧が立ち込めると、突然優一が斬りかかる。
俺はそれを霊神剣でガードすると、再び空気が揺れ、霧が吹き飛んでいく。
「うわっ!」
霧が晴れた時、優一の剣は眩い光を放ち、俺はそれに驚く。
優一ほどの実力者がその隙を逃すわけもなく、優一の剣は無慈悲に俺の腹を真っ二つにする。
「……やっと、倒せたか……?」
優一の問題発言が聞こえた時、ある男が能力を使用した。
それによって霊王と呼ばれる男の肉体は、再構築される。
「流石、『あらゆるものを復活させる程度の能力』だな。俺のよりも随分上質だ、絢斗」
「褒めてくれるなら、男じゃなくて霊愛さんがいいな」
「文句言うな。ってことで優一、第二ラウンド」
俺は赤と緑の翼を生やし、手には霊神剣に加えてあらゆる能力やスペルを弾くアイギスの盾を装備する。
「そうこなくちゃな!」
「そうか。夢幻〈霊時空〉」
俺は、優一の返答を聞いて最凶の弾幕が飛び交う空間、霊時空を出現させる。
「先ずは、お前の厄介な結界を破らせてもらう」
「八式〈無限結界〉」
優一はそれを、無限の硬度と数を誇る結界で防ぐ……が、無限結界は一枚ずつ霊時空の弾幕と打ち消しあう。
「あ、霊時空の弾幕にもお前のと同じくらい強固な結界を貼ってるから」
俺が一つ一つ、丁寧に霊時空の中で作ってるんだ。それくらいはできてないと。
無限を破るなら、無限で諸共消滅させればいい。
「くそ! 八式奥義〈エターナル・ブレード〉!」
「切断〈マスターソード〉!」
俺は、霊神剣にありったけの霊力を込め、優一の全ての結界を纏わせた剣とぶつける。
直後、優一の一撃のダメージが半径10キロメートルくらいにまで及ぶ……が、それは終がまたしても消してくれたようだ。
俺が安堵した瞬間、霊神剣がパキン、と嫌な音を立てる。
まさか……このタイミングで折れたのか!?
「よっし!」
優一が俺の折れた剣を見て歓喜する。
「……仕方ないか。希望〈妖神尾王〉」
俺は霊神剣を能力で復元しつつ、次の希望の姿に切り替える。翼は白と黒に変わり、10本の巨大な尾が生える。
「んじゃ、ラウンド3ってことで」
「くっ!」
俺は手元に出現した二本の刀……属性を纏う妖王刃と、無限の硬さを誇る龍神王武を握りしめる。
さすがにキツイのか、優一は怒りをさらに込めて俺に剣を振るが、俺はそれを二本の刀で打ち、尾を一本に纏めてさらにそれを能力で操り、巨大な拳として優一にぶつける。
「ぐあっ!」
優一は地面を滑りつつ、ブレーキをかけて再びこちらに突撃する。
「一式〈炎結界〉」
優一の剣は炎の属性の結界を纏い、俺はそれを炎の属性を付与した妖王刃で受ける。
激しい炎の衝撃は互いにぶつかり合い、爆音と共に周囲一帯を吹き飛ばす。
「五式〈氷結界〉」
今度は氷の結界を纏った剣は、再び同じ属性を持った妖王刃とぶつかり合う。
激しい氷の衝撃は、俺と優一を中心として空間すらも凍結させた。
「転移!」
俺は空間を移動し、能力で発生した氷を操る。
氷は優一が逃げた方向へと追跡していくうちに、巨大な氷の剣に変わる。
「名付けて巨氷剣!」
だが、巨氷剣は優一の『次元を操る程度の能力』により、呆気なく消滅する。
その瞬間、俺は龍神王武を優一に向けて振った。
それによって生じた斬撃は、優一を捉え、追跡する。
優一はそれを紙一重で避け、再び能力で斬撃を消す。
その瞬間。
「捕まえた!」
俺の二本の尾は、優一の肩をがっちりと掴む。
「よーし、覚悟しろよ。妖符〈夢想霊砲〉」
俺の、8本の尾と二本の腕は優一に向けて、マスタースパークや夢想封印に似て異なる一撃を放つ。
「八式〈無限結界〉」
しかし、またしても優一は結界で打ち消した。
そこを、俺は回転しながら、剣を突き立てて突撃する。
龍神王武は、無限結界の丁度中心を捉え、無限結界は崩壊していく。
「この剣には、龍神の意思が込められている。龍神の鱗は、いかなる硬さであろうと貫く」
あっと驚いた優一を、俺は地面に蹴り飛ばした。
キュインと空気を切る音がなり、優一は地面に出来たクレーターの中心にいた。
「楽しい! 楽しいぞ優一! 次でラストだ! 希望〈幻想の勇者〉」
「ああ、霊斗! 俺も楽しい!」
俺に、今までの二対に加えてたくさんの翼が生え、一本の長い尾が生える。
俺の周囲には7つの陰陽玉が回っている。
「光〈王の意思〉」
7つの陰陽玉は回転速度を増し、世界そのものを崩しかねないほどの霊力を持ってしてその霊力を弾き出す。
「ぐ……近づけない……!」
「闇〈王の剣〉」
俺は龍神王武に陰陽玉を融合させ、振りかざした。
「八式奥義〈エターナル・ブレード〉」
優一も、それを打ち返す構えができていた。
「はあああああああああ!!!!」
「うおおおおおおおおお!!!!」
俺の深緑色の剣が、優一の鮮やかな色を纏う黒い剣と交わり合う。
お互いに降り注ぐ、恐ろしい追加効果を、俺たちは互いの能力で消滅させる。
その瞬間、空間が張り裂け、大爆発が起きた。
それでもなお、俺と優一は小競り合いをやめない……むしろ、より鮮烈に、強烈になっている。
先に動いたのは、俺だった。
小競り合いと優一の剣を避けるため、半身を引いてさらに剣をぶつける。
俺の剣が、優一の腕を斬り落として、頭の半分を切った。
その瞬間、俺のスペルによる追加効果は、優一を襲った。
先ず、空間の凍結。さらに、四肢をブラックホールが捕まえ、何本もの鉄の棒によって体中が串刺しになり、激しい光と炎にその身を焼き焦がされている。
「世界終焉〈finaleWorld〉」
突如、優一が呟く。すると、世界そのものが割れていくように崩壊していく。
「や・ら・せ・ね・え・よ! 切断〈マスターソード〉」
膨大な霊力をさらに纏った龍神王武は、凍結した空間ごと、光を、ブラックホールを、優一を、『切断』した。
それと同時に、世界は復元されていった。
◇◆◇◆◇
「かんぱーい!!! メリークリスマース!」
まあ、なんやかんやあって、結局は優一の世界で宴会へと発展した。時間がある奴は、ウチの博麗神社で二次会もやるつもりだ。
「……んでさあ、結局あの人のあの能力はなんだったんだよ。零かと思ったら、それも違うし……」
「ああ、シュウのことか? あれは、『終点を付与する程度の能力』っていうのを持ってるんだ。まあ、極端な話、あいつが本気出したら俺たちは間違いなく勝てねぇ。絶対死ぬ。死ななくても精神を殺されるらしい。あー、怖い怖い。ちなみに、ああ見えて戦闘狂じゃないらしい」
「零の見た目でか?」
「……ところでさ」
俺と優一がヒソヒソ声で話していると、唐突に海斗が話に加わってきて話題の提供をする。
「俺、今回戦ってねぇんだけど……?」
「あ、悪いな。訓練させて終わってたか。誰か、今から戦ってくれる奴いるか?」
俺が大声で呼びかけると、絢斗が名乗り出る。
「俺がやるよ。能力使ってるだけで欲求不満なんだ」
◇◆◇◆◇
海斗と絢斗のために霊斗が作り出した闘技場で、ある者は肉や魚介類を頬張りながら、ある者はビールジョッキを片手に、またある者はワイングラスを口につけながら、海斗と絢斗の戦いを傍観していた。
「うら! 斬符〈刺突〉」
絢斗が、超高速の刺突攻撃をすると、絢斗の通った道には弾幕が配置され、それが一斉に海斗に襲いかかる。
海斗は、そこで霊斗に教えられたことを思い出した。
『いいか、海斗。弾幕には、必ず逃げ道が存在する。上か、下か、右か、左か、あるいは斜めか。そこをいかに早く見つけるかが、弾幕を回避する鍵になる』
『回避できない攻撃は? 例えば、霊斗が本気で弾幕を配置したら、かわせないだろ?』
『それは、一刻も早く弾幕の合間を縫って逃げるか、世界間を移動か、あるいは転移するしかない。それに、それは弾幕って呼べねえ。……チートだ』
『この攻撃は、チートか、弾幕か。……霊時空を避けさせられてた俺なら、避けられる!』
海斗は、右に少し体をズラし、絢斗の刺突を避けると、そのまま左足で絢斗の体を蹴り飛ばす。
「お、教えたことをうまく飲み込んでるな。流石だ」
俺が聞こえないように褒めると、海斗はこっちに向けて親指を立て、グーを握りしめる。聞こえてたのかよ……。
絢斗は走り込み、海斗に対して居合の体勢をとる。
「斬符〈閃光斬〉」
「渦符〈縦向きの渦潮〉」
海斗は渦潮を作って障壁とするが、絢斗は海斗の渦潮を吹き飛ばし、そのまま海斗に一直線に狙う。
が、海斗は知っていたかのように半歩下がると、スペルを唱える。
「魔装〈ロンギヌス-紅-〉」
海斗は真紅の二又の槍を出現させると、それを絢斗に向けて突き出す。
「!! 斬符〈蒼連斬〉」
絢斗はそれを紙一重で回避し、下から上に切り上げる。さらに同じルートを往復し、切ることによって分裂した、たくさんの弾幕が出現する。
海斗は絢斗の背後に回避し、ロンギヌスで突き刺した。
◇◆◇◆◇
「はい、問題です! 今回一番出番が無かった人は!?」
「はい! 俺!」
「正解!」
「ぎゃははははは!!」
酒も入り、みんなが酔って馬鹿騒ぎしているな……と思いつつ、俺はなんとなく空を見上げた。
「……この世界の空も、随分とキレイになったもんだ」
「……どうやら、そのようだね」
俺の呟きに、いつの間にかいた斗間が答えた。
「今回、この世界に来たのは謝罪もあるけど、とあることを伝えるために来たんだ」
「とあること?」
「今までの、博麗 霊夢の死について」
斗間の言葉に、俺はピクリ、と反応する。
「……あれは、明らかに人の手がかかっているものだ。能力で復活させようとしたけど……無理だった」
「そりゃ、そうだろうな」
俺の答えに、斗間は驚いた反応をする。
「……君は、何処まで知っているんだ。この世界の始まりから終わりまで……いや、全宇宙のことを」
「そうだな……あえて言うなら、『全て』知っている」
俺は、そこで盃を空間の穴に落とす。
「……一回だけ、全能神ゼウスと共に、『始まり』と『終わり』の境地に行ったことがある。そこにいたのは……全能神のさらに上、創造神すらも上回る究極の生命体……『イフ』と呼ばれる者だった」
「……イフ?」
「そう、完全究極生命体、イフ。成すすべなくそいつから逃げてきたわけだが、その時、二つの魂と出会った。一つは、博麗 霊夢の魂。天才神童と恐れられたあいつの才能は、イフが完成するために必要だったらしい。そして、イフの元から連れ去ってきた魂が一つある」
俺は、忙しなく動いている一人の少女を、指差す。
「あの娘……博麗 霊愛の魂だ」
ギュッと拳を握りしめて、俺は言った。
◇◆◇◆◇
この幸せは、いつまで続くんだろうか。この時間は、いつまで憶えてられるだろうか。
俺は、そんなことを考えながら、斗間が俺の周囲からいなくなったのを見計らって、呟いた。
「嗚呼……楽しいなぁ……」
俺の頬を、涙が静かに濡らした。
今回のキャラクターは……八雲優一先生より、『大丈優一君』、面無し先生より『名無し君(作中では終と表記)』、城島廻先生より、『ロッヅェ・スカーレット』君、レモン先生より、『神居』君、天城煌哉先生より、『刀哉』君、ksr123先生より、『エルミー・イーストファー』さん、シルク先生より、『博麗 海斗』君、『シルク』さん、颯人先生より、『白谷磔』君、『相沢絢斗』君、『佐藤快』君、超絶暇人先生より、『羽間斗間』君、私、甘味処アリスより『博麗霊斗』、『博麗霊愛』、『神威豊』の、計15人でお送りしました!
コラボ&ご閲覧ありがとうございました!